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往年契り
小指と小指を組み合わせ

私は貴方に最愛の願いをここに誓う


《往年契り》


ー…ふと気が付けば、自分の部屋に己とは別の気配を感じた。

「…カノン?」

しん、と静まり返った夜更けは更々に暗く陰りを濃くしていて、窓の外を静寂に変える。

疲れたな…と、自分のベッドに横たわったのは、まだ先程の事。
そう間もなくして、部屋に一つ足音が増えたのに気がついた。

「どうした、こんな夜更けに。もうブースターの調整なら昼間に済ませただろ?」
まだ何か問題でもあったか?
身を起こしてベッドの縁に腰掛けると、並ぶように俺の隣に腰掛けてくる。

「いや、整備の事じゃないんだけど…」
「なら一体何の用だ?明日は試合なのだろう?」
明朝、カノンが今のチームに入って初めての試合が行われる。
試合…といっても練習試合だが、初試合である事には変わりはない。
何だかイマイチはっきりしないカノンの様子に、まさか緊張して眠れないのか?と考える。
楽観的なコイツでも、そんな風に気負い立つ事があるのだろうか。
そんな思案を巡らせて。

「…緊張でもしたか?」
「え?ああ、ひょっとして明日の事?うーん…どうかな、どっちかって言ったらワクワクして身体が疼いてるくらいかも」
楽しみだよな!と夜更けのテンションとは思えない程、明るい笑みを浮かべて見せた。
そんならし過ぎるコイツに、一つ苦笑して。
「本当に…お前らしいな、カノン」
「おう!見てろよ、明日!絶対活躍して勝ってみせるからな!」
ぐっと拳を掲げて、潔い勝利の言葉を約束してみせる。

そんな力強い意志の篭った眼差し……そう、俺がコイツを好きな部分。

「なら結局何しに来たんだ?」
自分の本来の目的を忘れてしまったのか何なのか、へ?と短く呆気とした声を出したカノンが、目を瞬きさせた後、あ、とゆっくり思い出した。
「あー…えーっと、その、あれだよ…」
「わかるかっ。はっきり言え、はっきりと」
いつもの覇気はどうした?と腕組みしてから相手を見遣る。
幼少より兄弟同然に育ってきた仲だ。
今更、何かを躊躇う間柄でもないだろうに。

コチコチと鳴る時針の音と競争するかのようなカノンの唸りは、無音を象徴するような夜には不似合いだ。

「あのさ…これから…俺達色んな奴らと対戦していく訳じゃん?」
「まあ、そうだな」
言わば、明日はそのスタートになる訳だ。
練習試合だからとはいえ、コイツにとってもチームにとっても新たなスタート地点となる。
「それでさ、その…もし試合に勝った時はさ、あー言い方大袈裟かもしれないけど、ちょっとしたご褒美みたいの欲しいなー…って」
「俺が、お前にか?」
「うー…まあ、そう」
「今後ずっと、試合に勝つ毎にか?」
「そう…」
顔の前で手を合わせて、駄目?とおねだりするみたいにお願いしてくるカノン。

いきなり何を言い出したのやら、コイツは。
というよりそんな事をわざわざ夜更けに言いに来る程のものか?
明日だってよかっただろうに。
寝不足で試合中、不調にでもなったら褒美も何もあったもんじゃないだろうが。

「…で?一体何が望みなんだ?」
毎回試合が勝つ毎に…なんて、まあ、コイツが高価なもんを欲しがったり、他人の嫌がる願いなどはしない事くらいはわかっている。
「え、いいのか?」
「まあ…可能な範囲だったら考えてやらなくもない」
途端、パアッと華やいだように目を輝かせる様子は、幼子が親に賞賛された時のあれに似ていて…なんとまあ可笑しい。

「ならさ、勝ったら必ず『おめでとう』って言ってほしい!」
「………は?」
「いやだから、『おめでとう』って…」
…とは言え、これは予想外だった。
もっと違う要求を予想していたのだが、ものの見事にひっくり返された気がした。
さすが意外性の男…と口に出しそうになったのを、唇を塞ぐ事で自身の中に閉じ込める。

