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空色サイダー




「お疲れーっす」


そう言うと、お疲れ様と柔らかい声が返ってきた。今日も忙しかったね、なんて呑気に携帯をいじりながら話す先輩にコクリと頷いた。ファミレスなんてこんなもんだろ、と心の中で思ったことは言わないことにした。

休憩室には俺と先輩の二人だけしかいない。きっと先輩は噂の彼氏とメール中なのだろう。俺も携帯を出そうとカバンをいじくっていたら消え入りそうな声で名前を呼ばれた。

ちょっと、たぶん静かじゃなかったら聞き逃してしまいそうな、そんな声量。


「北山くんってさ、彼女いるのに他の女の子とキスできる?」


予想だにしなかった質問に俺は固まってしまった。するとそんな俺の反応を快く思わなかったのか先輩は今にも泣きそうな顔で詰め寄ってきた。そんなの俺から言わせてもらえば、そんな男とは別れれば良い。不安になってまでも付き合うような、そこまで価値のある男なのか、ソイツは。

だけど、いまの先輩にそんなこと言ったら、たぶん自殺すんじゃないのかってくらい危険。でもやっぱり面白くはない、だって俺は結構先輩を気に入ってんだから。


「…それは人によんじゃないっスか」
「………そ、か。そうだよね」
「ね、先輩」


俺の答えが間違ってたことくらい知ってる。あんな言い方をすれば先輩がもっと不安になることくらい知ってる。でも、敢えてそう言ったのは別れれば良いと思ってしまったから。

別れたって先輩が俺のとこに来る確立なんてないに等しいだろうけど、それでも可能性がないわけじゃないのなら、別れれば良いと思う。

先輩、そう呼べば先輩は泣きそうなくらい声を震わしていた。弱気なところにつけ込むなんて酷いことをしてるのは自覚済み。


「悔しいなら、」
「……」
「俺とキスしてみますか?」

「…、は?」


たぶん同時だったと思う。先輩が声を出したと同時に俺と先輩の唇は重なった。逃げないようにガッチリと固定し、俺は気の済むまで先輩の唇を堪能した。

遠慮がちに胸板を叩かれて、唇を離すと今まで以上に真っ赤な顔の先輩がいて、そんな先輩を見て俺はフッと笑った。先輩が好きだと気付いたのはいつ頃なのだろうか、


「き、たやまく…っ!」
「まあそういうことですよ」


じゃあ、お疲れ様でした。と休憩室から出て行くと、慌てたように先輩も休憩室から出てきた








空色サイダー


 



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