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手を取り合って(円鬼)
近さを慈しみ

距離を尊む


《手を取り合って》


仲良く肩を並べ、互いに手を取り合う。
そして愛しい名前を呼び合い、その愛称に向けてつたない愛情を伝える。

そんな恋人と呼べる行為を、まだ無知過ぎる故かまるで子供のままごとのような…はたまた、じゃれ合いの延長のような行為となってしまうそれが、今の俺達には充分過ぎる程の幸せだった。



「ー…鬼道の手、小さいな」
ギュッと握った手を嬉しそうに見遣りながら、ニカッと眩しい笑顔を浮かべた。

紅を徐々に淡い紺に塗り替えていく夕暮れ時の下で、部活帰りに立ち寄った公園のベンチに円堂と二人で並んで。
何をするわけでもない、ただ二人で座って、どちらからともなくゆるゆると手を繋げて。
なんだかむず痒くなるような恥ずかしいそれをごまかすように二人で照れ臭そうに笑い合って。

ただ…時間が欲しかったのだ。
例えわずかでも、少しでも多くこうして二人で幸せを分け合う時間を求めていた。

ほぼ、毎日のように部活で学校で顔を合わせているのに、何を言っているのか。
そう思えるだろうが、それでも時折それだけでは足りないと思うのは何故だろう。
そう思うのは俺だけではなく、円堂もまた同じように思っているようで。
まるで枯渇したように、互いという潤いを求めて、そして満たされて。

こんな我が儘に似た想いが許されるのは、やはり俺達がまだ子供過ぎるせいだろうか。

「…俺が小さいんじゃない。お前の手がデカすぎるだけだろう」
「そうか?でも鬼道の手は小さいと思うぜ?それに俺なんかよりずーっと白くて綺麗でつるつるしてて…」
「……お前、ひょっとして馬鹿にしてるのか?そういうのは女性に向けて言ってやれ」
「いやいや、まさか!褒めてるんだよ!」
膨れ面のような顔で睨みつけてやれば、そんな我ながら子供みたいにムキになった俺の様子に笑いを堪えたように手を振る。
そしてまた、キュッと握られた手に力が入る。
「……褒めたところで何も出ないぞ」
「はは、わかってるよ。ただ、俺改めて思ったんだ。俺、その鬼道の手とこうやって繋ぐの好きだなーって」
わずかに残る紅に照らされながら嬉しそうに笑うその顔。

その潔白なまでの明るい笑顔が、俺はとても好きだった。
その笑顔が、ずっと誰に触れられる事なく包み隠してきた自分の心を燻って、『満たされる』という感情をどうしようもなくかき立てられるような感覚が沸き上がってくるような気がするから。

コイツはこうしていつも与えてくれる。

『好きだ』という言葉も、
俺の好きな笑顔も、
自分を大切に想ってくれる想いそのものも、
そして…恋情も。

コイツが与え、教えてくれたもの全てが今の俺を支えてくれるのだろう。

サッカーとはまた違うその充足感を、そしてそれをくれた相手を、驚く程に愛しいと思える。
ーそれが所謂、俺が円堂に向ける『恋情』。


へへっ、と笑いながらその指の形を、肌の感触を、体温を一つ一つ確かめるように今だ握られた手。
誰もいない公園で、残りわずかとなった夕日を背負った姿が、やけに様になる円堂の姿に隠れて微笑んで。
「…お前の手は、温かいな」
「ん、そうか?」
「時折思うよ。お前にこうして触れてると、なんかこう…父親とか…母親とか、親に触れられてるような温かさがあると」
包容力、というべきか。
両親が与えてくれるような…また、あの陽の光のような全てを包容されてしまいそうな感覚が似ていると思ったのだ。
まあ、両親の…と言っても、甘えだのなんだのをしてこなかった……いや、実際しろと言われても性格上苦手でできない俺が言うのも何だか妙な話だが。

すると何を思ったのか、いきなり勢いよく立ち上がり、とても焦った様子で俺の両肩を掴んできた。
「こ……困るっ…!」
「は?」
何がだ?
首を傾げてまじまじと見上げた俺に、さらに眉を寄せて。
「お、親だったら……鬼道にキスとか…できなくて困る…」
なんかもう、死にそうなくらい悲痛な声でそんな事言い放って。
ポカンとその様子を細かく見てから。
直ぐに意味を理解した途端、堪え切れない程の笑いに支配されてしまっていた。



些細な幸せ

それが当たり前にあることが
一番の幸なのだ



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ラブラブな円鬼が書きたいなーと、ふよふよ妄想しながら書いてましたが…。
単に手ぇ繋いでるだけでどこまで話広げられるか、という内容になってしまった気がします。

円鬼って何で書いてて恥ずかしくなるんですかねー。不思議です。

とりあえず、幸せな円鬼になっていればいいなーと思います。

読んで下さった方はありがとうございました。


2009.10.21

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あきゅろす。
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