親心(20000hitリク、円鬼+鬼道父+α、ギャグ)
その真意なんて
端からはわからないものなのだ
《親心》
響木は思った。
この、サッカー馬鹿達には最高と言える程の快晴な日和に、突然呼ばれたこの豪邸での話をスルーできたらどんなによかったか……と。
「ーーと、言う訳なんだ。響木さん」
「……はあ」
失礼ながら、返答が軽々しく聞こえてしまうのは勘弁してもらいたい。
本当なら、ため息をつきたいくらいなのだから。
ーそれは突然の電話だった。
いつものように、円堂率いる雷門サッカー部の練習風景を監督としてベンチから眺めていた響木の元に、一人の教師が駆け寄って来た。
「響木さん、お電話ですよ」といいながら息を切らせる教師の言葉に、はて?と首を傾げる。
自分の携帯でも店でもなく学校に自分を名指しする人物に心辺りがなかったからだ。
疑問に思い、誰からか?と尋ねると、それは予想にもしない人物だった。
「確か…鬼道君のお父様からだったと…」
「鬼道の?」
呼びに来てくれた教師から聞いた名前に驚きを隠せず、思わず横に広がる校庭へと視線が向く。
変わらず、円堂達とボールを蹴り合うその特徴的なマント姿を視界に入れて、ふと考える。
ひょっとしたら家庭で何かあったのかもしれない。
多少の不安が過ぎり、響木は職員室へと足を向けたのだった。
…だが、そんな心配を他所に、電話を受けた響木が言われた内容は簡潔なものだった。
『相談したい事があります。できれば内密にお会いしたい』
そう言われた響木には、いきなりの事に内心戸惑いを見せたが。
学校の教師ではなく自分へ相談したい事があると言った時点で、きっと鬼道のサッカー関係の事で何か相談があるのだろう…と解釈して、その話を承諾した。
相手は鬼道財閥のトップ、失礼があってはいけない事くらいは響木も理解していた。
だから後日、学校がある時間に自分から鬼道家へ行くと伝えたのだ。
…思えば、あの電話を受ける前から全てをやり直したい。
響木は深くそう思った。
「……は?」
豪邸と呼べるその部屋に、不釣り合いとも言える声が響いた。
「…ええっと…?」
「だから、息子の有人の学校での生活風景をこっそり隠れて覗き見たいんですよ」
いや、反復して下さらなくとも結構ですよ。
しっかり聞こえてましたから。
てか、俺が疑問に感じたのはそこじゃないでしょう。
響木の頭に、瞬時に過ぎった。
「…何で隠れて覗き見…」
「ありのままの有人を見たいんですよ。響木さん、私はね…恥ずかしながら息子であるあの子の事を何も知らないんですよ。仕事が多忙な故、幼少の頃から影山さんに任せきりで何一つ親子の交流をして来なかった。しかし影山さんの一件があって以来、それでは駄目だと気付かされたんです」
あの一件からその事をずっと考えていたと。
それで、まず息子を知るところから始めようと。
だから、草影や物影から一番鬼道が自分を出せているであろうサッカー風景をこっそり覗き見ようと…。
……成る程。
監督として、教え子の管理をみるのも一関だ。
まして、スポーツはメンタル面も大いに関係する。
家庭内の問題が良好なものになる事は、監督としても個人的にもいい事だと思う。
……だが、何故そこで覗き見の方向へ向かってしまったんだ?
父親として以前にそこは大人として間違ってるだろう。
突っ込みたくとも、立場上突っ込めない響木がいた。
「……で、頼みと言うのは?」
「そう、それでですね。是非一緒に覗き見に協力して欲しいのですよ」
「いや…『是非』って…」
「ほら、最近は学校の警備は厳しいでしょう?不審者に間違えられたら困りますから」
「いや、一緒だろうと何だろうと不審には変わりませんよ」
はあ、とため息を付きつつも、これでこの親子が上手くいくなら……そう思って響木は了承をしたのだった。
…ーで、この現状。
一体俺は何をしているんだ?
地下訓練所で鈍い音を鳴らせて響く機器を遠目に眺めながら、響木は軽く後悔していた。
了承したはいいが、やはり校庭や河川敷ではこっそり覗き見していたら誰かに不審がられそうなので、結局、部員に地下訓練所で練習するように伝えて、その片隅から隠れ見る事にした。
誰に見られる訳でもないが、だからと言っていいオッサン二人が暗い機器の影から覗き見ている姿は不審極まりない。
「協力してほしい…と言っておいて何ですが。監督不在で部は大丈夫ですか?」
「ああ、それに関しちゃ問題ないですよ。その辺は鬼道がしっかりしてますから。息子さん、監督顔負けの指揮力ですよ」
「そうでしょう!有人は可愛いでしょう!」
「…いや、そこまで言ってませんよ」
「私の前では自分の事を『僕』という有人が、『俺』と言う姿もまた可愛い!」
「いや…だから…」
もう立場云々をスルーして、ツッコミ優先にした響木にも全く動じず、息子の姿をほほえましく見つめる鬼道父。
鬼道、お前の親父さん…影山の一件があって以来、何か違った方向へ進もうとしているみたいだぞ?
