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調和(円鬼)
調和されていく事が

いずれの幸せに繋がる


《調和》


ふわり、と穏やかな風が部屋の窓辺を彩るカーテンを遊ばせる。
秋空の下から運ばれる香りは、秋色をした金木犀の香り。
ほのかに部屋を、自分を包むその香りには、どこか不思議な懐かしさを覚える。

花というのは、本当にいつもその季節を教えてくれる。

…そう以前何気なしに呟いた時、「鬼道って何だか子供らしくないよね」とマックスや半田に笑われた事があった。
そうか?と首を傾げた俺に「そうだよ」と二人は笑っていたな。

確かに俺は少々同年代の人間より堅苦しい性格をしているのかもしれない。
周りを見ていると、自分でもそう思う時がある。
…いや、周りが周りだから尚更そう感じるのか。
雷門に来てからは増してそう思う。

そもそも、歳相応と言うのは一体何が基準なのか。
人なんてそれぞれ個々一つ一つに備わった性格というものがある。
その性格のどれをとっても違いは存在するもので、だからこその個性なのだろう。
それが人それぞれの面白みであって、それに惹かれたり…嫌悪したり、所謂興味の対象なのだ。

…と、そんな事をまた口に出して言ったなら、また子供らしくないと言われてしまうのかもしれないが。


「ー…鬼道、どうかしたか?」
口元が笑ってる、と頬をなぞるように軽く手を伸ばしてきた円堂。

二人でこうして部屋でくつろぐ時間。
回数を増やすにつれ、こうして考えにふける余裕すら持ち合わせるようになった。
最初の頃は、二人切りの時間というのが純粋に照れ臭くて、あんなにも落ち着きのないものだったのに。

隣にいる事が当たり前で。
この男の存在に包まれている事が常で。

いつしかそれらの事実が自分の中で当然の事になりつつある事が、かつての自分からは想像もつかない事であろう。

「何、考えてたんだ?」
「いや…ちょっと、な」
つまらない事だ、と言葉を紡ぐ俺をじっと見て。
それから、ふっ…と柔らかく綻ばせる笑顔を見せて。
「鬼道がそういう顔する時は、また難しい事考えてる時だ」
「…そういう顔?」
そういう顔とは、どんな顔だ?

そもそも、俺は基本常日頃ゴーグルを身につけている。
よほど至近距離でない限り視線の動きは悟られにくいはずなのだ。
「うん、そういう顔。わかるんだよ、俺にはさ。だっていつも鬼道の事見てるからな」
例えわずかな表情でも、くまなくもらす事なく。
そう自信あり気にニカッと笑った顔に、熱が上昇していくのがわかる。

コイツは自分の言った意味がわかっているのだろうか?
いや、深い意味など考えず、ありのままの言葉をぶつけてくるだけなのだ。
どうしてコイツが与えて来る表情一つ、言葉一つがこれほどまでに人を惑わせる威力が備わっているのか。
こうしてまたコイツに包み、溶け込まれていく様が目を閉じれば見えてきそうな気がする。
そしてその流れに逆らう事なく心地良ささえ感じているのは、紛れも無く自分の本能で。

「鬼道、今度は何か嬉しそうだな」
「…そうか?」
横を見ると、体を完全にこちらへ向けて、俺を眺めるようにニコニコと楽しそうに笑う笑顔があって。
まるで幼子のようなその笑顔は『子供らしくない』と言われた俺とは対称的に、あまりにも子供っぽ過ぎる程で。

子供らしくない俺が子供過ぎるコイツに包み込まれている。
その事が尚の事おかしさをかき立てて、思わずフッと小さく吹き出してしまう。
そんな俺の様子を不思議そうに見遣りながら、何かを見付けたように笑顔を輝かせた。
「なんか鬼道ってさ、時々スゲー子供っぽい笑顔するよな」
「は?」
子供っぽい?それは俺の事を言っているのか?
ポカンと口を開けたまま固まる俺を、おかしそうに笑って。
「…そんな事、初めて言われたぞ」
「そうか?でも結構子供っぽいとこあると思うぜ?今の笑顔もそうだけど、意外とムキになりやすいところとか、結構好奇心旺盛なところとか」
まあ、その分俺達より大人っぽい部分も多いけどさ、と笑う。

自分すら気がつかなかった自分の一面。
そのもう一つの自分をコイツはもっと前から見付けていてくれて、ずっとその一面を見ていてくれたのだ。
それほどまでに自分という人間をしっかり見つめていてくれた人がここにいる。
円堂が自分を想ってくれている事がひしひしと感じられて、何だか包まれるような温かさが沸き上がって限りない充実感に満たされる。

大切にされるって事は、これほどまでに心地良いものなのか。

「でも雷門に来てからますますそういう顔するようになった気もするなぁ」
「伝染されたんだろ…お前達に」
あの周りのペースに浸かっていると、どんどん自分が変えられていくような錯覚を起こす。
嫌ではない。
むしろ昔の自分よりも自分を好きだといえる程。
「ああ、雷門の皆といると何だか嬉しい気持ちになるもんな!」
「…まあ、一番の原因はお前だろうがな」
俺?と見開く様子に小さく口元を緩め、その表情をゴーグルからこっそりと眺め見る。
「それって俺が一番鬼道に影響あるって事?!」
「……そういう事は、あまりでかい声で言うな」
「だって鬼道の中で俺は特別って事だろ!?」
「だから…っ!……はあ、もういい…」
鬼道、と抱き着いてくる円堂に呆れつつも口元が綻ぶのが押さえられない。

嬉しいなんて、本当に毒されてきたとしか思えない。

まったくどこまでも子供みたいな奴だ。
でも俺にも子供らしい一面があるように、コイツにも時折見せる大人びた強い眼差しが、貫かれる程熱くさせるという事を俺も充分に知っている。

なんだかんだ言って、大概なまでに自分も円堂ばかり見ているのだ。


「…本当、感染されたとしか思えないな」
「ん?俺に?」
「ああ…お前の『鹿の付く馬』な部分にな」
「……なあ、それ前に夏未にも言われたけど…結局どういう意味な訳?」

以前、そう言われたと顔をしかめて悩んでいたのを思い出して、また笑い事が込み上げてくる。
俺に抱き着いたまま、ムゥっと不可解そうに悩む様に安堵を覚える。


今だ部屋に運ばれる金木犀の優しい香りに包まれて、自分を抱きしめる温もりを噛み締めて。
ゆるりと手を伸ばし、その人物の頭を撫でると、くすぐったそうに『歳相応』な笑みを浮かべていた。



愛しさに包まれる

そうして初めて『調和』の意味を知る



**************

突発的に思いついた文章ですが。
円鬼は考える文章の大半がほのぼのになってしまいます。円鬼クオリティ。

やっぱり私の書く円堂はアホっぽいです。うああ、残念。もっとかっこよく書きたいです。
ちなみに、アニメで円夏の『鹿のつく馬』の口論が凄く好きでした。だからちょっと拝借してみました。

読んで下さった方、ありがとうございました。


2009.9.27

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