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Cross outside 1(風鬼)
理解ができないからこそ

面白いのだと思う


《Cross outside 1》


゙風丸一郎太″という人物は
少し変な奴だと思う。


何が変なのか、と聞かれれば上手く説明できない自分がいて困ってしまうが、ともかく見た目に反して変なところがあると思う。



まず一月程前の事。
あいつは突然、俺に告白してきた。

珍しく俺の教室に来て、そのまま屋上に連れ出されたと思ったら、いきなりあいつはこう言った。

『俺、実は鬼道の事、好きみたいなんだ』

ニッコリと爽やかに笑うその笑顔と、それに合わせるように長く揺れる空色。
あまりに何でもない事のようにあっさり言われた言葉に、ア然としたのはもちろん俺で。
かみ砕くように、一字一句、風丸の言葉を何度も何度も自分の中で反復した気がする。

そもそも俺も風丸も男で。
なら今のは友人としての好意だろうか?
…いや、それならこんなところに呼び出してまでいちいち言う事ではない。
なら、やっぱりそういう意味で…か?

『何で俺なんかが好きなんだ?』

思わず、疑問に思った事が素直に口に出た。
ぱちくりと大きく瞬きをしたその人物が意外そうな顔を見せたので、ちょっと言葉選びを間違えたか?と思ったが。

でも、不思議だったのだ。
風丸という奴は、しっかりした責任感ある性格で、後輩から見たら頼りになる先輩の代表例みたいな奴だろう。
それでいて、とても気さくな面もあるし仲間想いで優しいところもある。
また、物事に対して一生懸命で熱心な一面もあり、とても向上心の強い男だという事も。
そして外見だって整った容姿をしていて、何よりあの空色が密(ひそか)に好きだったりもした。

…そんな奴が、同性で…ましてや俺みたいな奴のどこに惹かれたというのか。
それが、とても不思議で仕方なかった。

『何で…か。実はというと俺にもよくわかんないんだ』
はは、と困ったように笑うそいつに面を食らうのは本日二回目。
まったくもって、コイツは何を言っているのか?
ギュ、と不満げに眉間を寄せた顔さえも、何故か愛おしそうに見つめてくる風丸の真意が見えてこない。

そして、再び言葉を続ける。

『最初、お前が雷門に来た時、正直複雑な部分もあったんだ。でも同時に、帝国時代のお前の凄さを知ってたからこそ、興味もあった』
もちろん、プレイヤーとして…と微笑みながら一歩、こちらへ近付いてくる。
『お前の高度なプレイやゲーム運び、敵味方の利点・弱点を見抜く着眼点、そしてそれをいかして周りを動かすメイク力…どれも凄く驚かされる。周りの皆とは違う存在感がお前にはあったんだ』
『そうやって、お前のゲームメイクの加わったサッカーに惹かれて携わっていくうちに、…いつからかな、お前ばかり見ているようになってた』
薄く、細められる右目に映っているのは、きっと俺だけなのだろう。
信じられないくらい優しいそれに、ドキリと鼓動が揺れる。
『そうしてお前ばかり見ているうちに、いつの間にか不思議な感覚が芽生えるようになったんだ』
『お前が笑うと凄く幸せになるし、お前が辛そうな顔をしていると俺まで胸が痛んで…抱きしめてやりたくなるし、お前が楽しそうだと俺も嬉しいし』

な?これって鬼道を好きだって事だろ?

あいつは恥ずかしげもなく、はっきりそう言ったのだ。
言いたい事を言い切ってスッキリしたような満足な表情をした風丸を、少し恨みがましく思った気がする。
女性にだってモテそうな風丸が、俺などを選ぶなんて色物好みとしか思えないくらい変な奴だ。
…それなのに、もらった言葉にざわめくくらい鼓動が早くなっている自分が何だか悔しい。

その悔しさを、変わりにあいつと同じ色をした空に向けて、チラリと視線で睨みつけてやる。
すると、すぐに『鬼道』と名前を呼ばれて視線を元に引き戻されてしまう。
よそ見をしてほしくない、と言わんばかりの強く見惚れてしまいそうな瞳が、ずらす事すら許されないと思ってしまうくらい、強く捕らえられてしまう。

ざわめく鼓動も、じわりと上がる熱も、うまくはき出せない呼吸も…それら全ての意味が、あの時の俺には理解できていただろうか。

…いや、おそらくあの時の俺にはあの強くて瑰麗な視線を見つめ返すだけで精一杯だったから。


『ーーお前は』
数テンポ間を置いて、ようやく出てきた言葉。
『お前は…それで、どうしたいんだ?』
俺にそれを伝えてどうしたいのか?
待ちに待って出てきた言葉は、自分でもおかしなくらい変な切り返しだった。
きっとコイツの変な部分がうつったんだ。
そう言い訳して正当化しようとしている俺も、思いの外子供じみている。

でも予想に反し、風丸が驚いた顔を見せたのはほんの一瞬の事で、腰に手を宛てて、ニッと白い歯を見せて笑った。

『鬼道はどうしてほしい?』
『…それは俺が聞いているんだろうが』
脱力する俺に、そうだなぁ…と少しの間、考え込んで。
『俺は…鬼道の側にいたい。付き合うとか付き合わないとかはどちらでもいい。鬼道がそういうの嫌だって言うなら俺は望まない』
『ただ、側にいられるだけで充分なんだ。側にいて、サッカーやって、一緒に楽しく笑って。そうすれば俺は充分幸せだ。でも、気持ちだけは知ってほしかった』

ー…本当に、何ておかしな奴なんだ。

見返りも求めない、俺からは何の情も与えられなくても構わないというのか。
片道切符みたいな虚しい情で満足だと言ったコイツは……なら、何故こんなにも幸せそうに笑うのか。

(…そこまで、俺に陶酔してくれてるって事か?)

コイツはどこまでも変な奴だ。
俺は…お前のような純粋な情を向けられる程、価値のある人間ではないと言うのに。


『鬼道』

俺の苦悩を擦り抜けるように届いてきた風丸の声。
少し低めの、それでいて少年特有のトーンの高さが残った声は、空色を持つコイツには似合いの音だと思う。

名前に起因するように、風みたいなコイツには、俺の心情がどのように映っているのだろう。

『鬼道、俺はお前が応えてくれなくても、お前の意識が他に向いてても、ありのままのお前が好きだから』


コイツ……、狡いっ!


何でこの男は無駄に男らしくてカッコイイんだ!?
不公平だ、と言ってやりたくなる。
先程から俺ばかり心情を揺さぶらされている気がする。
そして何よりその憎めない見惚れるような笑顔が、何とも悔しい。
……何より一番悔しいのは、コイツに言われた台詞が嫌ではないという事と、その笑顔が好きだと思ってしまう自分自身だ。

少なくとも…俺の中に風丸に惹かれていた部分が元々あったんだろう。
だからこそ、奴の好意にこれほどまでに動じるのだ。
きっと、そうだ。


ーーだから、

『風丸』
『側にいるなら、せいぜい退屈させないようにしてくれよ』

少し、サッカー以外でコイツと同じ土俵に立って見ようと思った。
おそらく同じ目線で立てば、また違ったものが見えてくるような気がしたから。


『もちろん』、と不敵な笑みを浮かべたその顔は、変な奴、と表現するには勿体ないくらい洗練された美しさだった。

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