17これ、飲み薬


クロロから借りていた本を彼の書庫へ戻すべく訪れると、その付近に紅茶のいい香りが漂っていた。
覚えのあるそれに一度足を止め、書庫の隣の部屋を見る。
団員の誰も使っていないはずのそこに人の気配を感じ、シキの部屋はここを宛てがわれたのだと悟った。
だが用もないのに自分から訪れるつもりはなく、再び足を踏み出した時。

「──あら、フェイタン」

ガチャリと扉が開き、シキが「丁度良かった」と笑った。

「紅茶を入れたところなの。用もあるし、寄ってくれる?」

手でこいこいと招かれて黙り込む。
その間も落ち着いた香りに鼻腔を擽られ、シキが入れた紅茶の味を思い出した。
他に用事もなかったので一つ溜め息を吐いて了承し、彼女の部屋に入る。
中はベッドと小さな棚だけで、薬草入れらしい瓶が並ぶシンプルな部屋だ。
アジトに着いてまだ数時間しか経っていないのに、既にここは"シキの部屋"になっていた。

「………」

と、そこでピタリと動きを止める。
視線は真っ直ぐに──壁に開いた穴を睨んだ。
あまりに不自然なそれに眉宇を寄せると、気付いたシキが「ああ、これは気にしないで」とその穴の向こうへ入っていく。
少し考えた後、フェイタンも続いて穴をくぐり目を瞠った。
いつの間に用意したのか、部屋の中にはキッチンや食器棚といったものが全て揃っている。

「シャルとフィンクスが用意してくれたの。──さ、座って」

中央に置かれたテーブルと椅子を示され、ジロジロと室内を窺いながら席に着いた。
目の前に差し出されたカップへ口を付けると、シキも正面に座って同じ紅茶を啜る。

「……用は何ね」

恐らく、このままだとシキはしばらく口を開かない。
そう判断してフェイタンから用件を尋ねれば、「ああ、そうそう」とシキが手を叩いた。

「まだ完治してないでしょう? これ、飲み薬」

はい、と差し出された瓶を睨む。
ピクリと眉宇を動かしたものの、シキは変わらずニコニコと笑った。
仕方なく、無言のままそれを受け取り服の中へしまい込む。

「──それと、腕と肩の包帯を替えるから。あと五日間くらい、一日に一度は私のところへ来てね」

それにも渋々と頷いた。
治療に関しては逆らわない方がいいと、その点だけはフェイタンも諦めることにしたのだ。

「そういえば──あなた達は食事をどうしてるの?」

シャワーは各部屋に付いてるみたいだけど、とシキが首を傾げる。
それに紅茶を啜りながら「外で食べるか、盗てくるね」と答えてやれば、カップの中身がなくなった。
シキが「ふぅん」と呟いて笑い、おかわりのティーポットを持ちながら口を開く。

「それじゃあ、よかったら一緒に食べない?」

ニコニコと誘ってくるシキ。
それに思わず眉宇を顰めた。


20090127


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