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標的





真面目に授業を受けるのが何だか怠くて仮病を使って教室を出た。兄である慧が随分と心配し、多少の申し訳無さを覚えたが、それ以上につまらない授業なんて受ける気になれず、軽く慧をかわしてつかの間の自由な時間を手に入れた


「さて、どこに居よっかな」


保健室は多分上條先生が居る、そう考えたらそこへ行く事は躊躇われた


「…屋上にでも行くか」


そろそろ暑くなって来ている時期な為屋上へ行くのは少し躊躇ったが、サボる場所で思い付くのはそこしか無かった為に仕方なく向かう事を決意した
廊下をダラダラと歩きながら何気なく窓の外に視線を向ければ人影を一つ見付ける


(…誰だ?今は授業中なのに)


窓に手を添えて人影の正体を確認しようと窓に顔を近付け、ジッと凝視すればその姿は良く見覚えのあるものだった

A4の一人、不破千聖。彼だった

暫く窓からその姿を見つめていれば行き先を何となく把握出来た。授業をサボる為か千聖が生活しているテントがある方へと向かっている様子。何か面白い事があるかもしれない、そう思えば屋上へ向かう事をやめ、早足でテントの元へと向かった





―――――





「さて、そろそろ出来ているはずだが…」


テントの中に戻り、クーラーボックスの蓋を開ければ氷や保冷剤などで良く冷やされている水羊羹の器が姿を現す。人数分の器の他に試食用の小さな器に作られた水羊羹を取り出し、味見も兼ねて一息つく為お茶のペットボトルを手にしながらテントを出ようと上半身をテントから出した


「お、不破っちょ。何かうまそうなもの持ってるね〜」

「っ!?」


テントを出た瞬間、頭上から降って来る声に驚いて慌てて顔を上げれば千聖を追って来た那智が立っていた
何故こんなところに居るのか、そんな疑問を持ちつつも余り関わりたく無いと思った千聖は立ち上がり、那智の横を摺り抜けて釣りをする為に置いてある椅子へと向かい、そこに腰掛ける

自分の事を無視する千聖に多少の苛立ちを覚えるがそれは表に出さず、水羊羹を食べ始めている千聖の隣に立って顔を覗き込んだ


「不破っちょ、無視すんなよ〜。ね、その水羊羹うまそうじゃん?おれにもちょうだい」

「……ない。人数分しか作ってないからな」


無視しても話掛けてくる那智に内心面倒だと思いながらも言い返す。那智の方は決して向かずに自分の作った水羊羹を食べ続けていた

(今日もうまく出来たな。それにしても…)

水羊羹を食べ続ける姿を凝視されれば流石に気が散るのか那智の方へと視線を向ければ笑みを浮かべ続けている那智と視線が合った
浮かべられている笑みが相変わらず胡散臭い、そう思いつつも口には出さなかった。その代わり、先程から気になっている事を問い掛ける


「……お前は、何故ここにいる?今は授業中のはずだ」

「あははっ、おれは体調悪いから抜け出してきたの。そしたら授業サボってる不破っちょを見つけてさ、捕獲しに来ました〜」


軽い口調で答える那智に思わず溜息が洩れる

絶対に嘘だ

体調が悪い風には全く見えない。それに捕獲しに来た、と言った割にはそんな様子も無く、ただ千聖の傍で話掛けてくるだけ
那智の行動の意味が分からず思わず眉間に皺が寄せられる


「本当に捕獲するつもりがあるのか?」


水羊羹を口に運びながら思った事をそのまま問い掛けた。千聖の問い掛けを聞き、掛けられた言葉が意外だったのか那智は瞳を丸くさせた
が、直ぐに吹き出して笑いながら千聖の肩に手を乗せて顔を近付ける


「最初はそのつもりだったんだけどね。不破っちょがうまそうなもの食べてるし、それもらう代わりに見逃してやろうと思ってさ」

「…何を言っている?お前の分はないと……ッ!?」


近付けられている顔に特に不信に思わず眉間に皺を寄せながら最後の一口の水羊羹を口に運ぶと不意に唇に柔らかな感触を感じて言葉を遮断される

余りにも理解しがたい行動に一瞬何をされたか分からなかった

分からずに只固まっているとぬるりとした舌が千聖の咥内へと侵入してくる。そこで漸く何をされているか理解出来た


「っ、ん…ンッ!」


キスされている

それを理解した瞬間、一気に顔が赤くなり思い切り那智の肩を押し返す。肩を押されると同士に千聖の咥内にまだ残っていた水羊羹を絡め取り、自分の咥内へと移動させ、千聖の温もりの残る生温い水羊羹を喉へ通せば口端を吊り上げ笑みを浮かべた


「ッ、と…ごちそうさま〜うまいじゃん、コレ」

「お、まえ…いきなり、な、なな何をっ…!」


口元を手で抑えながら顔を真っ赤にさせ、うろたえている千聖を見れば那智は更に笑みを深めた

(なんか、かわいいなぁ)

普段は面倒を口癖に、やる気のなさそうな表情や眉間に皺を寄せている表情しか見たことが無かった為そんな千聖を見るのが新鮮だった
それと同士に浮かんだ『可愛い』と思う感情

その感情に自分でも驚いたが、別に不快な気持ちにはならない。何故そんな風に思うのか今はまだ理解しがたかったが、少なくとも自分は『不破千聖』という人物を気に入ったのは確かだ


「不破っちょ真っ赤、かっわい〜」

「っ、お前…いい加減に…!」


千聖がまだ赤くなったまま怒りを見せた瞬間、タイミング良く授業終了を告げるチャイムが鳴り響く
それを聞けば流石に次の授業もサボる訳にはいかないと判断した那智は仕方なくその場を後にする事にした


「っと、残念。時間切れ。おれ戻るね」

「おい、方丈!人の話をっ…」


未だ怒り続けている千聖を横目に背を向けてその場を後にしようとするも、その前にもう一度千聖の方へと身体を向けた。そして小さなリップ音を立て唇に口付けを与える


「……ッ!?」


途端、赤みの引いていた千聖の顔がまた真っ赤に染まる。そんな千聖を見て満足そうに笑った


「本当かわいいね、不破っちょ。コレは不破っちょの温もりつき水羊羹をもらったお礼だよ。あははっ」

「い、いい加減にしろ!」

「いいじゃん…っと、本当にそろそろヤバいな」


楽しげに笑いながら千聖の怒りの声を聞きつつも、もう一度チャイムが鳴り響けば流石にもう時間の限界でその場を離れる為背を向けて歩き出した。が、一つ言い忘れていた事を思い出して歩みながら顔だけを振り向かせて言葉を紡ぐ


「あ、そうそう。明日からおれの分のおやつもよろしくね。じゃないと…また今日みたいに奪っちゃうよ?」

「だ、誰がお前の為に作るか!」

「あはは、じゃあね〜」


ひらひらと手を揺らして校舎に身体を向ければ教室に向かう為足を向ける
その間も那智の口元から笑みが消える事は無かった

(かわいくて面白い…不破といたら退屈しなさそうだ)

これからの事を考えていけば更に笑みを深まった
A4が学園に来てから退屈しなくなっていたがやはりそれも慣れて退屈を感じ始めていたところに見つけた、面白いもの

さて、これからどうやって落としてやろう?

気に入ったからと言って先に落てやるのはやはり気に入らない、だから先に夢中にさせてやる


「覚悟しろよ、不破」





―――――





那智×千聖でした
…無しですか?私的にはありだと思うんですが…このCPについて良ければ反応頂けると嬉しいです←
感想いつでもお待ちしております←←


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