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レイテ沖海戦
第三話
マリアナ沖海戦は完全な帝国海軍機動部隊の敗北だった。
未熟な搭乗員を多数投入して行われた作戦は米軍の新式レーダー、対空砲火によって“マリアナの七面鳥撃ち”と比喩されるような事態を産んだ。
また敗北によって空母機動部隊としての機能を失った小沢艦隊は今こうして米機動部隊を引き付ける囮としてレイテに向け南下していた。


1944年10月23日 
  フィリピン北方海域

「長官、攻撃隊発艦完了しました」
露天艦橋で攻撃隊を見送っていた小沢冶三郎中将に航空参謀が報告した。
「うむ」
小沢は平静を装っていたが内心ではまだ若い搭乗員達を死なせる為に出撃させなくてはならない事を悔しがっていた。
今は無き山本五十六と共に機動部隊を育て上げた彼としては帝国海軍航空隊崩壊の瞬間に立ち会うことが死んだ山本長官への手向けだと考えていた。
「これで本艦隊は攻撃能力のない本当の囮になったな」
「はい、直援の残りは艦隊あわせて18機の零戦です」
もちろんこの程度の数で空襲を防げるとは思っていない、小沢艦隊は最初から撃沈されるために出撃して来たのだった。それも栗田艦隊がレイテ湾に突入してくれると信じるからである。
ふと露天艦橋から飛行甲板を見ると直援の零戦隊搭乗員が集合して指揮官からの訓示を受けていた。
「辛いですな、日本の未来を背負って立つはずの若者をむざむざ死なせなくては成らない」
「だが、やらなくてはその未来さえなくなってしまうかもしれん」
そういって艦橋に入ると小沢は海図台横にある自らの椅子に腰を下ろした。
「さてこちらの位置は敵にばれている筈だがいつ現れるかが問題か」
海図を見下ろしながら考え込んだ、囮としての役割を果たすため意味の無い偽装電文を乱打し艦位を知らせてある なのに未だに敵は現れなかった。
「もしや敵は昨日のダメージで空母になんらかの損傷を受けたのかも」
「そうであってくれれば良いが」
そして敵の攻撃がないまま既に1時間が経過した時電探見張員が接近する目標を見つけた。
「方位030から接近する目標補足、敵攻撃隊との公算大!」
「直援隊発艦急げ」
航空参謀は直ぐにブリッジを出て発艦を指示した。飛行甲板後部にはエンジンを響かせた零戦隊が準備を終えていた。
「一番機発艦!」
4隻の空母から次々に零戦がそれに上がり迎撃位置いについた。
「敵編隊見ゆ 数80前後 戦爆連合!」
小沢も露天艦橋に出て双眼鏡で確かめた。80機前後の攻撃隊が真っ直ぐこちらに向かってきている。
「全艦取舵反転 これより北方へ離脱する。通信士第2艦隊に打電」
「了解」
通信士は急いで電信室に向かった。作戦前の取り決めで直接の打電は敵に位置を知られる可能性があったため東京の大本営と呉の連合艦隊司令部宛に擬装して打電することになっていた。
「後は栗田艦隊に託すのみだ」
これで小沢の任務はほぼ完了した。後は逃げる降りをして敵を北方に吊り上げるだけだった。だがこの時小沢は事前偵察で得た情報から敵攻撃隊は少なくとも1波が200機前後と予想していたため数の少なさにやや驚いた。もしかあしたら敵艦隊は本当に台風で被害を受けたのかもしれない、だが確認する手段は無いし仮にあったとしてもそれを栗田艦隊に教える手段はなかった。


最後になったが機動部隊――小沢艦隊――の編成を記しておく

正規空母 瑞鶴
改装空母 瑞鳳・千代田・千歳
戦艦   伊勢・日向
軽巡洋艦 大淀・多摩・五十鈴
駆逐艦  桑・槙・杉・桐・初月・秋月・     若月・霜月
航空機  零式艦上戦闘機 18機




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