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でも、許す





「…………」


どうしよう、はぐれた

時期は二月の下旬。見回りの為寒い冬空の中瞬と翼と街に繰り出したまでは良かった。面倒だと思ったけど一人じゃないし、何かあれば二人が対処してくれるだろう…何て甘い考えを持っていた
だからのんびりと二人の後について歩いていた。が、途中何時もの睡魔に襲われてうつらうつらとし、足取りが遅くなったところで二人の姿を見失った
気付いたら見知らぬ路地裏に足を踏み入れていた。うつらうつらとしていた時に適当に歩いていたら無意識に迷い込んでしまったのだろう。薄暗い路地裏の為、ガラの悪そうな人達もちらほらと見掛ける


「………はぁ」


思わず洩れた溜息。何か面倒に巻き込まれなければいい、そう思いながら通り抜けようと歩みを進めていくとぐい、と腕を掴まれて歩みを止められた

ああ、やっぱりそう簡単に通り抜けられなさそう

そう頭の隅でぼんやりと考えながら腕を掴む人物の方へと視線を向ける
歳は大体高校生ぐらい、見るからにタチの悪そうな人物だ


「……何、離して。動けない…邪魔」

「んだよ、俺にそんな口聞いてイイと思ってんのかぁ?」


淡々とした瑞希の口調が気に入らなかったのか男は苛立った様子で瑞希を睨む。そしてポケットからナイフを取り出して瑞希の頬にピタピタと当てた


「生意気言ってんじゃねーよ、なぁ…オニイサン?」

「…………」


ナイフなんて懐かしいな、昔一が持ち歩いてたっけ…今も鰹節削る為に持ってるのかな
なんて呑気な事を考えていたら、無言で表情も変えない瑞希に更に苛立ちを覚えたのか、男はそのままナイフの先を瑞希の頬に押し付けた


「……ッ」


ナイフの先が頬に食い込み、プツッと先が刺されば赤い血液が滲んだ
流石に痛みが走り表情を歪めれば男は満足そうに笑い、ナイフを突き付けたままもう片方の手を差し出す


「なぁ、オニイサン…これ以上痛い目に合いたくなかったら、金…全部寄越しな」

「…………」


何てありがちなカツアゲ。内心そう思いながらどう逃げ出そうかと考えていた。金を置いていくなんて事はするつもりは毛頭ない


「おい、聞いてんのか?さっさと金出せって言ってんだろ!」


黙り込んだまま何の行動も起こそうとはしない瑞希に苛立ちが募り声を荒げながら胸倉を掴む。しかし瑞希は顔色一つ変える事はなく、やはり無言のまま思考を巡らせた

それにしても、講師がこうやって高校生ぐらいの男にカツアゲされるなんて情けないな
そう思っていると男の背後に一つの影
薄暗く、更に逆光で顔はちゃんと見えなかったが雰囲気で直ぐに誰か分かった


「………あ」

「あ?何だ「オイ、何してんだよ?」


男が声を発するのと同時に聞こえた新たな声。瑞希はその声を、その声の主を良く知っている


「方丈、くん…」

「先生に手、出すなんてさぁ…お前、死にたいの?」


言葉を言い終えると同時にナイフを持つ手を掴み、そのまま腕を引いて瑞希から離させれば拳を握り締め、那智は思い切り男の顔を一発殴り飛ばす。一発殴られただけで気を失う男を見て鼻で笑い飛ばす那智の姿を瑞希はただ黙って見ていた


「……方丈くん」

「先生、大丈夫だった?此処治安悪いんだからさ、こんなとこに居ちゃダメだよ……、っ!」


殴り飛ばした手を緩く揺らしながら瑞希の傍へ寄り、顔を覗き込めば瑞希の頬から血が流れている事に気付く。ふと那智はさっきの男はナイフを持っていたのを思い出し、怒りの余りに表情を歪ませるがそれよりも先ずは瑞希をこの場所から連れ出すことが先決だと思い、沸き上がる怒りを何とか抑えながら瑞希の腕を引いて路地裏を後にする
歩いている最中、声を掛けようとする人が何人も居たが那智の一睨みで押し黙り、何事もなく出ることが出来た


