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重力の関係 (AT)
アレティエで学パロ。










暑い。

梅雨があけたばかりだというのに、なんだこの暑さは。イライラする。


ここは学校。ソレスタルビーイング学園という、ある程度有名な学校だ。生徒数は多く、賑わいがある。


僕の座っている席は窓際にあるため、直射日光があたる。因みにカーテンはまだ梅雨の頃、クラスの誰かが破ってしまったらしい。はた迷惑なことだ。


最近、水泳の授業が始まり、僕の席からは水をはったプールが見える。
冬のあの場所は汚かった。こけなのか違うなにかなのか、とにかく緑色の何かが沢山浮いていた。
現在のそこは、太陽の光を水面が反射して、キラキラと光っている。とてもきれいだと僕は思う。

あぁ、飛び込んでしまいたい。

余りにも暑いため、そう思ってしまう。
結局その日一日、授業に集中出来ず、プールのことを考えていた。




「あ、ティエリアー!」


放課後、僕は誰かに呼び止められた。
声は廊下の端から聞こえた。振り返ってみると、手を降りながら僕の方へと向かってくる生徒が見える。
…アレルヤだ。

僕のクラスメートであり、幼なじみでもある。
僕が唯一気を許せる相手だ。
なんとなくからかいたくなったので、無視をして帰ろうとする。早歩きで。


「え、ちょっ、待ってよ!」


後ろからパタパタと走ってくる音が聞こえる。
この瞬間がすきだ。
あっというまにアレルヤは僕に追いつき、笑う。


「ヒドイや、置いてこうとするなんて」
「べつに置いていこうなんて思ってない」
「そう?ならいいけど」


えへへ、と微笑む。
僕はアレルヤのこの表情がすきだった。


「それより、君に言いたいことがあるんだけど」
「どうせろくなことじゃないんだろ」
「あのね…」


そこで言葉を一旦きる。 そんなに重要なことなのだろうか。


「夜のプールに入ってみたくない?」
「…は、」
「一度やってみたかったんだよね」


アレルヤは一人でおもしろそー、とか、やっぱり温いかな?とか言っている。

夜のプールに忍び込む。 この暑い時期、それをしたらどれだけ気持ち良いだろうか。
しかし、


「…誰かに見つかったらどうする」
「大丈夫、今は使われてない門があるらしいんだ。そこから入れば、なんとか」
「でも、」
「大丈夫だよ」


僕の言葉を遮ってアレルヤは言う。


「僕がいるから」


ね?と言って微笑む。
この自信はどこからくるのか。
僕はやっぱり彼のこの顔がすきだなぁと、再認識した。
君がそう言うならそうなんだろう。
ハァ、と溜め息を一つついて答える。


「暑いからな。少し涼みたい気分だった」


正直、ずっとプールに入りたいと思っていた。
あの、水の中に。
僕はいつも水泳の授業を見学している。体が弱いため、と言っているが、ただ単に大人数で入るのが嫌なだけだ。いつも、プールサイドでアレルヤが泳いでいるのを眺めているだけだ。たまに僕に向かって手を振ってくるが、無視する。

水の中では、重力というものを殆ど感じない。
あの、宇宙を泳いでいるような感覚。錯覚。
何も考えないで浮かんでいると、本当に宇宙にいるような幻覚。
君と、宇宙遊泳してみたい。


「君となら、入ってやってもいい」
「本当?じゃあ今日の夜、9時に学校の裏門に来てくれる?」
「9時だな?了解した」


その帰り道、僕らは他愛もない話をしながら帰った。




そして午後9時。
昼と同じ、制服のまま学校の裏門へ行くと、アレルヤはもうそこにいた。彼も制服だった。門の前にしゃがみこんで野良猫の頭を撫でている。彼は後ろを向いているから僕の姿は見えないはずなのに、


「やぁ、ティエリア」


と言った。急に言われたので、僕はドキリとした。僕に声をかけたのが原因か、野良猫がアレルヤの手から逃げていってしまった。猫は暗闇の方へと消えていった。
その姿を見送り、アレルヤは立ち上がる。


「猫は九つの命を持っているんだっけ」
「言い伝えだ。実際は一つしかない」
「あの猫はあといくつ残っているんだろう」


いのち。とアレルヤは呟いた。

暗闇の方を見る。
どこまでも続いていそうな暗い道。この先は何があるんだろうか。


「それより、早く行こうアレルヤ。見つかったらどうするんだ」
「分かってるよ」


こっちだよ、と手招きされる。裏門に集まったからてっきり、裏門から忍び込むのかと思っていた。どこから入るのか尋ねてみる。


「昔、学園を建てるときに機材を運び込む為の門があったんだって。学園が出来たから今はもう使われてないんだ」
「ふぅん」
「誰も近寄らないから、見付かる心配はないよ」
「…どうやって君は誰も近寄らないような門の存在を知ったんだ?」
「ああ、ハレルヤが教えてくれたんだ」

ハレルヤというのはアレルヤの双子の弟で、僕達とは二つ違いのクラスにいる。顔はそっくりだが性格が荒く、よくケンカをしては問題になっている。


「よく学校を抜け出すときに使ってるんだって」
「あの阿呆…!学校をなんだと思っているんだ!」
「最近はちゃんと授業出てるらしいよ」


君の弟だろう。もっと心配したらどうだ。
そう言うと、頭は良いから大丈夫、と答えた。

喋っている内に、錆び付いている小さな門にたどり着いた。
丁度校舎の真裏くらいだろうか。
ここからだと、プールはかなり近い。入って左の方へ行けばすぐだ。


「ここから入るのか?」
「うん、先に僕が行くね」


アレルヤは門に足をかけて、ひょいと登る。猿のように軽々とした登り方だった。僕もそれに続く。


「なぁ、どうやってプールに入るんだ?入口に鍵がかかってるんじゃないのか?」
「その辺は大丈夫」


そう言って、ズボンのポケットに手を伸ばし、おもむろに鍵を取り出す。ジャラ、と金属の音がした。


「鍵は拝借してきたから」
「…バレたら大変だな、全部君の所為だ」
「まぁそれでもいいよ」


君とプール入れるなら。


と、何故か耳元で囁かれた。途端に恥ずかしくなって顔を背ける。
なんだ、急に。


「っ、なんだ急に!」
「あはは、ごめんごめん。なんとなく、ね」


訳が分からない。なんだか無性に恥ずかしい。
心拍数が上がっている気がする。なんだ、これは。


「…着いた。待ってて、鍵開けてくる」


ガチャリと鍵の外れる音がして、アレルヤが、さぁ入ろうと僕を手招く。 先程とは違う意味で心臓がドキドキしている。
やっと、この煩わしい重力から解放される。



―――――
長いので無駄に続きます。


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あきゅろす。
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