ヒトイロ色彩(相互御礼、風鬼)
貴方が貴方という色彩である事が
純愛を向ける最愛の理由なのです
《ヒトイロ色彩》
ひらり、と青が翻る。
空と調和したような青は、あいつが動く度に光の帯のようにキラキラとはためく。
長く束ねた後ろ髪は、サッカーボールを風のように操る動きに合わせて、サラサラと清々しい美しさを放っていてとても気持ちが良い。
また、晴れやかなあいつの笑顔が尚更それを引き立てているのだろう。
…そんな風に、あいつの色を追い掛けるようになったのはいつからだったろうか。
あいつ…風丸一郎太、
煌めく青髪が特徴の人物から、いきなり『好きだ』と告白されたのが数日前。
部活が終わった後、偶然二人きりになった部室で、それは突然に伝えられた。
『俺、鬼道の事が好きだ』
何の前触れもなく、ニッコリと笑ってそう言った風丸。
その背景に見事なまでの夕焼け色を背負い、浮かぶような紅と青が栄えるくらい見事なグラデーションを築いていた。
そんな色彩を纏うあいつが、純粋に綺麗だ…と思った。
呆然と見遣る俺の様子を気にもしないで「鬼道」と呼ぶ声は、透るくらいに落ち着いていた。
…『好きだ』という言葉を、俺は友情感情だと思っていた。
ありがとう、と伝えた俺に小さくフッと笑った風丸にも、おそらく俺がどうとらえたのかわかっていたのだろう。
ゆっくり、ゆっくりとこちらに近付いてきて、その笑顔が近いと思ったその時には、俺は風丸に抱きしめられていた。
咄嗟の事態に身動き一つできなくなった俺に、おかしそうに笑う声が耳元から聞こえる。
そして、また『好きだ』と耳元で呟かれて、初めてその意味を理解した。
視界に揺れる青を見つめながら、触れる温もりにどうしようもないくらい自分の体温が上がったのを覚えている。
…あの時、俺はその告白に対する返事を返せなかった。
ただただ驚くばかりで、言葉にならなかった俺は有り得ないくらいに思考能力が低下していたんだと思う。
そんな俺に、風丸も返事を求めなかった。
あいつも、ただ綺麗に笑うだけで何も言わなかった。
…一つ、この数日間、ふとした時に思い出すように言ってくる言葉は、やはり『好きだ』だった。
偶然階段ですれ違った時、
朝校門前で鉢合わせした時、
部活で休憩中に目が合った時…
何気ない時間に小さな声でそう言うあいつは、とても嬉しそうに笑う。
いつもよりも幼く見えるくらい楽しそうで…何より嬉しそうなあいつの笑顔は、まるで俺に『好きだ』と言う事に満足しているかのように。
…きっと、待っているのだ。
あいつは優しいから。
自分の意志を押し付ける事なんてしないから。
それでいて、何事にも全力で一生懸命だから。
だから、精一杯自分の俺への気持ちはきちんと伝えてくれて、逆に俺が悩む時間を与えてくれる。
ー…同時に、俺があいつを好きになるのを待っているのだ。
甘やかされているようなあいつの言葉が、じんわりと俺の心情を燻る。
(…ーそんなの、俺はとっくに……)
「ーー鬼道っ」
休憩ー!、と声を上げた円堂に続いて聞こえてきた声。
予想通り、こちらへ向かってくるのは先程まで華麗なボール裁きを見せていた人物で。
カラッと澄んだ笑顔にやっぱり青がとても似合っている。
さっきから練習の合間に何度も見とれるように見つめていた青が、好きな笑顔を際立たせているからなのだろう。
……青、
風丸の髪の色。
色なんて、数え切れない程たくさんあって、同じ青でも一緒くたにはできないんだと思う。
青空の青、
海の青、
雷門のユニフォームの青、
どれも青だけれど、それに備わる物が違えば全て印象が異なり、またその色彩の美しさも違ってくるのだ……と。
「鬼道、何考えてるんだ?」
俺の心の中まで覗き込むように見つめてくる風丸の視線。
大切なものを見つめるような柔らかい笑みが楽しそうに細められていく様が、また何とも綺麗で。
そして、そのたいそうな意味を持った視線を向けられているのが自分なのだ…と思うと、反らしてしまいたいくらい恥ずかしくなる。
自惚れのように、大切にされている…と感じてしまうから。
「で…結局何考えてたんだ?」
「……別に」
「ひょっとして、俺の事?」
まったく、嫌な事を聞く。
本当は知ってるんじゃないか、そう思えるくらい図星をつかれた事が何だか面白くなくて、お前の欲しい答えなんかやらないと、子供みたいにごねるように口を紡いで。
でもきっと、隠しきれてはいないのだろう。
事実、自分でも顔に熱がたまっていくのがわかる。
ほらその証拠に、ゆっくりと伸びてきた風丸の両手が、俺の両頬を包み込むように添えられて。
そしてまた、あの笑みを浮かべるのだ。
「違うのか?ちなみに俺は鬼道の事考えてた」
いつも、考えてるよ…と。
比較的、チーム内では大人びた物腰のできる風丸には珍しいくらいの無邪気さで、はっきりとそう告げられる。
それは、ちょっと反則だと思う。
ほんのりと伝わる頬に触れる温もりに、卑怯だと身じろぎしてみせる。
そうすると、またあいつは笑う。
風丸一郎太という人物は本当に狡いくらいに綺麗だと思う。
造りも、声も、言葉も…そして色も。
…青が、また視界で揺らめく。
やっぱり…世の中に色彩はたくさんあるけれど、例え同じ色でも司るものが違えば、やはりその色彩も違って見えるんだな…と思う。
そして、今の俺には一番と言える色は青しか考えられなくて。
それもただの青でなく、目の前で煌めく風丸一郎太の笑顔を際立たせている青であって。
きっとこれが『惹かれてる』って事なのかもしれないな。
「鬼道」
……だから、
「好きだ」
その愛情を向けてくれる婉麗なその人に、想いのたけを全て伝えてやろう。
お前のくれる、その同じ言葉に含めて。
「…風丸」
自分の頬に添えられた手に、更に俺の手を添えて包み込む。
なんて事はない、好意を表す『好き』という言葉に乗せてありったけの想いを込めてやれば、
俺の好きな青を着飾る笑顔が、満悦したように『大好きだ』…と微笑んだ。
貴方を特別なものへと確立させる為に
私は色彩すらも愛しましょう。
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風鬼…大好きです、風鬼。本当にこの二人がいちゃつく姿を書くのが楽しくて仕方ありません。
風丸と鬼道さんはお互い綺麗な色を持ってると思うのです。風丸は髪の青、鬼道さんは目の赤。
そんな部分も含めて惹かれ合っていたらいいなーという願望文です。
あああ、でも百合カプみたいな…という事でしたのに、風丸が可愛くならなかった感が…!どうしてもうちの風丸は男前になってしまいます〜すみません!
でも中学生がいちゃいちゃしてるのは可愛いですよね。
…読み返して思いましたが、これ部活中に堂々といちゃついてますよ…。
相互御礼として、「風丸と鬼道さんの可愛こちゃんズの百合ホモ」でした。
御礼になってないどころか、ご希望に添えてない気がしますが…セイリン様、よろしければもらってやって下さい。
2010.2.2
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