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奮闘心機(源鬼)
夢のような存在に

いつの間にか心を奪われていた


《奮闘心機》


ーー倒錯的だ

そう、零れ出たように思った。



俺の鬼道に対する感情は、こんなものじゃなかった。
小さなその背中を見つめてそう考える。


今日は新しいフォーメーションを考えるとかで、いつもより早めに終了した。
部活の後、部室にでかでかと設置されたテーブルの上で、鬼道達は何やら難しい顔をして討論している。
鬼道の両斜め向かいに座る寺門と佐久間と…テーブルに広がる数枚のフォーメーションの書かれた紙とにらめっこしながら何か話す声は、少し離れたこのベンチからはよく聞き取れないけれど。

…いや、正確に言えばあまり聞く気がなかったから…ともいえるのだけれど。

早めに部活が終わったから、きっと外はまだ明るいだろう。
部活後で、それなりに疲労した身体はまだ多少ポカポカしていて、その疲労と重なって何だかふわふわと眠気が漂う。
きっと、あの単調に繰り返される討論を小さく聞いていると、いつしかそれが子守唄になってしまいそうで。
真剣に考えてくれているあいつらに、それはなんだか失礼な気がしたから。

…まあ、他人任せな時点で、大分失礼な話なのかもしれないけれど。

意のままに出そうになった欠伸を噛み殺して、俺はじっと前方を見つめる。
ここから一直線上に視線を飛ばしていけば、たどり着くのは鬼道の背中。
赤いマントは、鬼道のわずかな動きにも逐一波打って、小さく布擦れの音を出す。


……小さい、な。


鬼道の背中は、とても小さいと思う。
背中…というか、体格というべきか。
背丈のみならず、手や足…司るパーツがとても小柄にできていると思う。
元々凄く細身の体型だし、色も白いから尚更そう見えるのだろう。
そんな事を本人に言ったら…どんな顔をして睨まれるだろうか。
少なくとも、顔をしかめるくらいの表情は見せてきそうだ。

…そんな背中に、俺は困ったようなため息を落とす。

困ったもんだ。
その姿を、いつしか儚くて愛しい…と思うようになっていた自分がいた。

そもそも…同姓の仲間に『愛しい』って何だよ。
おかしな事を言ってるって事くらいは自分でもわかっている。
同時に、そう考える頭とは裏腹に、鬼道を可愛い…と思っている自分にも。


当初、俺が鬼道に抱いていた印象はもっと堅苦しい感じのイメージだった。
何て言うか…鉄壁と言うか、冷静沈着タイプと言うか…何か『完璧』オーラが出ていて、雲の上の人…って感じのイメージを持っていたような覚えがある。
あの毅然としている鬼道の態度が、尚更そう思わせていたのかもしれない。
あいつと関わる内に、そんな堅苦しい印象は少しずつ綻んでいって。
それでもあいつが俺達なんかよりずっと凄い人間だ、って印象だけは今でも残っていた。
だって、キャプテンとして俺達の前に立つあいつは…ゴールから見るあいつは、とても大きく見えて。
小柄なあいつの背中は不思議な程、広くでかく。

……そうだ。
これが俺の鬼道に対する感情だったんだ。
身体にそぐわぬその大きな存在感が、とても頼りになるキャプテン。

さて…一体それがどうしてこんな考え方に変わってしまったのか。
その大きく見えていた存在を、小さくて儚いだの、可愛いだの、愛おしいだの。

…いや、本来鬼道の身体は小さいのだ。
腕を掴んだら、簡単に折れてしまいそうなくらい。
それがあれだけ大きく見えるのには、どれほどのものを背負っているからなのだろうか。
きっと俺なんかには理解できないくらいたくさんのものを背負っているのだろう。

…多分、守るものがたくさんあるんだな、あいつには。
雷門にいるっていう妹さんに、サッカー部の皆に…。
その小さい身体で、いつも力強く俺達皆を守ってくれているのだ。

すげぇなあ…。
俺にはとてもじゃないけど真似できない。


ふわふわと眠気に包まれた思考で、そうして目線の先の人物をじっと見つめる。
やっぱり…俺はちょっとおかしいのかもしれない。
この眠気のせいだろうか。

鬼道をキャプテンとして堂々とした勇ましい奴だと思う心と
抱きしめたい程に愛おしくて可愛いと思ってしまう不純と

そんな倒錯的な感情の下で、ぐるぐるぐるぐると踊らされているような気がしてならない。

小さく、うぅ…と唸りながら目を覚ますようにがしがし頭をかく。

「…源田、お前…何しているんだ?」
「……へ?」
予告なく呼ばれた声に顔を上げると、そこにはすでに着替え終えた鬼道が立っていた。
あれ?と思って周りを見回すと、いつの間にか部室には誰の姿も見当たらなくて。
テーブルの上にも、先程の紙は一枚もない。
「あれ?…寺門と佐久間は?」
「寺門は職員室に用があるそうだ。佐久間は教室に忘れ物を取りに行った…」
うわ…全然気がつかなかった。
何だか恥ずかしくなる。
「帰らないのか?」
「え…?」
「だから…帰らないのか?」
あ、と思い出したように声を上げた俺を、ますます不思議そうに顔をしかめていく。
「か、帰る帰る!」
「…そうか」
鞄を右手に掴んで簡単な返答をする鬼道に苦笑を返す。

こうして並ぶと……本当に小さい。
おそらく、抱きしめたらスッポリ隠れてしまうんじゃないかと思えるくらいに。

小さい身体で、たくさんの守るものを抱えたコイツは……
なら、一体コイツは誰に守ってもらうのだろう。
守っているだけじゃ…本当に壊れてしまいそうな気がして。

「ー…源田?どうかしたか?」
立ち上がったはいいが、相変わらずぼーっと鬼道を見下ろす姿に不可解な顔で見上げる姿すら可愛いと思ってしまう。
「おい、源田?」
そんなお前を守るその役目…俺なんかでもいいだろうか。

そんな確認、聞かずともその役目を誰かに譲るつもりなどないのだけれど。

「…鬼道」
「な、何だ?」
いきなり言葉を出した俺に、めずらしくびっくりしたような表情をあらわにして。

なあ、鬼道。
俺にはカッコイイ気のきいた台詞言えるような奴じゃないけどさ。
「鬼道、俺頑張るからな!」
満足そうに一人納得して笑った俺に、は?と丸く大きく開かれた瞳には、明らかに、何を言っているのか…そう疑問に満ちた視線がそこにあった。



心の中で決した秘め事は

大切だからこそ隠れている



**************

私の描く円鬼の円堂はアホっぽいと思いましたが…。この源田は負けず劣らずのアホっぽさですね。あ、頭悪そうだ!

源鬼……何か源田独白になってますね。うーん、鬼道さんがちょっと空気な文章ですね。
ちっともラブラブしてない文章ですみません。

時間軸…書かなくてもいい気はしますが一応。予定では、鬼道さんがまだ帝国にいて、フロンティア予選決勝後からアフロ達と戦う前辺り…のイメージです。

源鬼のほのぼのとした感じが全くない文章ですが、読んで下さってありがとうございました!


2009.11.24

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