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微睡み





「……………あ」


授業を抜け出してバカサイユへとやって来ればソファで眠っている先客を見付け、思わず声が漏れる。起こしてしまわないか、内心焦ってしまうが微動だにしない様子にホッと一息つく。


「……………」


足音を立てずにそっとソファまで歩み寄れば眠っている顔を覗き込む。
その表情には疲れが見え、目の下には隈も見られる。


「………また、無理してる」


思わず溜息が漏れた。バンドとバイトで日々身体を酷使しているのはB6全員知っていた。

何故そんなに無理をするんだろうか。

瑞希には理解出来なかった。今もベースの練習をしている間に寝てしまったらしく、ベースを膝に乗せたままの状態だ。
このまま放っておいてもいいと思ったが、何故か放っておけなくて室内に置いてある毛布を取りに行き、それを持って戻れば瞬の上にそっと掛けてやる。


「………ん、」

「………………っ」


毛布を掛けられた小さな重みに気付いたのか身体を揺らし、閉ざされていた瞼をゆっくりと開いて目を覚ます。起こしてしまった事に動揺してしまうが、表情を表に出さない為に無表情のまま瞬の姿を見下ろす。


「…………起きた?」

「…斑目か、ああ……起きた。いつの間にか寝てしまっていたんだな」


膝の上に置いたままのベースを気遣いながら身体を起こせば膝に掛けられている毛布に気付き、思わず首を傾げる。


「…?」


毛布を掛けた覚えは無い。寝る予定が無かったから毛布を準備する訳もない。


(ということは、斑目が…?)


そんな気遣いをされるとは思っていなかった為に驚き、瞳を見開きながら視線を向ければ気まずく感じたのか視線を逸らされてしまう。
視線を合わせてはくれない瑞希に思わず肩を竦めて溜息を漏らすも気遣いが嬉しかったのは確かな為、礼を伝える為に口を開く。


「お前が毛布を掛けてくれたんだろう?意外だったが…その、感謝する」


普段から礼を言う事が余り無く、何処か照れ臭さを覚えながらも礼を言うが、言った後に恥ずかしさを覚えて思わず顔を背けてしまう。
礼を言われた事と照れ臭そうにしている瞬の姿を視界に留めれば何だか擽ったいような感覚に襲われ、自然と口元に笑みが浮かぶ。


「……ん、隣…………いい?」

「…勝手に座れ」


素っ気ない言い分に思わず笑ってしまい、瞬らしい、と内心思えば少し距離を取って隣に座る。
お互い視線を合わせる事も無く、言葉を交わす事も無く、 只沈黙が訪れる。時間だけが過ぎるが、不思議と気まずさは感じられなかった。その静けさが逆に心地好くなり、眠気に襲われ始めた瑞希はうとうととし始める。


「………ん…」

「…斑目?」


静かな空間に漏れた小さな声に反応し、不思議に思いながら視線を向ければ眠気に襲われ不安定になった瑞希の身体が瞬の元へと傾いてくる。


「うわっ…!?」


驚きの余り、反射的に瑞希の身体を支えるも瑞希の身長が高い為に身体を支えきれず、ゆっくりと瞬の膝へ向かって倒れてくる。


「こら、ちょっ…待て!危ないだろ、斑目!」


膝に置いたままだったベースに当たってしまったら危険な為、倒れてしまわないように片手で身体を支えながら慌ててベースをソファへと立てかける。
ベースを立てかけた瞬間、膝の上に落ちて来た頭にベースが当たらなくて良かったと安堵する反面、こうやって瑞希が身体を預けて来る事に驚いた。


「……人嫌いなくせに、何なんだ…お前は」

「…………ぐぅ…」


問い掛けても寝息しか返って来ない。
安心しきった顔で、気持ち良さそうに眠る瑞希の姿を見れば自然と笑みが浮かんだ。間近でこうやって顔を見る事は余り無く、ここぞとばかりにその寝顔を見つめる。
普段よりも幼い寝顔に柔らかそうな髪。
何故かは分からないが触れてみたくなって、そっと髪に触れる。


「………ん」


髪に触れられた事に警戒心が現れたのか、微かに瑞希の身体が揺れる。
驚いて手を離そうとするが、薄く目を開いた瑞希の瞳に気付き、引こうとした手が思わず止まる。


「な、何だ?」

「………瞬、あったかい…」

「…は?」


どういう意味だ、と問い掛ける前に瞬の手を握り、また瞼を閉じて眠ってしまった。


「……ッ」


手を握られてしまい、意味がわからず混乱してしまったが、それ以上に赤くなってしまっている自分自身にも気付き、更に混乱してしまう。

いや、本当は赤くなってしまった理由には気付いている。

でも、何だか認めたくなくて、自身を落ち着かせる為にゆっくりと息を吐いた。


(頼むから、誰も来ないでくれ)


赤くなっている顔を見られたく無いのと、この時間を終わらせたく無い。

繋がれた手を緩く握り、思っていたよりも柔らかな髪を空いている手で撫で、感触を楽しみながらそう思った。


「今日だけ特別に膝を貸してやる…感謝するんだな」





―――――





7777番を踏んで下さった悠さんのリクエスト『瑞瞬瑞で素直になれない二人』でした。何かズレてる気がしますが…(汗)あと、瞬瑞寄りになりました。基本瑞希受けなので(←)
瞬は瑞希が好きだけどそれを認めたくなくて、瑞希は好きだって気付いてないんだけど瞬には気を許してしまう、みたいな感じで書いてみたんですが…力不足ですみません(汗)
こんなのになってしまいましたが、受け取って下さると嬉しいです。リクエストありがとうございました!


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