「…はい、ここならもう平気でしょ」

「……ありがとう」


街から外れた小さな公園まで連れて来られ、ベンチに腰掛けながら瑞希は礼を一つ口にした
そして、歩いている最中から気になっていたことを問い掛ける


「…ねぇ、何であそこに居たの……もう、危ないこと…しないって、言ったよね?」


那智が何をしているから瑞希は知っている。退屈を紛らわす為にチームに居たことも、チーム潰しをしていたことも、全部
しかしもう卒業が近く、更には学園にバレてしまってからはもうしないと瑞希と約束していた。なのにあの場に居た


「えっ…と、それは……暇つぶし?」

「……方丈く、…ッ!」


あはは、と軽く笑う那智に流石の瑞希も怒りを覚え叱咤しようとしたがその前に那智の唇に口を塞がれてしまった


「…ごめんね、先生。ちょっとした気まぐれで行っただけなんだ。喧嘩しに行ったわけじゃないから…もう怒らないで欲しいなぁ。それに…」


那智の指先が先程傷付けられた瑞希の頬の傷に触れる。血はとっくに止まっているが、やはりまだ痛みはある
微かに走る痛みに肩を竦める様子を見ながら顔を近付け、傷口にそっと口付けた


「傷は付けられちゃったけど…先生のこと守れたんだし、だからさ…許してよ?」

「………」


確かに、あの場に那智が来なければ抜け出す事は難しかったかもしれない。そう考えれば怒る事も出来なくなり、小さく息を吐きながらぽんぽん、と那智の頭を撫でた


「…そうだね、今回だけ…許す。でも…次あんなとこに行ったら、許さない」

「ん、了解〜。先生に嫌われんのだけは嫌だからさ」

「……ふふ、でも…今日はありがとう。結構…かっこよかった…」

乱暴だったけれど、自分を助ける那智の姿に不謹慎にも目を奪われ胸を高鳴らせたのは事実。自分を守ってくれる、そんな存在に更に愛しさが募った


「……だいすき」


普段は滅多に聞く事が出来無い瑞希からの「好き」の言葉。瑞希の言葉に少し驚きつつも那智は照れた様に笑みを浮かべ、そしてお互い視線を合わせればどちらともなく唇を重ねた
まだ寒い冬空の下、だけど合わさる唇は何よりも熱くて冷えた身体が暖まる気がした


「…ん、じゃあ先生帰ろっか?……って言うか、先生こそ何であんなとこに居たの?」

「………あ、忘れてた」


那智の言葉に漸く自分が今何をしている最中だったかを思い出す。そうだ、瞬と翼と一緒に見回りをしている最中だった。その最中にはぐれて路地裏に迷い込んでしまった事も
今日は携帯を持ち歩いて居ないから連絡をする事も出来ない。どうしよう
きっと今頃二人は大騒ぎしているに違いない


「…先生?」

「……何でもない」


流石に申し訳無く思ったが、那智と一緒に帰りたい気持ちが勝ってしまい、差し延べられた那智の手を取り帰路へと着いた





―――――





「斑目、何処だ!?」

「Sit!少し目を離すとすぐコレだ…永田!早く瑞希を探し出せ!」

「了解致しました、翼様」


瑞希が居なくなった事に気付いた翼と瞬は瑞希の予想通り街中を駆け回り探していた

永田が瑞希の帰宅に気付き二人に伝わるのはもう少し先





―――――

おか様リクエストで「那瑞で絡まれている瑞希を王子様のように助ける那智」だったんですが…す、すみません!全然王子じゃないですよね、本当すみません…
こんなので良ければ貰ってやって下さい!


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