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お伽草子(神谷様6万打祝い、円→←鬼+雷門二年生)
お伽話の断片を

紡いで読み聞かせよう


《お伽草子》


気が付いたら、その姿を目で追っていた。

必死にフィールドを走る姿を視界に捕らえ、何気ない仕種に魅入り、ふと時折見せる笑顔にドキリと高鳴り。

誰かを好きになるって、そういった何気ない事から始まるものではないか。
いつもどこからやってくるかもわからない感情……それが恋情なのだ。

もちろん、そのきっかけは人の数だけ存在しえる。
時も場合も状況も。

そして…その初なまでに恋情に無知な少年の恋心を自覚したきっかけが、たまたま触れ合った手の温もりであった…。
ただそれだけの事だった。


ー…しかし、
その雷門中サッカー部キャプテンと呼ばれる少年から、そんな話を聞かされた幼なじみの青色の少年には、驚き固まるには充分過ぎる話だった。



「……で?これは何の集まりだ?」

数日後の、空が鮮やかに変わる夕刻より少し早い時間、ため息まじりにあの青髪の少年がそういった。

追って説明すると、その日…雷門中では放課後に各種委員会会長会議があって、各委員会会長になっている生徒は部活を休んでそちらへ出ていた。
鬼道を初め、木野などそういった会長の役職についた生徒もそちらへ取られていた為、普段より早めに部活を終わりにする部活動が多かった。
サッカー部も鬼道達だけでなく、今日は響木監督も店の関係で部活に顔が出せない事もあって、同じように早め早めに部活が終了した。
部活が早めに終わったせいか、どこかへ遊びに行こうと話し合いながら部室を早々に後にした一年生達を視線で見送った後、二年生しか残らない部室で、ふとマックスが「たまには皆で語らいをしよう」…なんてわざとらしい提案をしたのだった。
そうして、押しの強いマックスにつられるままやってきたのがこのファミレスだった。
それが、今の現状。

「何って…やだなぁ風丸、語らいって言ったじゃないか」
「マックス…お前がそういう癖のある言い方する時は、何かある時だ」
ドリンクしか並ばないテーブルの上で、カランと氷が崩れる音がした。
それを背景にニッコリ笑うマックスに、再度呆れたようなため息をつく。

「いや、ただちょっと皆で悩み聞いたり言い合ったりする時間がたまにはあってもいいんじゃないかなーって。例えば円堂の鬼道への恋愛話とか」
「ゴホッ!?」
飄々と言い放った言葉に、咳き込んだのはもちろん円堂その人。
一人咳き込んむ円堂を横目に、あーあ…と周りは苦笑して。

「てかマックス…それが目的だったんだろ…」
「まあね。だって半田だって皆だって気になってた事だろ?」
「……て…いうか…な、何で皆知って…?!」
可哀相に、と同情してくれた半田を始め、自分に視線を向ける周りのメンバーに驚きの表情を見せる円堂。
自分ですら数日前にようやく自覚して、その感情の話は唯一幼なじみの風丸にしかしてなかったというのに。

「だって円堂って、わかりやすいもん」
「まあ、あれだけいつも鬼道の事ばっか見て、いつも鬼道の話ばっかしてればな…」
「う、え?お、俺そんなわかりやすい?!」
「フフフ…素直さがそのまま行動に出てるからね」
影野の言葉に、揃えたようにコクコク頷くメンバーを見回して、途端に羞恥にかられる。
「で、でも風丸この前、その話したら驚いてたじゃん?!」
「俺が驚いたのはお前が自分の恋情をちゃんと気付けた事に対してだよ」
お前ならそれが恋だって気が付きもしないんじゃないかと思ってたと指摘されて、ますます顔や身体に熱が立ち込めていくのがわかる。
きっと今、目の前のグラスを手にしたら、その中で緩やかに浮かぶ氷が一瞬にして溶け消えてしまうんじゃないか。
…そう思えるくらいに、羞恥の熱が。

「ま、安心しなよ。鬼道は鈍いから気が付いてないよ」
「俺もわからなかったけどな」
「染岡は鬼道や円堂並にそういった事に鈍いからだよ」
円堂本人を余所に好き勝手に話をする周りに、いよいよ縮こまる円堂の隣で、またおかしそうに豪炎寺が笑った。

