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レイテ沖海戦
第二話

1941年の真珠湾攻撃から翌年まで数で勝るアメリカ海軍に対して優勢を維持していた大日本帝国海軍は42年6月のミッドウェー海戦で主力空母4隻を一度に喪失し、以後防戦一方となっていた。
そして南太平洋ソロモン海での敗北から徐々に後退をはじめ1944年の6月には絶対国防圏の一角であるマリアナを奪われてしまった。また辛うじて再建が進んでいた機動部隊も正規空母翔鶴・大鳳を始めその殆どを失い機動部隊は事実上壊滅した。
対する米軍は半年と時を空けずに日本の資源輸送の要であるフィリピンに大挙して押し寄せレイテ島を瞬く間に占領してしまった。
これに際して帝国海軍は決して生還を期しえない神風特別攻撃隊を編成した。関行男大佐大尉以下の特別攻撃隊は果敢な突入を行ったが米軍を止めるには至らなかった。

そして帝国海軍は持てる兵力を結集してアメリカ海軍に最後の決戦を挑もうとしていた。


1944年10月23日 
レイテ沖北東 帝国海軍第一遊撃隊

「こう波が高いと軽巡や駆逐艦は辛いだろう」
第一遊撃隊の旗艦大和の露天艦橋で司令長官の栗田健男中将は波に揉まれながらも猛進する艦隊の駆逐艦を見てつぶやいた。
「艦隊内から今のところ漏水報告はありません。大和をはじめ艦隊は優秀な奴ばかりです。長官」
栗田の横には参謀モールを提げ中将の階級証を着けた男が立っていた。それは宇垣纏中将、戦艦大和を旗艦とした第一戦隊の司令官である男だった。
「嵐のおかげでここまでは潜水艦や哨戒機に見つかることなく来られました。後は小沢中将がどれだけ多くの敵を引き付けてくれるかです」
「そうだな、自ら囮役を買って出てくれた小沢さんの為にもこの作戦を必ず成功さえたいものだな 宇垣君」
宇垣はそうですねと言って頷き3ヶ月前の作戦会議での事を思い出していた。


