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君の為に





いつもいつも作ってくれる料理。自分の為だけの料理

それは本当に美味しくて、嬉しくて、心が温まった
大切な相手が作ってくれているから余計に

その同じ気持ちを、少しでも感じて欲しくて
少しでもいつものお礼がしたくて

だから、少しだけ頑張ってみよう、そう思った


「……だーっ!わっけわかんねぇっ」


何時も料理を作ってくれる千聖を少しでも喜ばせたくて、驚かせたくて天十郎は料理の本を開きにらめっこしていたが、料理なんて全くした事が無かった為に書いてある事の意味が全くわからなかった


「ぜんっぜんわかんねぇ……仕方ねぇ、聞くか…」


本当は自分一人で何とかしたかったが、如何せん全く経験の無い事だ。天十郎は諦めて料理を習う為に母親の元へ向かった





―――――





「っし、出来たぜっ!見た目は悪いが…まぁ、食えねぇことはねーだろ」


天十郎が母親に習って作ったのはオムライス。危なっかしい手つきに何度も何度も手を出されそうになったがそれを毎度交わして何とか一人で作り上げた。不慣れな料理をした為数ヶ所包丁で指を切り、指には絆創膏が幾つも巻かれていた
しかしそんな事も気にせずオムライスを盛り付けた皿を持ち自室から千聖の部屋へと繋がる道を走って通り抜ける





―――――






千聖は自室のベットに寝転がり仮眠を取っていた。が、夜も更けた頃空腹を覚えて閉じていた瞼を自然と開けばゆっくりと身体を起こし、欠伸を一つ洩らす


「くあぁ…。そろそろ飯でも…」

「おーい、千ーっ!」

「………ん?」


夕食でも食べよう、そう思った瞬間ドタドタと騒がしい足音が抜け道の方から聞こえる
その騒がしい足音と共に聞こえる声に思わず千聖は肩を竦めたがベットに座ったまま迎える為、身体を抜け道の方へと向けた


「よっ、千!メシ食ったか?」

「いや、まだだが……おまえ、その手にあるものは何だ?」


部屋に入った途端距離を詰めて近づく天十郎の勢いに少し驚きつつもそれ以上に室内に漂う匂いに不思議に思い首を傾げた。そしてふと天十郎の姿を見直せば手にある不格好なオムライスに気付く。匂いの正体はこれか、そう思いながらも驚きが隠せない
オムライスを見て瞬きを繰り返す千聖を見た途端、天十郎は照れた表情を浮かべるもそれを隠すようにそっぽ向きながらずい、とそのオムライスを差し出した。その勢いに軽く身体を反らせながらも千聖は反射的にそれを受け取った


「な、何だ…?」

「見てわかんねーのかよ、オムライスだ!俺様が作ったんだ、おめぇにやる!」

「……はぁ?」


天十郎の口から告げられた言葉が余りにも意外過ぎて開いた口が塞がらなかった。間抜けにも口を開いたまま渡されたオムライスを見た。卵は上手く巻かれて居ないし所々焦げていた。皿の上にケチャップライスが零れているのを見て余りの不格好さに小さく息を吐き出してしまうも、ふと天十郎の手へと視線を向ければ指に幾つも巻かれた絆創膏が視界に入った

そう言えば今まで天十郎が料理を作った所は見た事が無かった。千聖が作っているから作る必要は無い、そう聞いた覚えもあった

しかし、その絆創膏だらけの指を見て天十郎が自分の為にした事の無い料理をして頑張ってオムライスを作ってくれた。その気持ちを汲み取る事が出来て千聖の表情が自然と和らいだ


「…ふ」

「な、何笑ってんでぇ!い、いいからさっさと食いやがれっ」

「そうだな、せっかくだし冷めてしまう前に食わせて貰おう」


千聖から小さく洩れた笑みに更に照れてしまい、それを誤魔化す為に声を張り上げながら早く食べる様促す。天十郎に促されるがままに頷いて皿に添えられていたスプーンを手にし、一口分スプーンに掬い口に運ぶ
食べる姿を食い入る様に見ながら天十郎はどんな反応が来るか不安になりながらも待った


「……ど、どうだ?」


暫し訪れた無言に耐え切れずに自分から口を開く。余り自信の無い料理だが不味い、と言われたらどうしよう…と一つの不安を抱えて
しかしそんな不安を消す様な柔らかな口調で言葉を返される


「見た目は悪いが…味はうまいな。天の気持ちも込められているようだしな」


柔らかな笑みを浮かべながらスプーンを持たない手で千聖は天十郎の手をそっと握る。そしてその手を自分の口元まで運び、絆創膏の巻かれた指先に口付けを一つ落とした
途端、恥ずかしさに真っ赤になり慌てて千聖の傍から離れ、背を向けながら声を張り上げるも、直ぐに小さな声色に変わった


「て、てやんでぇ!見た目が悪いって、余計でぇっ!……ちょっと、いつもの礼が…したかっただけだ……いっつも、食わせて貰ってっからよぉ…」

「…天」


余りにも小さな声だったが千聖の耳にはしっかりと届いた。その一言を聞けばどうしようも無く愛しさが込み上げる
千聖は座っていたベットから立ち上がり、後ろから天十郎の身体を抱き締め、片手を顎に掛け首に負担を掛けない様に自分の方を向かせれば軽く唇を重ねた


「…っ、せ、千…?」

「俺の為に不慣れな料理を作ってくれて、感謝する…ありがとう」

「……おうっ」


改めて告げられた言葉に照れてしまうも、その言葉が嬉しくて頬を紅潮させながらも満面の笑みを浮かべた
そして千聖の腕の中でもぞもぞと動き、身体の向きを変えれば次は自分から口付けを一つ


「千、すっげー好きだぜっ!」





―――――





拍手で天受がもっと読みたい、というコメントを見て書いてみました。可愛い話が書いてみたかったんですが…可愛くなってない気が…;;


あきゅろす。
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