俺とお前とにゃんこと
「悪い、翼!にゃんこ預かっててくれっ」
自室で寛いでいた中、突然扉が開かれたと思うとグレーの少々小汚い子猫を抱えた一が入って来た。
ソファで寛いでいた翼は驚き、身体を起こし何事かと瞬きを繰り返していると有無を言わさない状況でその子猫を押し付けられてしまった。
「what?な、何なんだ一体…」
「俺今から小テスト作りに学校戻らなきゃいけねぇんだ、後で迎えに来るから頼むっ!」
早口で言われ、更に必死な表情で頼まれてしまえば翼はただ頷くしかなかった。
翼が受けてくれた事に安堵し、一息ついてから一は慌ただしく部屋を後にした。
部屋には翼と一が連れて来た子猫だけ。
「………」
一体どうすればいいんだ?
腕の中で大人しくしている子猫を見て困ったように眉を寄せた。
途端、ニャー、と小さく鳴きながら翼の腕に擦り寄って来る。子猫のの汚れが翼の腕に移り、思わず表情が引き攣った。
「Sit!永田、永田は居ないのかっ!?」
腕の汚れと子猫の汚れを落とさせようと秘書である永田の名を大声で叫んでみたが、一向に現れる気配は無かった。
(そうだった、永田はtravel、に行っている最中だった)
夏休みとして二泊三日の休日を与え、永田はその期間を利用して旅行に向かい、翼の元を離れていた。
その事を思い出して舌打ちを一つ漏らし、子猫を抱えてバスルームへと向かう。
「この俺自ら洗ってやるんだ、感謝するんだな」
バスルームのドアを開け、シャワーを出して子猫に掛ければ慌てて逃げ出そうと暴れ出す。
「チッ、動くな!このっ…」
暴れ出す子猫を抑えながら汚れを落とそうと悪戦苦闘し、普段しない事に無駄に体力を消費してしまった翼は子猫を洗い終える頃にはぐったりとしていた。
暴れる子猫に飛ばされた水を浴び、着ていた服もびっしょりと濡れてしまっていたが、着替える気にもならずに洗った子猫をバスタオルに包んでソファに座りながら無言で拭いていた。
「…ったく、一の奴…この俺にこんなことをさせるなんて…後で覚えていろ」
此処には居ない一へ文句を零していると、タオルに包んでいた子猫がいつの間にか眠ってしまっていた。
そんな姿を見て思わず溜息が漏れる。
「…呑気だな、お前は」
つん、と指先で頭を小突いてみれば小さく身じろぐその身体。
何だか可愛らしく思えて自然と笑みが浮かんだ。
一が動物好きな理由が何となく分かった気がした。
「……ふぁ」
暫く眠っている子猫を眺めていたが、その眠気が翼にも移ったのか、欠伸が漏れる。
翼は子猫を起こさないようにそっと抱いたままソファに横たわり、重い瞼をそっと閉じた。
―――――
「悪い、翼……って、あれ?」
小テストの制作に手間取り、慌てて翼の部屋へ戻るとソファの上で眠る翼の姿を見つけ、思わず笑ってしまう。
「何だ、意外と仲良くしてたのか…安心したぜ」
本当は、少しだけ不安だった。子猫を預けて平気だったのだろうかと。
でも、そんな心配は必要なかったようだ。
「良かったな、翼とつばさ〜」
学園から戻って来る間、こっそりと考えて付けた子猫の名前。
指先でそっとつばさと名付けた子猫の頭を撫でれば小さく身じろぎ、それに連動したのか、翼の身体も身じろいだ。
同じ動きをする一人と一匹に思わず吹き出してしまう。
「ぷっ、くく…案外似てるんだな、お前らってさ」
帰って来る途中に買ってきたミルクとケーキの箱をテーブルに置き、翼と子猫が起きるのをジッと待った。
少し遅れてしまったが翼の誕生日を祝おう、そう思って買って来たケーキ。
同時に、つばさが来た祝いも兼ねる事になりそうだ。
眠る姿を見つめながらポケットに入れていた携帯を取り出し、カメラを起動させて翼とつばさの姿を収めて待受に設定し、それを眺めれば思わず表情が緩んでしまう。
「よし、可愛いな〜お前ら。でも…」
寝顔もいいけど、やっぱり早く目を覚まして欲しい。
早く、大事な事を言いたいから。
手を伸ばし、綺麗な髪をそっと撫でながら耳元へと唇を寄せる。
「翼ー、早く起きろ…な?」
起きたら目一杯、祝ってやるから。
真壁翼 HAPPY BIRTHDAY
―――――
これ書いている最中に翼が誕生日だという事を思い出しました←
ので、急遽翼バースデー小説に変更してみました。
翼おめでとう!
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