「…そんな事でいいのか?」
「ああ!あ、でもそん時はまず俺に1番に言ってくれよ?他の誰にも言う前に、真っ先に俺におめでとうって言って欲しい」
「まあ…それは構わないが…本当にそんな事でいいのか?お前、もっと欲がある事言えばいいものを…」
「え?」
欲…?と小さく零したカノンの顔が、何故かみるみる赤くなって、それを不思議そうに尋ねると、「何でもない!」と勢いよく首を振る。

「ま、お前がそれでいいと言うならな。それくらいの事なら了承してやる」
「本当だぞ?誰よりも1番最初にだぜ?俺は鬼道に1番に『おめでとう』って言ってもらいたいし、お前が1番に言う相手が俺じゃなきゃ嫌だからな?!」
「な…っ、」
何だそれは?!
カァっと、次に顔を赤らめるのは俺の番だった。

まるで独占欲のようだ……と、告白かと思えるカノンの台詞は、包み込んで隠してきた俺の内情を容赦なく刺激してくる。
誰にも見せる事なく内密にしてきたそれを、無理矢理引きはがそうとでもしているのかと思えるくらいに。

額に、頬に、身体に、沸々と血が沸き立つように体温が上昇していくのがわかる。
どんな意図でコイツがこんな事言ったかは知らないが、これじゃあ俺ばかり期待させられているみたいでー…。

「約束だからな?」
「わ、わかった。そんな必死に迫る必要ないだろ…」
内心、揺さぶられて穏やかじゃない俺には、冷静を装って返答するだけでも精一杯なのに。
頼むから、そんな顔を近付けて詰め寄らないで欲しい。
俺はお前に弱いと自負しているのだから。

「……必死なんだから…仕方ないだろ。だって俺が鬼道を1番に想うように、鬼道の1番は俺じゃなきゃ…」
「…?何か言ったか?」
「え、あ、いや、」
そんな風に近くで見透かされるようなカノンの視線から逃げるのでいっぱいだった俺には、何でもない、と焦るカノンが何と呟いたのか…聞こえはしなかったのだけれど。

「なら、お前も真っ先に俺のところへ来いよ?でなきゃ保証できないぞ?」
「当たり前だろ?絶対、真っ先に喜びを伝えにいく!」
当然だと、今はまだ俺が独占できているとびきりの笑顔をこうして向けてくれる事に小さく微笑んで。

いつかは俺から離れて、もっとたくさんの大切なものに囲まれて、向かって行ってしまうかもしれない。
コイツにはそれだけの器が備わっている。

結局のところ、カノンがこんな約束事を持ち出した訳なんて、わかりはしなかったが…でもそんなたわいもない約束事が俺にとっては微かな希望になるかもしれない。

カノンの近くにいた、
そんな証に。


「ー…じゃあ鬼道、約束な」
「ああ…約束だ」


約束をしよう。

この先、貴方が勝利を手にする度に
私は最大の賞賛と喜びを込めて、貴方を祝福しましょう。



『指切り』なんて、子供らしい契りを交わし
闇夜で互いに微かに笑い合う、一抹の笑顔を明かりとした。



契りを紡ぎましょう

まだ交わる事のない
相互への貴重された想いの糧で。



**************

散々言っていたフューチャー円鬼…ようやく文章にできました。長々すみません。

ただこれはフューチャー円鬼というより、カノン→←鬼道曾孫という両片思い文です。まだくっつく前という感じ。
ちなみに、あの日記の妄想が元なので、互いの家が隣もしくは同じ敷地内だと思って下さい。

いや、試合で勝つ度に真っ先におめでとうと言ったり報告し合ったりするのが二人の約束事だったらいいなーと思っただけです。
カノンは勝ったら真っ先に鬼道曾孫のところに直進するといいですよ!そしてあわよくば、抱き着けばいいですよ!

こうやって小さい秘密や約束をたくさん共有していたらいいです!フューチャー円鬼は!
読んで下さってありがとうございました!


2010.6.7

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