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05




『俺ね思うんだけど名前さんで良かったよ』

どうしたことなのだろう。昨日北山くんから聞いた言葉が忘れられない。まだ3日目なのに、あたしにあらぬ感情が生まれ始めたのか…。うぬぬ、それだけは有り得ない。とりあえず、今日は店が定休日で休みなので1日ゆっくり過ごすことにしよう。それにしても、寝顔も何だかかわいいなプクッと可愛く膨れた唇が可愛い、わっ睫長い。 (…羨ましいんだよ) ジロジロと観察していたら、パカリと北山くんの目が開いた。わっ、と一人でびっくりしていたらフッとまた北山くんはエロスな笑いを浮かべた。


「おはよ名前さん」
「う、」
「なに、朝っぱらからやらしーの」
「な、」

「嘘だよ、起きよ?」


くう!ワトソン君!北山氏の後ろから光が見えるのは私だけなのだろうか!ワトソン君!この謎を解明したまえ!早く、早くするんだワトソン!は、名前博士!それは幻覚でございます!なに!?ワトソン!お前には見えないと言うのか!博士、それは恋ゆえ…

…ダメだこりゃ。何だか、あたしは可笑しくなったらしい。心の中でワトソン君は博士に怒鳴り散らされている。グッジョブ、ワトソン!朝ご飯は昨日店長から頂いた廃棄用のパンで充分だ。北山くんにパンを渡すともそもそと食べ始めていた。さて、今日は布団干そう。ベランダの手すりを雑巾でキレイに拭くと、2枚の布団を干していき枕も飛んでいかないように干した。今日は洗濯日和だな、うん気持ちの良い朝だ。モソモソとまだパンを食べ続けている北山くんに牛乳を差し出すと、ニコリと笑ってくれた。


「名前さん食べないの?」
「食べるよ─、後で」
「ふーん?ね、名前さん」
「なーに?」

「あのさ、俺お菓子作りたいな」
「お菓子?」
「うん、作ってみたい」
「んー、家にある材料から言うならクッキーかなあ」
「あ、俺クッキー好きだよ」
「なら良かった、じゃあ後で作ろうか」


北山くんから半分パンを貰うと、小さく千切って口の中に入れた。 (あ、美味しい) にしてもだ、お菓子作りたいなんて可愛いな本当に。まあ今は男の人のパティシエさんの方が多いし、そう考えたら北山くんがお菓子作りたくなったのは別に珍しくもないな。現にあんなふざけた八重歯でもパティシエになれる時代なんだから。本当にあいつはふさげているんだから全く。1つ訂正しておこうか、あたしは別にふざけた八重歯が嫌いなわけではない。というよりかは、むしろ好きな方だとは思う。お菓子作りにセンスはあるし、そこは尊敬してやろう。

カチャカチャとボウルやグラニュー糖・バター・バニラエッセンス・ベーキングパウダーを用意した。ああ、軽量の測りも用意しなくちゃ、クッキーの型も用意して、と。作り方知ってれば北山くんも一人で作れるでしょ、多分


「北山くん用意出来たよ」
「あ、ありがと名前さん」
「…なによ」
「んー、なんかその『北山くん』気に入らない」
「へ?」
「いっそ、宏光にしない?」

「な、に言って!」
「ほら、言ってみてよ、名前」


ズイッと近付いてきた北山くんの顔に踊り始める心臓。バクバクバクバクバクバクバクバクバクバクうるさいよ、全く!


「ひ、ろみ、つ!」
「ん、なに名前さん」
「よ、呼べって言ったから!」
「じゃこれからは宏光ってね」
「なっ!」
「ほら、早くクッキー作ろうよ」


なんてマイペースなんだ!楽しそうにキッチンに向かった北山くん (…ああ、宏光か) の後ろを付いていくとバターを取り出して、グラムを測って貰うことにした。バターを測り終わったら次はグラニュー糖だ。北山くんにハイッと渡して、あたしは小麦粉を取り出して、北山くんの側に置いた。


「わ!200gって言ったじゃん!」
「え、?」
「え?じゃないってば!もう!」
「名前さん怖い」
「パティシエなめんなよ小僧」
「へっへー!」


何とかかんとか生地をこねるまでに至って、北山くんがこねているのを見守っていながらも、あたしも何か作りたくなってきてシュークリームを作ることにした。生地を完成させクッキングシートを引いてその上に生地を少しずつ垂らしていく。先焼いても良いかな、良いか焼いちゃおっと。レンジに入れて時間と温度を設定して焼いていく。そしたら北山くんが、ちょっと奇声をあげていたけれど知りません。焼けるまでテレビでも見てようとテレビを付けても面白いのは全くやっていない。仕方ない、携帯を見るとメールが1件届いていた。 (…げ、!) あのふざけた八重歯めが!メールに添付されていた写真を見ると、そこには美味しそうなケーキ。どうやら自作らしい、メールを返して携帯を閉じたらちょうどレンジから音が鳴った。冷蔵庫からシュークリームの中身を取り出して、レンジから美味しそうに焼けた生地を取り出し切り込みをいれて中身を入れていく。…うん!美味しそう、北山くんをチラッと見ると、生地をレンジに入れていた。


「あ、美味い!美味いよ名前さん」
「良かったね」
「やっぱパティシエさんに習って作るクッキーは違うね」
「………照れるじゃん」






日に日に近付く距離
(名前さんのシュークリーム美味しいよ)
(…ありがとう)







 



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