とある大切な日
「……よし、到着ーっと」
待ち合わせ場所である駅前に着き、乗って来たバイクを降りてヘルメットを外せばポケットに入れていた携帯を取り出して時間を確認した
待ち合わせ時間は10時。余裕を持って来た為に30分も早く着いてしまったがそれは気にしない
漸く、学校以外で会う時間を作る事が出来たから
珍しく上機嫌になりながら今日のプランを思い返し、脳内で確認しながら瑞希の到着を待った
―――…一時間後
「……寝坊したのかな?」
―――…二時間後
「………遅い!さすがに遅すぎるだろっ」
二時間が経過しても一向に現れる気配の見せない瑞希に痺れを切らし、手に持っていたヘルメットを被りバイクに乗り込もうとした瞬間、前方から良く見慣れた姿が見えた
「………ごめん、遅れた」
申し訳なさそうな表情を浮かべながら待ち望んでいた人物が到着する。本当に申し訳なさそうな表情を浮かべる瑞希を見れば那智の怒りも何処かへ吹き飛んでしまい、小さく息を吐き出しながら準備していたもう一つのヘルメットを瑞希へと投げた
「……ったく、いいよ。とにかく後ろ乗って?時間が勿体ないからさ」
「ん……」
小さく頷いて受け取ったヘルメットを被れば那智の後ろに乗り込み、しっかりとしがみつく
背中から伝わる体温に思わず表情を和らげながら一声掛けてバイクを走らせた
―――――
「せんせい、着いたよ」
「………水族館…?」
バイクを降りながら目の前に見える建物に視線を向けるとそこには大きな水族館があった。行き先を聞いていなかった為、少し驚いてしまったが瑞希の懐に入っていたトゲーが顔を出し、水族館を見て喜んだのを見て瑞希も思わず笑みを浮かべた
「せんせいがトゲーもみんなで楽しめる場所、って言ったからここに来たんだ」
バイクのエンジンを切り、被っていたヘルメットを外しながら声を掛ける
(でも、本当は二人だけで来たかったのに)
そう言いかけるも何とか押し込み、瑞希の腕を引きながら水族館へと向かった
チケットを二枚購入し、館内へと足を踏み入れ先ずは順に回ろうと那智は考え、背後に居る筈の瑞希へと声を掛けた
「ねぇせんせい。まずは順に……って、せんせい!?」
背後に居るとばかり思っていた瑞希の姿が何処にも見当たらなかった
相変わらずマイペースな瑞希に舌打ちしながらも直ぐに探しに向かった
(全く、これじゃデート台なしだよっ)
―――――
「クケ、ク〜ケ〜ッ!」
「………ん、こっち?」
水族館に足を踏み入れた瞬間、懐に入ったままのトゲーが見たい場所があるのか騒ぎ、那智に着いて行く事も忘れてトゲーの望む場所へと転々と移動していた
余り来る事の無い水族館を見回り、トゲーが嬉しそうにするから那智とデートに来たという事を瑞希はすっかり忘れていた
暫くトゲーの希望通り歩き回っていたが少し疲れてしまい、椅子を見つけそこに腰掛ければ一気に眠気が襲い瞼が重くなり、瑞希は一眠りしようと瞼を閉じた
―――――
静かな館内に靴音を響かせながら那智はひたすら瑞希の姿を探していた
水族館は本来のんびりと見回る場所の筈なのに、そう思いながら歩き続けていた
この水族館は無駄に広い。お陰で一度はぐれてしまえば中々会う事が出来無い
苛々が募り、何度目かの舌打ちをしたところで漸く椅子に座って眠っている瑞希の姿を見つけた
「せんせいっ」
「…………ぐぅ…」
「…寝てるし」
声を掛けても起きる事無く、寝息を立てながら眠り続ける瑞希に思わず肩を落としながら瑞希の隣に腰掛けた
そして、無防備に眠る寝顔をジッと見つめた
(あーあ…、これじゃ学園に居るときとかわんないよ)