「で?どうなんだ?実際」
「どう…って?」
「告白しないのか?」
さらりと簡単に言ってくれる。
円堂はそのエースストライカーに批難の視線を飛ばすも、得意げな笑みで軽く跳ね返されてしまう。
「…そんなの、鬼道は友達で仲間だし。いきなり男同士で友人にそんな事言われたら…鬼道、絶対困るに決まってる」
「あれー?意外と恋愛には消極的だね?」
「…こらこら、あまり追い込んでやるなよ、マックス」
苦笑いな半田のフォローがあっても、マックスの言葉が事実過ぎるだけに、返す言葉も見付からない。
それだけ普段、天真爛漫で元気を象徴したようなサッカー少年にとって、恋情というものがどれだけハードルの高い壁であるか…面白い程にありありと伺える。

「…円堂、実は鬼道もあれで鈍い上にわかりやすいところがあるんだぞ?」
突如、何やら意味深に話を始めた豪炎寺。
興味を惹かれたように、ゆるゆると向いた円堂のらしくない情けない顔に、また小さく笑って。
「少し前から…鬼道も同じように悩んでいた節があってな。問いただしたら、やっぱりだ。誰であるか…とは言わなかったが、あいつも気になる相手…いるらしいぞ」
「え…?!」
「おいおい豪炎寺…追い撃ちかけるなよ」
この世の終わりみたいな顔を見せた円堂を見兼ねた染岡が、あーあ、と同情の念を呟く。
「まあ待て、話は最後まで聞け。鬼道言ってたぞ。そいつはいつも俺達の中心にいて俺達を引っ張ってくれて、明るく人一倍お人よしでお節介で、そいつのおじいさん以上に真っ直ぐな信念を持ったサッカー馬鹿…だそうだ」
「え?!誰?サッカー部の奴か?あ、もしくは他校の奴??」
「「「……」」」
「…そうきたか」
「ここまでくると、むしろ大いにお前を拍手してやりたくなるよ…」
さすがはサッカー馬鹿・円堂守と言ってやるべきなのか、疑問詞を浮かべて無垢な表情を突き付けてくる円堂に、豪炎寺は目眩に似た脱力感を覚えた。
何だかもう、この鈍さはお手上げに近いな…と。

「…まあ、とりあえず告白してみたらどうだ?」
「簡単に言うなよ風丸…。それでもし鬼道とぎくしゃくするような事になるのも…まして今みたいに楽しくサッカーできなくなるのも嫌だし」
何事にも、猪突猛進な奴だと思っていたのに、案外こういった事には奥手になるんだな。
それとも…それだけ、あの眉目秀麗なゲームメーカーの少年に惚れ込んでいる証拠なのか。
うなだれる幼なじみを傍目に、やれやれと苦笑する風丸。
いまひとつ、恋情に関しては前進していこうとしない少年に、待ち切れないとばかりに早々にグラスの中で溶け消えた氷を見習って欲しい…そんな事を考えたのは、青色の彼の中だけの秘密だが。


「…ねえ円堂。昔さあ…小さい頃読んだどっかの国の童話の話なんだけどさ」
突然、切り替えられたかのようにマックスの口から始まった話に、円堂だけでなく、皆の視線が集中する。
「なんか…実話を元にした話らしいんだけど。ある小さな国に住む青年の街に、帝国と言われる大都市から移住してきた貴族の娘が恋するって話」
ざわめきの多いこの店内で、この時分だけ少年達の耳から語る少年の声以外取り払われたかのように、いつの間にか皆その話に集中していた。
「二人は両想いだったけど互いにその事を知らなくて、二人して奥手で告白できなくてさ。そうやって時間を延ばし延ばしにしていて、かなりの月日がたってからようやく青年が決心して告白しに行った時には、既に娘には親が持ってきた縁談が決まってて、手遅れになっていて」
「で、実は両想いだったけど、もう手遅れだと知った娘と青年はその日からぎくしゃくしちゃって、それに堪えられなくなった娘はまた帝国都市に帰っちゃって、二度と二人は会えなくなっちゃった……みたいな、簡単に言えばそういう話があったらしいよ」

