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溶けていく心(赤星)

※『溶けて混ざり合う』続き


『マネージャーになるなら俺が甲子園に連れて行きますよ、名前先輩』


あれから先輩は野球部に入部した。なんか川藤と濱中が異常な喜びを示していた。俺と先輩は微妙な関係を保ちつつも、前よりかは仲良くなっているような気はする、…多分。『甲子園に連れて行きますよ』そう言ったのに偽りはない。だって、俺が先輩をあんな顔にしたんだから。だから素直に連れて行きたいと思ったんだ、甲子園に。


「赤星くん、はい」
「…どうも」


渡されたスポーツ飲料を口に含むと、甘すぎず水っぽすぎずのちょうど良い感じだった。ドサッとベンチに座ると、濱中と名前先輩が見えた。濱中は尻尾を振る犬みたいで、先輩からスポーツ飲料をもらうとすぐにゴクゴク飲んでいた。…なんか調子狂うっていうか、

『濱中くんって本当に一途で真っ直ぐだよね』

それはそうだと思う。だけど、その言い方は何か俺が真っ直ぐじゃないと言われているみたいで…。いや実際みんなから見たら真っ直ぐじゃないかも知れない。ため息をつくと顔に帽子を多い被せてベンチにゴロンと寝転がった。濱中と先輩の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。


「、甲子園連れて行って────…」
「ほんと?ありがとう」


やけにハッキリ聞こえたのはその部分だけ。フツリフツリと何かが込みあがってきた。俺じゃなくても良いのか、濱中でも甲子園に連れて行ってくれるなら誰でも良いのだろうか。


────

練習も終わって着替えも終わった。泥だらけの服の泥を軽く落として袋の中に入れた。外に出るともう真っ暗で少し肌寒い、外には名前先輩がいて少し離れたところに八木さんと川藤がいた。


「赤星くん、お疲れ様」
「………っス」


『ほんと?ありがとう』

俺じゃなくて濱中に先輩は夢を託したんだ。ザッザッ、と歩き出すと先輩も後ろからちょこちょことついてきた。濱中、待ってたわけじゃないのか


「赤星くん、あのね、あたし」
「…」
「あたしね、」
「なんなんですか、さっさと言って下さいよ」


びくっと怯えた先輩にまたイライラが込み上がってくる。なにを怯える必要がある

言うなら早く言えば良い。やっぱり濱中に甲子園連れて行ってもらう、と


「ていうか先輩は良いですよね」
「…え?」
「次から次へと、甲子園行く夢を託して…」
「違っ!赤星くん、それは」
「濱中ん次は誰なんですか。ああ、御子柴さんとか?」


御子柴さんならどうしていたのだろう。
御子柴さんならこんな気持ちにはならなかったのだろうか。
自分でも驚くくらい声が冷たい。先輩が怯えるのも当たり前だ。どうしてこんなにも先輩に固執する自分がいる?前みたいに上手くかわせないし流せない。


「…俺がどんな気持ちで言ったか分かりますか?」
「……」
「分かるわけないですよね、そんなの」
「赤星く、」
「じゃあまた明日」


なにも聞きたくなくてまた俺は逃げた。なにも変わらないままだ、




溶けていく心


 


あきゅろす。
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