そう思いながら重く息を吐き出すと閉じられていた瑞希の瞼がゆっくりと開き、ぼんやりとした表情を浮かべながら那智の方へと視線を向けた
「…おはよう、せんせい」
「…………おはよう…。ごめん…」
何処か呆れた表情を浮かべている那智に気付き、慌てて謝罪の言葉を口にする
今日はデートに来ていたという事を漸く思い出した。遅刻はするし直ぐにはぐれ…迷惑ばかり掛けている
マイペースな瑞希だが、流石に申し訳無くなって肩を落としているとトゲーが瑞希の肩に乗り、鳴き始めた
「トゲー、クケク〜ケ〜ッ!」
「……え、次はあっち…行きたいの?」
「クケーッ!」
そうだ、と言わんばかりに鳴くトゲーと瑞希のやり取りに那智はピクリと眉を動かす
今にもトゲーの為に動き出してしまいそうな瑞希の腕を掴んで引き止めた
「…ストップ。今日はおれとデートだろう?トゲー優先してどうするんだよ」
「え…でも………トゲー、行きたいって…だから、さっきも…トゲーと一緒に回って………」
「は?」
(ちょっと待て、今なんて言った?)
瑞希の言った言葉を一旦整理する。トゲーの行きたいと言った場所をわざわざ回っていた
つまり、瑞希がはぐれたのは…
(…全部、トゲーのせい?)
恐らく、いや間違いない。瑞希はトゲーの為に色々しているのは知っている。だから那智とデートに来た筈なのにトゲーを優先した
そう結論に達すれば那智の怒りが上昇し、瑞希の腕を掴んだまま水族館を出る為に歩き出す
「…っ、方丈く……トゲーがまだ…」
「……トゲー、トゲーってうるさい」
制止させようと声を掛ければ低いトーンで言葉が帰って来た。そのトーンの低さに思わず瑞希の肩が跳ねる
そこで漸く那智を怒らせてしまったという事に気付く。腕を掴む力が強過ぎて痛い
そしてバイクの元まで戻ればヘルメットを渡され、何も反論出来ず大人しく後ろに乗った
「………方丈く…」
「今日はおれとデートの日だろ?トゲーのことなんて忘れろよ」
顔を振り向かせ、瑞希の唇に唇を重ねながら嫉妬丸出しの表情で告げた
突然の口付けに驚いたが、嫉妬している那智を見て何だか嬉しくなり、トゲーを懐へと入れて那智に抱き着いた
「……ごめん、でも…かわいい」
嫉妬してくれている那智が可愛く見えて思わずそう呟けば那智はバツが悪そうに顔を元の位置に戻してヘルメットを被る。それを見て瑞希も同様にヘルメットを被った
「全く…、今からデート仕切直しするから。…ホテル、行こっか」
「…………え?」
行き先を告げられ、反論する前にバイクのエンジンが掛かって走り出す。心無しかスピードが何時もよりも早い
「ほ、方丈君っ…!」
「なに、反論も文句もなにも聞きませーん。おれを怒らせたんだ…付き合ってよ?」
「………っ!」
那智を怒らせてしまったのは自分である事はわかっている。だけど、瑞希は今すぐ逃げ出したくて仕方が無かった
今からホテルに向かうならやる事は多分一つ。まだこんなに明るい時間から…そう考えたらゾッとして思わず身震いした
(………でも、少しは…付き合ってあげようかな…)
明日の自分の身を案じながらも自業自得だと思い、運転する那智の背中に身体を預けながら目的地に着く迄の間、暖かな体温にそっと目を閉じた
―――――
5100を踏んで下さったみっきー様からのキリリク『那瑞で初デートで張り切る那智と迷子になる瑞希』でした。リクに添っているか怪しいですが…;トゲーの鳴き声がわかりません…勉強不足だ
みっきー様、こんな感じで良かったでしょうか?
キリリクありがとうございました!
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