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小ネタ(戦国)
距離感がおかしい(乳兄弟&丹羽)※シリアス
※正式名称「主君と同僚の距離感がおかしい件について」
丹羽さんがまだ乳兄弟の距離感を知らなかった時。



長秀がそれを見たのは偶然であった。別に野次馬根性からではない。
同僚が主君に凭れ寝息を立て、それを気にする事なく書物に目を通す主君を見たのは本当に偶然であった。
長秀は内心焦ったが、ふと知る限りの二人の情報を整理してみた。
仕官したばかりの頃、利家が簡単に二人について話していた。

恒興は幼少の頃より小姓または遊び相手として召し抱えられた譜代家臣であり、同時に主君の幼馴染みで乳兄弟だという。
非番の二人を見ても、それが「当たり前」だから受け入れた方が良い、と。

しかし長秀は仕官して日が浅く、利家の話を思い出し分かっていたものの、

(不敬ですよ恒興殿…!?)

その思いが大半を占めていた。

「長秀、どうかしたか」

不意に主君に名を呼ばれ、長秀は平静を装いながら返事をした。

「申し訳ありません。信長様をお見かけしたので…」
「そうか」

それだけ言うと、主君は書物に目を向けた。無駄を嫌う主君らしい反応であった。
長秀は胸につかえるものを吐き出すように、口を開いた。

「あの、恒興殿は…」
「寝かせてやれ。昨日は遅かったからな」
「…宜しいのですか?」
「何がだ?」
「だから、その…恒興殿が、」

言いたい事が分からない、と主君の顔には書いてあった。長秀はどうすればいいのか分からず、必死に言葉を探す。
漸く意味を察したのか、主君は同僚を一瞥すると、微笑んだ。長秀は初めて主君の笑顔を見た気がした。

「恒興は近しい存在だ」
「肉親よりも、ですか?」
「そうだ。血を分けた兄弟になんぞ、背中など預けられぬ。
腹の内が少しでも分からぬ肉親など、得体が知れぬわ」
「…」

吐き捨てるように告げた主君の言葉は、彼の姪を妻とする長秀にとって辛い言葉でもあった。
それを察してか、主君は続ける。

「長秀、余はお前を疑っている訳ではない。ただ…」

余は肉親が信じられぬのだ。

寂しげに主君が言ったのを、長秀は忘れられそうになかった。

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