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優しい嘘(江夏)



「す、ぐる」

頬に真っ赤な血が付いているのを見て、頭がクラクラ揺れた。ああ、どうして彼は喧嘩をするのだろう喧嘩をしたって虚しさが残るだけなのに
カラカラ、と彼が金属バットを引きずる音がした

どんどん近寄って来るにつれて、いま彼がどんな顔をしてるのかが見えた。それは、切なくて悲しくて悲壮感が漂っている。

無理やり引き寄せられるのに抵抗はしないで、ゆっくりと体を預けてくる卓を抱き締めた。

体は大きいのに小さな子供みたいで、手の力を緩ませばすぐに彼が居なくなる気がして無意識に腕に力を入れた。ギュウッと力を入れれば、弱々しくも彼はそれに応えてくれる。卓、ねえ卓…何処にも行かないよね?


「…いてえよ、バカ」


掠れている彼の声はあたしを不安にさせるには十分だった。どうして彼はこうなってしまったのだろう、まるで自分の存在価値を試すように喧嘩ばっかり


「泣き虫、」
「そ、なの…」
「俺のせいって?」


彼の問いには何も答えなかった。本来なら殴られてしまうような行動でも、彼が殴らないのはやはり弱ってしまってるからだろう。


「あたし、卓から離れてかないよ」
「…」
「………だ、から…も、やめてよ」

優しい嘘で彼を包んだならば
卓が小さく見えて仕方なかった、





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