「っ!?しまった!響木さん、重大な事を忘れていた!」
「え?」
「デジカメを忘れた!あの可憐な有人の動きを逃さず記録して新たに有人メモリーを作ろうと思っていたのに…っ!」
「…」
ああ、成る程。
これが所謂、親馬鹿か。
声には出さず、そっと心の中にしまっておいた。
「ん?時に響木さん。あの有人と一緒に練習している子は誰ですかな?」
「ああ…あれはキャプテンの円堂ですよ」
「おお、あれが円堂君…」
尋ねられて視線を戻した響木は、そこではたと止まった。
そういえば、円堂と鬼道は…確か友人や仲間以前にそういう深い関係ではなかったか?
特にそういう仲だと言われた訳でも聞いた訳でもないが、感は鋭い方だ…二人を見ていれば自ずと響木には察する事ができていた。
はたして、このままこの予想以上に親馬鹿なこの父親が見ている現状を続けていて大丈夫なのだろうか?
ここは監督として…いや、人として「円堂逃げろ!」と叫んでやるべきなんだろうか?
すでに響木の思考は完全にそっちにいっていた。
そして、不安な事ほど的中するもので。
「っ!」
「鬼道?どうした?」
「いや…ちょっと足を捻ったみたいだ」
「え!ちょっと見せてみろよ」
「わ、ちょ、円堂!少し捻ったくらいだ。大丈夫だから…」
「駄目だ!例えちょっとだとしても俺が鬼道の事ほっとけるわけないだろ?!」
「っ!?」
ガッと鬼道の肩を掴み、真剣な顔で鬼道を見つめる円堂と、それをサッと顔を赤らめて見つめ返す鬼道。
本来なら、とてもほほえましい光景…と言いたいところなのだけれど。
「…響木さん」
「な、何ですか?」
「やけにあの二人…仲が良くありませんかな?」
「あー…えっと…」
「やけに密着し過ぎではないですかな?」
気のせいです。
その一言が出ない事を、心の中で深く円堂に詫びる。
「…うーん、よし!赤く腫れてないし…大丈夫そうだな!」
「だ、だから…大丈夫だと言っただろう…」
「だって心配だったんだよ。鬼道、いつも周りを頼らずに一人で片付けちゃうから」
「うっ…」
「何と言われようが、俺は心配するぞ?誰よりも鬼道の事だからな」
「円堂…」
「まあ、怪我したらそん時は、移動には俺がおんぶして運んでやるからな!」
「ばっ!?え、遠慮する!!」
ふいっと顔を背けた鬼道に、フニャと顔を緩めて「鬼道可愛い!」と抱き着く円堂。
「……響木さん」
「な…んですか…ね?」
もはや取り繕えない!
何故か第三者である響木が覚悟を決めた時…
「この場合、嫁的な立場なのは有人の方ですかね?」
「って、ええ?!そういう反応?!まさかそういう反応返ってくるとは思いもしなかったんですが?!」
「確かに有人は可愛い!くっ、円堂君…そこはよくわかっている!」
「いや、だから…反応するべきはそこじゃないでしょう、アンタ!」
「嫁的立場だとすれば、きっと有人が産んだ子は可愛いに違いないが…しかし、有人は私の大事な…」
だから、そんな事聞いてないだろう。
響木は本格的に頭が痛くなってきた。
そもそもアンタ、自分の息子の性別何だと思ってるんだ。
…ともあれ。
「響木さん…」
「ま…まだ何か…?」
「もう一つお願いができましてね。後ほど別な日に、あの…円堂君と有人には内緒で話をしたいので、取り次いでいただけますかな?」
是非…彼と話したい事があるので……と、にこやかに微笑まれた笑顔。
その笑顔の向こうにある隠された意図が何であるかという不安で、生徒の身を預かる監督として…いや、何より良心がある人間としてどうするべきか…。
とりあえず、後で胃薬と頭痛薬だけは用意しておこう。
そう、固く決心したのであった。
…大事な唯一の存在だからこそ
向ける情は膨大なのだ
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ひー、鬼道父がもはや別人ですね。養父さん!
鬼道の日常を聞いてはらはらする〜との事だったので、どんな感じで鬼道父を絡めていこうかと考えた結果、響木監督出してみました。
…全然はらはらしてない気も(汗)そして響木さんが苦労人になっただけな気も…。
円鬼はきっと二人して無意識でかつ、周りからはおおっぴらにいちゃつきそうですよね!むしろそうあってほしいです。
なんか…続きが書けそうな内容になってしまいましたね。
20000hitキリリク、円鬼前提で「雷門へ転入した後、鬼道の日常を聞いてはらはらする鬼道父」でした。
鬼道父がそれを見て好的か逆かどちらに感じるか…と考えましたが。曖昧で終わらせて、ご想像にお任せ…という形にしました。
稲霧様、完全なギャグになってしまいましたが(汗)リクエストありがとうございましたです!
2009.12.01
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