―――3ヶ月前 呉
 連合艦隊司令部第一作戦会議室―――

「そんな 戦艦による殴りこみなどそれが作戦といえるのですか!?」
第2艦隊参謀長小柳少将は司令長官の豊田副武大将に食い下がった。
「そうだ 戦局は悪化の一途を辿りマリアナを捕られた今敵のレイテ上陸は最早時間の問題だ、フィリピンを失えば血液たる石油は絶たれ帝国は滅ぶ そのための作戦である」
「ですが航空機による援護もなく戦艦だけでの突入など正気の沙汰ではありません」
小柳少将は引き下がらず反論を続ける、航空機の援護も無く裸の戦艦で突入作戦など結果は日を見るより明らかだった。
それ以前に貴重な軍艦や兵力を悪戯に消耗する作戦など愚作以外のなにものでもない
「そうです長官 それによしんば海戦に勝利しても連合艦隊を失えば日本は戦うことができません・・・・・・日本は滅びます」
戦わなければフィリピンを奪われ守りの要を失うと同時に南方資源地帯からの補給も途絶える、だが戦って勝てたとしても連合艦隊が戦力を消耗すれば遠からず日本は戦う力を失ってしまう。
「日本は滅びんよ、例え死の淵からでも蘇るのだ鳳凰のように」
そう言ったのは山本、米内とならぶ海軍リベラル派の井上成美中将だった。
「井上中将あなたは戦況を分かっていない、すでに2月の空襲でトラックは基地機能を失いました。マリアナ沖でも我航空隊は一方的に撃破されています。そして半年も経たないうちにフィリピンに迫っています。既に滅ぶのは時間の問題です」
小柳は徹底的に作戦を批判した。
現場の状況を無視した作戦など実行不能であった。
「実は捷号作戦とは別にもう一つの計画がある」
それまで黙っていた大西瀧次郎中将の言葉に栗田達は机に乗り出した。
「それは本当ですか!?」
「まだ話す事はできんが、旭号作戦という名で計画中だ」
豊田大将だった。どうやら栗田達、現場指揮官には知らされない作戦のようだった。
「旭日・・・ですか?」
旭―――日本帝国旗のデザインにもなっている物で海軍の並々ならぬ決意が感じられた。
「黒島参謀を中心に計画中だ、だがこの作戦は捷号作戦の勝利なくしては発動することすらできない、連合艦隊にはなんとしても作戦を遂行してもらいたい それとも小柳少将、君達の第2艦隊ではその任に絶えんかね?」
「う、・・・・・そんな事はありません」
小柳は反論の言葉を失い自分の席に座った。すると豊田は次に小沢中将の方に向き直った。
「そして機動部隊の今回の任務だが」
「待ってください長官」
豊田が言おうとするのを小沢が静止した。
「我が艦隊はマリアナ沖の傷が癒えておりません。搭乗員も未熟な者が多く作戦への参加は不可能です」
そう、すでに帝国海軍機動部隊に作戦を行えるだけの航空機も搭乗員もいなかった。マリアナ沖での敗北はそれだけの傷を残していた。
「機動部隊は本作戦において敵の撃滅を目的としない、第2艦隊がサンベルナルジノ海峡を突破するため敵機動部隊の目を北方に吊り上げてもらいたい」
その言葉に機動部隊の参謀以外にも第2艦隊やその他の司令官達も一様に自らの耳を疑った。だが聞き違いなどでは無く豊田長官はたしかにそういった。
「長官それは作戦を成功させるための囮ということですか?」
参謀達が言葉をなくしている中小沢だけが言葉を発した。
「そういうことだ やってくれるかね?」
小沢は椅子にもたれると腕を組んで考え込んだ
「長官我々の目的はあくまで米機動部隊との決戦 囮などを受けるべきではありません」
「しかし長官この作戦が失敗すれば決戦どころではなくなります」
機動部隊の参謀達は小沢の後ろでザワザワ意見を出し合っていた。
「やりましょう」
「「長官!?」」
何人かの参謀が小沢を止めようとしたが本人はそれを意に返さなかった。
「ただし栗田中将、我々が囮になるからには何が何でも艦隊はレイテ湾に突入して欲しい。その確約が無ければ我々は出撃しない」
小沢は鋭い目で長机の向い側にいる栗田を見つめた。
「はい、たとえ一艦になろうともレイテ湾に突入し一隻でも多くの敵を沈めて見せます」
栗田は力強く頷き返した。
こうして作戦は決定されたがこの後また一騒動あった。誰が艦隊の統括指揮を行うかで意見が真っ二つに分かれた。
「作戦の主力は我々第2艦隊だ!ならば栗田中将が指揮をとるべきだ」
第2艦隊の参謀がそういったなら
「なにを言うか!先任中将は小沢中将だ 当然小沢中将が指揮をとるべきだ」
当の本人栗田と小沢は特にこだわっていなかったが艦隊としてみればどちらが指揮下に入るのかは大きな焦点だった。議論は2時間も続いたが平行線で結論は出そうに無かった。
「もういい」
小沢は一声で議論を止めると
「我々は今回脇役だ わしが栗田中将の指揮下に入る」
「ですが小沢長官の方が先任中将です」
「艦隊がバラバラに戦っては勝てん、それにこの作戦では連携が重要 わしが栗田中将の指揮下に入ったほうが動きやすかろう」
そう言って反論しようとする参謀を黙らせたということがあった。

「小沢中将が指揮下に入ると言った時は驚きました」
「だがお陰で綿密な艦隊連絡と作戦の実行が可能になったわけだ」
栗田と宇垣は北方――小沢艦隊がいるであとう方角――を見て言った。
「長官、小沢艦隊より入電“ワレ之ヨリ作戦ヲ開始ス”です」
通信士が電文を読み終わると栗田と宇垣は再び水平線に目を向けた。
「始まりましたな」
「最早後戻りはできん、進むしか我々には道が無いのだからな」
作戦は始まった。後はどうころぶかそれはこの戦場にいるだれも知らない、いやもし神の手帳などという物が存在しそこに日本軍の敗北が記されているとしても軍人の使命は勝利を目指して努力を惜しまないことである、軍人は運命などというものを考えるべきではなにだろう。そうならば戦う意味がない

最後に第一遊撃隊――栗田艦隊――の編成を述べておく
戦艦:大和・武蔵・長門・金剛・榛名
重巡洋艦:愛宕・高雄・鳥海・摩耶・妙高・羽黒・熊野・鈴谷・利根・筑摩
軽巡洋艦:能代・矢矧
駆逐艦:早霜・秋霜・岸波・沖波・朝霜・長波・藤波・浜波・島風
    浦風・磯風・浜風・雪風・野分・清霜


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