バン!と机に手を付いて、勢いよく立ち上がった円堂。
その表情は、切羽詰まったような…何かを考え込むような色が伺えた。

「……ちなみに」
円堂がその不安げな面持ちのまま、ゆるゆると声の主である豪炎寺の方を向くと、豪炎寺はニヤリと不敵に笑って見せ。
「委員会会議、確か今頃終わるはずだから、今行けばまだ鬼道は学校にいると思うぞ?」
活路を示してくれたような言葉に、円堂はようやく覇気を取り戻して、

「ありがとう!」

そう言い残して勢いよく走り出ていった。

ここから学校は、そう遠くはない。
きっと、間に合うだろう。



「……なあ、マックス」
嵐のように過ぎ去った少年がいなくなってすぐ、また当たり前のような店内のざわめきが戻ってきた。
「何?風丸?」
軽く返事をした帽子を被った少年が、ストローを加えたまま、グラスに残るジュースを吸い上げる。
炭酸がすっかり抜け切ったそれは、喉を潤すには少々味気無い。

「さっきの話…何て童話だ?俺は聞いた事ない話だったけど」
「さあ?僕も知らない。だってさっき適当に考えた話だもん」
「「「はあ?!」」」
風丸と染岡と半田の声が、一斉に揃った。

「今一歩前進しない円堂にささやかな後押しだよ」
「よく出来た話だったよね〜」
「褒めるな影野…」
独特の雰囲気で笑う影野と呆れたと言わんばかりの半田におかしそうに笑うマックス。

「『帝国』都市っていうところが、鬼道を連想させるでしょ?」
「悪どいな…意外と」
「そういう豪炎寺だってちゃっかり鬼道の居場所へ促してたじゃない」
まあな…と、悪戯に笑う豪炎寺もまたクールな普段の性格とは別に、子供みたいな一面があるのだ。

「でもさ、世界は広いんだから…そういう話の一つや二つあってもおかしくないんじゃない?」
「…そうかも…な」

広い世の中で、恋情は人の数だけ存在する。
そして、その恋情の先の結末も…また。
一頁一頁、頁をめくるたびに物語が進んでいくように…。


この、小さな町に住む少年と帝国から来た想い人は、互いに密に想い合い。
その二人は人一倍恋情に疎くて、あまりにもお互いを気遣うばかりに、なかなか想いを繋げられず…。

ー…ただ、あの話とたった一つ違うのは。

この少年は、手遅れなんかになるよりも早く、かの想い人の元へ想いを届けに走っていけた事。
きっと今頃、その想い人は突然渡された告白に、顔を真っ赤にしているに違いない。

そうして、通じ合う二人は幸せそうに笑い合う。
この話の先にあるのは悲恋なんかじゃなく、きっとハッピーエンドだ。


…そんな、架空の童話の最後の頁を閉じて。
思い浮かべた親友二人の笑顔を想像しては、皆各々に笑う。

「あーなんか心配したらお腹空いちゃった」
「なんか注文するか?」
「いやあ…雷雷軒行こうよ。人の色恋沙汰なんて甘ったるい話聞いてたから、しょっぱい物ガッツリ食べたくなっちゃった」
「はは…」


ーさて。
明日、学校であの二人に会ったら、腹いせと言わんばかりにどんな風にからかってやろうか。
あの純粋な二人は、どんな面白い反応を見せてくれるやら。

各自、そんな事を考えながら赤らむ空の下、歩き出した。


空は、隈なくよく晴れている。
きっと…明日も晴れるだろう。



物語は永遠に続く

誰かの為に願う幸物語を
ずっと願い続けたいと思った。



**************

ひええ、全く鬼道さんが出て来ない話になってしまいました。おかげで、ちゃんと円鬼になっていますか不安です…が。

両片想いのじれったい円鬼をくっ付けようと頑張る周りの方々のお話…という事で、周りは雷門でも帝国でもイナズマジャパンでも好きなのでいい…とおっしゃっていただけたので、雷門一期メンバー(二年生)にしました!帝国もイナズマジャパンも好きですが、やはり書くなら一期メンバーでいきたかったので!
風や豪だけでなく、マックスとか一期メンバー皆書くの楽しすぎます!

じれったい円鬼…でしたので、円堂さんにちょともだもだしてもらいました。
神谷さん、六万打おめでとうございます!これがお祝いになれば幸いです。


2010.11.1

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