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sweet cake





「あ、せんせい〜」

「……………ん」


放課後、ぼんやりとしながら廊下を歩いていると見回りの最中らしい那智と遭遇する。
短く返事を返せば那智は瑞希の傍へと寄る。その姿をジッと見つめれば何の前触れもなく手を伸ばし、ポンポンと那智の頭を撫でた。


「………何、せんせい?」


突然の瑞希の行動に意味が分からず、更に子供扱いを受けている気分になって表情を歪めた。
そんな那智を気にする事なく穏やかな笑みを浮かべながら頭を撫で続け、満足行くまで撫でたところでその手を一旦止める。


「…だから、何がしたいの?せんせい」

「…………ふふ」


拗ねたような表情を浮かべながら問い掛けるも瑞希は一向に答える事はない。
更に困惑する那智の腕を取り、瑞希は突然歩き出す。


「え、ちょっ…だから何!?」

「…………秘密。こっちおいで」


ぐいぐいと腕を引っ張られ、仕方なく瑞希の後について歩く。
本当は見回りの途中なのに、そう思いながらも相手が瑞希のせいで拒否する事も出来ない。

暫く歩いて行くと、漸く瑞希の向かう場所が理解出来た。


「…調理室?」

「………入って」


ポケットから調理室の鍵を取り出し、扉の鍵を開ければ入るよう促される。
何故調理室の鍵を持っているのか、と疑問に思いながらも促されるがままに調理室の中へと入る。
那智が入ったのを確認してから瑞希も中へと入り、適当な場所に座るよう指示してから瑞希は調理室の奥へと消えた。


「……本当何なんだ?」


調理室にある椅子に腰掛けながら先程からの瑞希の行動の意味が全く分からずに、首を傾げた。

確かに瑞希の行動は今までだって不可思議な事はあった。しかし、今日は本当に意味が分からない。
首を傾げながら何とかその意味を考えようとするが、答えは出なかった。そうしている間に突然室内の電気が落とされる。


「…停電?いや、そんなはずは……、…?」


明かりの消えた室内の蛍光灯を見上げながら呟いていると、前方からぼんやりとした明かりを感じる。
何事かと視線を向ければケーキを持った瑞希が姿を現す。明かりの正体はケーキに立てられたロウソクだった。


「………誕生日、おめでとう」

「…へ?」


まだ困惑する那智の元へと歩み寄り、傍にあるテーブルの上へとロウソクを立てたケーキが置かれる。

プレートには『HAPPY BIRTHDAY なち』と書かれていた。

そこで那智は今日がどんな日かを思い出した。


(ああ、成る程ね)


これで漸く瑞希の不可解な行動の意味が理解出来た。

頭を撫でたのはおめでとう、という意味。
此処に連れて来たのは誕生日ケーキを食べさせたかったから。

瑞希の意図をやっと理解出来てスッキリし、テーブルに頬杖をついて置かれたケーキをジッと見ればケーキの形が不格好なことに気付く。
生クリームは均等に塗られていないしプレートに書かれている文字もバランスが悪い。


「ん?」


不思議に思ってケーキをマジマジと見ていたら目元を瑞希の手で覆われてしまった。


「…………あまり、見ないで…恥ずかしいから」

「え、……ってことは…せんせいの手作り?」


目元を覆う手を掴んで離させ、顔を上げればロウソクの明かりに照らされ、照れた瑞希の姿が視界に映る。
問い掛けた言葉に返答はなく、口を閉ざしたまま居るのは固定の証。
自分の為に作ってくれた、その気持ちが嬉しくて勢いに任せて立ち上がり、ケーキを挟んで強く瑞希の身体を抱き締めた。


「……っ、ほ…方丈君」

「ありがと〜せんせい、嬉しいよ」


強く強く抱き締めてくる腕に少し苦しさを感じたが、それ以上に喜んでくれた事が嬉しくて表情が緩んだ。
そして、表には出していなかったが緊張が解れ、一気に眠気が襲って来てグラリと瑞希の身体が傾いた。


「う、わっ!?」


抱き締めていたお陰で倒れる事はなかったが、バランスが崩れて慌てて身体を支えた。

ケーキを挟んだこの状態、はっきり言ってキツい。

仕方なく瑞希の身体を腕で支えたまま何とかテーブルに乗り、傾く身体を一旦座らせて上半身を自分の方へと寄り掛からせた。


「せんせい、眠いの?まだケーキ食べてないんだけど…」

「…………ごめん、ねむ……今日、早起きしたから…ねむ、い………ぐぅ…」


うとうととしながら紡がれた少ない言葉の中で、何故眠いのかを理解すれば怒る事が出来なくなり、眠ってしまった瑞希の頭をそっと撫でた。


「…仕方ないなぁ」


早起きしたのは多分、ケーキを作る為。
朝早くから学校に来て調理室に篭って作っていたんだろうと簡単に想像が出来た。


(実際、調理室の鍵持ってたしね)


寝息を立てながら眠る瑞希の寝顔を見つめながらケーキに指を伸ばし、生クリームを掬ってそれを口に運ぶ。


「ん、うまい」


咥内に広がる程よい甘さに表情が和らいだ。

味見は此処まで。ケーキは愛しいこの人が起きてからゆっくりと二人で味わおう。


「ありがとね、せんせい。大好きだよ」


眠る瑞希にの身体を片腕でしっかりと抱き、頬に口付けを落としながら閉ざされた瞳が開かれるのを静かに、ゆっくりと待った。





☆‥‥+‥‥◇‥‥+‥‥☆


    方丈那智

   HAPPY BIRTHDAY


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よし、那智の小説は22日に出来た!(現在22:40)
色々と不完全燃焼だけど…でも、愛だけはいっぱい詰まってるから!
那智HAPPY BIRTHDAY☆


あきゅろす。
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