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意図(円鬼←春、『衝動』の別視点)
時々、
自分は考えてはいけない事を考えているんじゃないか

そんな事を思う時がある


《意図》


事の始まりはいつだって些細な出来事から始まる。

あの時だって何て事はない、ほんの些細な会話からだった。



あの日、いつもより早く部室についた私が部室のドアを開けると、そこにはすでにちらほらと何人かの部員の人達が来ていた。
もちろん、その中にはキャプテンもいて。
キャプテンにいたっては、すでに着替えやら準備やらを終え、ベンチでボールをいじっている。
自分だっていつもより早目に来たというのに……本当、この人はサッカーが大好きなんだな、とこっそり笑ったのを覚えている。

そんな中で、ふと持ち上がった話題。

『好きな色は何か?』

ありきたりな話題であるそれが、思えば些細な原因だったんだと思う。

誰が話し始めたのかわからないそれが、やがて自分の方にも回ってきた。

「音無は何色が好き?」

突発的に回ってきた質問。
基本、どの色も比較的好む自分にとって一番と言われると…。
そう思ったのと同時に、瞬時に脳裏に過ぎった色は。

「赤」

ほぼ、即答だったと思う。
だって、過ぎった瞬間にはもう口に出していたから。

自分でも、瞬時にその色が出てきたのには驚いた。
でも、理由はハッキリとわかっている。
だって、その時に頭に過ぎったのは、自分に優しく微笑む兄の顔。
そして、私を見つめるその色の瞳。

ーー兄の色が好き。

ううん、瞳の色だけじゃない。
いつも風になびかせているマントも
常にその瞳を隠しているゴーグルも
高く一つに纏めたふわふわとした髪も
そして、私の前では眉を下げてしまう事の多いその表情も
お兄ちゃんを司る全てが大好きなのだ。

私のその想いが兄妹としてのものなのか、また憧れのものなのか…。
それとも、恋情に近いものなのかはわからないけれども。

でもそんな事とは関係なく、どんな意味であれ私がお兄ちゃんを『大好き』であるという事実は変わらないのだ。



…だからあの日、部活後にキャプテンに理由を聞かれた時、心底驚いた。

大好きなお兄ちゃん。
最近、そのお兄ちゃんの視線の先にいるのは誰か、私は知っていたから。

円堂守キャプテン…。
いつも中心にいて、その性格の魅力から多くの人を惹きつけてやまない人。

事実、私もキャプテンは人として先輩として好きだし、とても頼りになる凄い人だと思う。
もちろん、尊敬もしている。

そして、そのキャプテンに惹かれているのは兄もまた同じ。

大好きだから…私がいつもお兄ちゃんばかり見つめているように、お兄ちゃんもまた…。
いつも見ているから気付いた事実。

いつからか…私にはよく向けてくれていた色々な表情を、その人にも向けるようになった。

ツキツキと痛むような胸の締め付けはきっと嫉妬なのだろう。



キャプテンはずるい。

私よりも一緒にいた時間は短いのに、お兄ちゃんの色々な一面を知っていて。
わかるのだ。
キャプテンが、どんどんお兄ちゃんの中に入っていくのが。
そのうちきっと、私なんかよりずっとお兄ちゃんに近い存在になるんじゃないかって…そんな感情にかられる程に。

だからキャプテンはずるい…。


まだキャプテンもお兄ちゃんも、互いに自分達の気持ちに気付いてはいないけれど。
だから…今だけはまだ、私だけがお兄ちゃんの一番近い存在でいたいから。

ゴーグルの下の赤い瞳。
様子から、まだキャプテンがゴーグルの下のそれを見た事がないって察したから。
「…って、そっか、キャプテン達は皆さん見た事ないですもんね。お兄ちゃんの目、凄く綺麗な赤をしてるんです」
これはわざと。
大好きなその色を知っているのは自分だけなのだと言葉にして言っておきたかったから。

今だけは、これくらいの我が儘…許してほしい。

「いつか機会があったら見て下さい」、と続けた自分の言葉の中で、こんな事を言わなくても、いずれキャプテンはお兄ちゃんのあの色を見る日がくる、それくらいの事は予想できた。

いつもの笑顔の中で、どこか不安げな表情が見え隠れしていたキャプテンの背中を見ながら小さく苦笑する。

私自身、お兄ちゃんに対するこの感情が兄妹愛なのか、敬愛なのか…それとも恋情なのか分別できてはいないけれど。
それでも嫉妬するほどの想いは抱いているのだから。

二人が互いの感情に気付いていない今だけ…もう少しだけ、と自分が一番身近でいられるこの状況に甘えようと思った。

夕日で赤く染められた手元の手帳のページを、静かにパタンと閉めて、自分が好きだと言った赤である夕日をじっと見つめていたのだった。



限りある時間

だからこそ、大切にしたい



**************

前回の『衝動』の春奈視点の話です。
円鬼←春というより円→←鬼←春。
春奈自身も恋情なのか家族愛なのか何なのか気付いていません。そこはご想像にお任せします。

ちょっとキャプテンに意地悪する春奈(笑)そんな春奈を書いてみたかったんです。
でも、基本、春奈も円堂を尊敬してますし認めていますから、些細な抵抗…みたいな感じで。

ちょっとうだうだしちゃいましたが。
読んで下さって感謝です!


2009.7.24

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あきゅろす。
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