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興味の方程式(豪鬼)
移り変わる興味なんて

不必要だと思っていた


《興味の方程式》


ー…羅列されただけの文字など

全くの興味の対象にはならなかった。



ノートの端からズレて触れたヒヤリとした感触。
木目彫のその広いテーブルは、見た目の温かな印象とは違い、やけに体温を奪われる感じがした。

でも、そんな事を考えるのはほんの一瞬の事で、俺は先程から変わらずある一つの存在に心を奪われていた。



ーー某日、雷門中にも他校と変わらず期末テストというものが存在する。
義務教育中の俺達にかせられた試練、…そんな風に捕らえているんじゃないかと思えるような顔を見せる円堂始めサッカー部の面々の顔が目に浮かぶ。
勉強を苦手とする円堂や一部の皆にはさながら過酷な試練みたいなものなのだろう。
ここで悪い点でも取ったものなら、あの雷門夏未に部活をさせてもらえるかわかったものじゃないから、皆面白いまでに必死なのだ。

かくいう俺は別に特別『秀才』というほど頭はないが、とりわけ点数が悪いわけでもない。
確かに部活や入院中の妹の事など色々あるが、それなりに勉学も怠ってはいないつもりだ。
とはいえ、俺もテスト前にはしっかりと勉強しなければならないのだけれど。

テスト前故、部活もない。
このまま帰宅して勉強をしよう、そう思っていたのに。

それを改め、図書室へ向かったのは本当に偶然だった。


「ー…鬼道?」
「豪炎寺…か?」
静かな図書室の一番奥、長くいくつも並んだテーブルの角にそいつはいた。
横に立って、呆然と呼び掛けた俺を何気なしに見上げたゴーグルの下ではどんな表情をしているのか、傾きかかった日の光が反射してよく見えなかったけれど。
「…おい、豪炎寺」
「……ん?」
「人の名前呼んでおいて、何ぼーっと突っ立ってるんだ」
不可解そうに見上げる鬼道の言葉に、「ああ…」とごまかすように頷く。
「鬼道、ここで何しているんだ?」
「見てわからないのか?」
「……テスト勉強」
「そうだ」
ふう、と息をついて見せる鬼道。
釈然としない俺に呆れたのか何なのか。
再び視線を俺から教科書へと移行してしまう。
「…ここ、いいか?」
「ああ」
前の席を指し示す俺に視線を向けず、ただ了承の返事を返される。
座ってから、ゆっくりと教科書を取り出す合間に盗み見た鬼道は、ノートへさらさらと文字を羅列していく。

偶然、何とは無しに向かったこの図書室で、勉強やテスト以上に…また、サッカーと同等もしくはそれよりも気になる存在がいるなんて。
そんなラッキーな偶然があるものなんだ。
この嬉しい出来事に思わずほうけてしまった、そう言ったら、その白いノートの上で滑るように動く手が止まってしまうのだろうか?
至って何て事はないその普通の動作が、やけに綺麗で秀麗な動きに見えるのは俺の不純した感情のせいだろう。
その美化された何気ない動作が止まってしまうのは、少し勿体ない気がした。
…そんな些細な考えが頭を過ぎる。

気付かれないように、そっと視線を手元へ戻す。
今、多くの学生の頭を悩ませる根元であるその教科書とノートをパラリとめくる。
「…お前も図書室で勉強とは…。意外だったな」
声に呼ばれ、再び顔を上げるとそこにはフッとおかしそうに微笑まれた柔らかな笑顔。
「…おかしい…か?」
「いや、図書室というイメージがなかっただけだ。てっきり自宅に早々に帰るものだと思っていたからな」
そう言い終えて、再び下を向いてしまう鬼道。

かいま見た笑顔が無性に胸をざわつかせる事なんて、きっと鬼道は知らないのだろう。
いつも以上にざわざわ落ちつかないそれが、表に晒されやしないか…と不安にさえなる。
そんな音、聞こえるはずないのに。
そんな事くらい、重々わかっているはずなのに。

そもそもこの二人だけの空間が悪いのだ。
離れた場所に別な人間がちらほらいるとはいえ、見知った顔は俺達二人。
この確立されたような空気が、変に意識させられて余計な事まで考えてしまうから。

今の俺には手元でダラダラと羅列された文字にも、ヒヤリと冷たいテーブルの感触も、そして学生を悩ませるテストにも興味なんか全くなくて。

変わりに、目の前で一連の動きを続ける人物の方が余程惹かれる対象なわけで。
その人の一喜一憂全ての感情・表情とか、好みとか、体温から…鬼道という人間を司る全てを知る事の方がよっぽど興味が惹かれるわけであって。


『どうしたら、コイツは俺のものになるのか』


そんな勝手な問題を掲げ、勝手な方程式を組み上げる俺がいて。
下手したらテストなんかよりずっと難しい問題なんじゃないか、そんなおかしな思考に捕われる。


「……豪炎寺。お前…さっきから人の顔をじろじろと…。何か言いたい事があるならはっきり言え」
いつの間にか、顔を上げてジロッと睨むようにこちらを見てくる鬼道の言葉に、ようやくハッとする。
何だ、と催促するようなその視線に多少焦るも、この不純した問題に答えを出すいい機会じゃないかと思って。

ああ、やっぱりこの二人だけという空気が悪いのだ。

でなければ、今まで言わずに抑えていた気持ちを吐き出そうなんて思ったりしなかっただろうから。

「鬼道」

…そう、この場の空気のせいにして、今から場違いな事を伝えようとしている俺は、結構狡いのかもしれない。

「鬼道…俺、テストより気になる問題が出来たみたいなんだ」

ー…さて、この興味の対象となった優秀な頭脳を持った人物は、俺の立てた方程式にどんな答えを出してくれるだろうか。

俺の狡い意図も知らず、小さく首を傾げるその人の驚くであろうその様を思い浮かべ、その愛しさにうっすら満悦の笑みを浮かべる自分がいた。



最愛の興味は多々の情を持ち合わせているからこそ

興味は不変とは言えないのだ



**************

突然思いついた豪鬼。
とりあえず、思いついたままに打ち込んでみたら話が一つできました。

んーこれは告白前の豪鬼という感じですかね。
豪炎寺にしてはぼーっとした感じになってしまいましたが。

豪鬼もしっくりと落ち着いたカプですよね。ちょっと似た者同士な。豪鬼も大好物です。もぐもぐ。

ラブラブさは全くない日常的な文章ですが。
読んで下さってありがとうございましたです。


2009.10.30

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