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レイテ沖海戦
第一話
1941年12月に日本軍のハワイ・真珠湾空襲によって始まった太平洋戦は当初、大日本帝国優勢ですすんだが翌年の6月――ミッドウェー海戦――を境に形成は逆転し、連合国有利のまま2年が経過していた。

―――1944年10月 
   フィリピン・レイテ沖―――

開戦初頭に日本軍に占領されたフィリピン、ここには今再び星条旗が翻り沖には作戦を支えるアメリカ海軍の精鋭主力艦隊が展開していた。マリアナ沖での勝利から波にのってアメリカ軍はレイテ島に大挙して上陸、数日で同島を占領するに至った。
 だが上陸作戦自体は100%の成功と言えるほどの戦果をあげたアメリカ艦隊は突如襲来した巨大台風に翻弄されていた・・・・・

「各艦漏水状況を知らせろ!」
第3艦隊司令のウィリアム=ハルゼー大将は荒波に揉まれるレキシントンの艦橋で海図台にしがみ付いていた。
「報告!水雷艇群は半数を喪失! 駆逐隊もかなりの数が転覆しています。護衛空母群も格納庫への浸水がひどくほとんどが転覆寸前です」
受話器を片手に壁にしがみ付きながら通信将校は各艦からの被害を纏めて報告した。
「なんてこった。世界一の合衆国海軍が台風なんぞに・・・・糞忌々しい台風めっ」
ハルゼーはやり場の無い怒りをこめて艦橋の床をけったがその時一際大きな波がぶつかりレキシントンの艦橋が大きく揺れた。
「わぁぁぁぁ」
艦橋にいた参謀達は突然のゆれでみな床に倒れこみハルゼーも艦橋の壁に激しく体を叩きつけられて一瞬意識が飛びそうだった。
「被害状況…報告しろ」
何とか立ち上がろうとしながらも状況を確認しようとした。
「し、司令!飛行甲板が!!」
窓際にいた参謀の一人が艦首を指差して騒然としていた。一体なんだと思ってハルゼーが立ち上がるとそこには悪夢のような光景が広がっていた。
「そんな、まさか 飛行甲板が・・・・・」
空母レキシントンの前部飛行甲板に大きな破口が空き艦首は艦橋からでも分かるほど右舷に傾斜してゆがんでいた。
「司令!左舷前方、バンカーヒル沈没!!」
「なんだと!?」
艦橋後ろの受話器の所にいた参謀が声を上げた。ハルゼー達は慌ててそれまでバンカーヒルがいたはずの左舷を見たがそこには嘗て空母だった鉄の塊が渦潮に飲まれるようにして海中に引き込まれていく姿だった。
「そんな・・・・・」
参謀の中には力なくその場にしゃがみ込む者もいた。
無理も無い沈没したバンカーヒルはその辺の護衛空母ではなくレキシントンと同じエセックス級の正規空母だった。そのバンカーヒルが沈没したということは自分達の乗るレキシントンもいつ沈んでも不思議ではなかった。
「護衛空母サボアランド沈没!!」
「ファンショウ・ベイに総員退艦命令が発令されました」
「軽巡モービルが機関停止、航行不能です」
ハルゼーの元に上がってくる報告はどれも絶望的なものばかりだった。世界に冠する合衆国海軍が自然環境に翻弄されて正規空母でさえ沈没している艦がいる、その原因は米空母に採用されている開放式甲板が原因だった。開放式甲板とは文字通り格納甲板を密閉せずシャッターなどで外部と分けた構造のことで被弾時の耐久性などに長所があった。しかしこの開放式甲板は被弾時に爆風を外に逃がす、つまり外からの暴風や波も艦内に導いてしまうという弱点があった。そして今その設計が災いし高波によって飛行甲板が捻じ曲がりバンカーヒルやサボアランドを圧倒的な浸水量で沈没させたのだった。
「気象長 台風は後どのくらい続く?」
ハルゼーは祈るような気持ちで気象観測科の将校に聞いた。
「予報では今夜2300時が最大で以後勢力は衰える物と思われます」
「後2時間も続くというのか!?」
今でさえ正規空母1隻を失い護衛空母群はほとんどその機能を喪失しているのにその原因はまだ一向に収まる気配を見せない、まさに絶望的な状況だった。
「全艦に被害を最小限に食い止めるよう通達、復旧が不可能と判断した場合は速やかに艦を放棄するよう命令しろ」
「はっ」
通信参謀は命令を受け取ると艦橋下の電信室に降りて行った。そしてコノ後も2時間に渡り第3艦隊は自然の猛威に翻弄されることとなる。

だがこの台風の襲来は、これから始まる史上最大の海戦の序曲に過ぎないとは、このとき神ではないハルゼー達はだれも予想することができなかった。


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あきゅろす。
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