救いの手 (AT)
(どこだ、ここ…?)
知らない場所だ。
何も無い、只広がっているだけの地面しかない。
遠くをじっと見ていればなにかしら見えてくるような気がして、目を凝らした。
(…駄目だ、何もないや)
取り敢えず歩いてみようと思い、前進してみる。
暫く歩いていくと遠くの方に人影が見えた。
はっきりとは見えないが、あれは人だという妙な確信があった。
走って近付こうとする。
その瞬間、足場が無くなった。
(!?)
重力にしたがって下へと落ちていく。
僕は、あぁ今落ちているんだ、と意外に冷静だった。このまま地面に体を強かにぶつけて、ぐちゃぐちゃになるのかな。
…なんかもう下へ向かっているのか上に向かっているのか分からなくなるな。錯覚だけど。
諦め半分、このまま浮いてくれないかなと空を見上げた。そしたら、頭上、さっきまで僕がいたところに人が見える。
「…………ッ!」
なにか僕に向かって叫んでいるが落ちている僕には届かない。その人は綺麗な紫の髪をしていた。
僕のすきな人に似ている。もしかしたら助けてくれるかもしれないと思い、手を精一杯伸ばした。
僕のことを救って。お願い、君に会いたい。
「アレルヤ…っ!」
なにより愛しい彼の声が耳元に響いた。同時に僕の体はふわりと浮いた。
そして、
ドシン!
「うわ、っ!」
「……。大丈夫か?」
僕は体を強かに打ち付けた。地面ではなく、僕の部屋の床に。
どうやらベッドから落ちたらしい。
夢…か。
「大丈夫か?」
ベッドの上からもう一度尋ねられる。声の主はティエリアだ。起きたばかりだからか、紫色の髪はぼさぼさだ。
「いてて…」
鼻を思い切りぶつけた。 鼻血はでていないようだ。僕は鼻をさすりながらティエリアに手を伸ばした。
「なんだ」
「引っ張って」
「嫌だ、君みたいな重い体を引いたら、こっちが引っ張られる」
夢の中では助けてくれたのに、現実ではそっけない。諦めて手を下ろす。
「…僕、君に助けられたんだよ」
「何の話だ」
「夢の話。僕は落ちて、君が僕のこと必死に助けようとしてくれたんだ」
あの時、確かに僕は救われた。
「だからね、さっきの夢は良い夢。君に逢うまで悪夢だったのに」
「何が言いたい」
「つまり」
もう一度、ティエリアに手を伸ばす。
「僕を絶望の底から救いだしてくれるのはティエリアだけってこと」
「……」
「僕を救ってくれて、ありがとう」
ティエリアが無言で僕の手をとる。そのままベッドの上に引き上げてもらう。
勢いで僕はティエリアの上にのしかかった。
「重い」
「えへへ、ありがとう」
まったく、などと言いながら溜め息をつく。なんだかそんな姿も美しいと思ってしまうのは、僕が君のことを堪らなく愛しているからだろうか。
「……僕も何回か君に助けて貰ったからな」
「え?いつ?」
「…別に、なんでもない」
もしかしたら僕も君のこと、どこかで助けているのかもしれないね。そう思うと堪らなく嬉しい。
「ねぇ、ティエリア」
「なんだ」
「キスして良い?」
「は……」
ティエリアの顔が赤くなった。そしてまた溜め息をつかれた。二度目だ。
「どうせ、僕が嫌だと言ってもするんだろう」
その言葉を聞いて、僕は幸せを感じながらティエリアの唇にキスをした。
(また君の夢に、お邪魔しても良いですか?)
end.
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