[通常モード] [URL送信]
手が滑った!(射手)





瞼が重たくなる午後の授業。更に宇宙工学なんていう余計に眠たくなるような教科で。

いつもなら授業終了のチャイムがなるまでぐっすりの私が、今日は珍しく起きている。
だってだって。目の前の席に大好きな梓くんがいるんだから、寝るのは勿体ない!


「梓くーん…」
「授業中でしょ。静かにしてなよ」


小声で名前を呼んだら、黒板から目を離さず注意された。
…つまんない。隣に座ってる翼くんは寝ちゃってるし。
それに。この授業は席が自由なんだから、隣に座ってくれたっていいじゃん。

私たち付き合ってるのに、なぁ…。

ツンデレなのか、なかなか近くに座ってくれない。
別に授業を放ってイチャイチャしようなんて思って…ない、しさ。
隣同士に座って、一緒に勉強したいと思うのも駄目なのか。


「梓くんのばーか…」


頬杖ついて黒板を見つめる背中に、シャー芯を折って投げた。
一瞬ピクッと反応した。けど、それ以上の反応は無し。

私だって分かってるなコイツ。それなのに無視なんて、イラッとしたぞ。
あ、イラッとしたので思い出した。
私たち手繋いだこともキスしたこともない。
一緒に帰ったり、ロードワークすることはある。でも毎回翼くんが一緒だから、二人っきりな時間がない。

こうなったら振り向くまでシャー芯を投げてやろう。と思ったけど、無駄だろうなとすぐに結論が出た。
もう、ふて寝してやる。
翼くんの方に顔を向けるようにして、頬を組んだ腕に預けた。




***




「―――…ん、ぅー…?」

どれぐらい時間経ったのか、目を覚ましたときには夕焼け空の上から夜の闇が降り始めていた。
え、何。翼くんどころか梓くんまで起こしてくれなかったの?
そろそろ私、心が折れそ―「名前?」…うん?


「あ、あずっ…さくん!」


声のした方向を向けば、教室の入り口に立っている梓くんがいた。


「よく寝てたね。もう夜なんだけど」
「え、あ、すみません…」


何で謝ってんだ私…!
元はといえば梓くんが、私の彼女としての立場を不安にさせるからで……まぁ、寝た私も悪いけど、うん。


「…あ、れ?梓くん待っててくれたの?」
「そんなわけないでしょ。部活帰りに寄っただけ」


そうかそうか。部活帰りに寄ってくれたのか…って、ちょっと待てよ。


「今日部活ないよね?」
「………自主練だよ」


ああ自主練か。熱心だなぁ…って、目の前の机に梓くんの鞄があるんだが。


「…自主練に鞄置いてく?」
「っそんなの僕の勝手でしょ。ほら、帰るよ!」


梓くんはつかつかと歩み寄って、自分の鞄を掴んで出て行ってしまう。
そのまま何もできずに梓くんを見ていると、入り口のところでピタッと止まった。


「…ねぇ、まだ?僕待ちくたびれたんだけど」
「やっぱり待っててくれ、」
「先に帰るよ」


うそうそ、冗談!慌てて鞄に荷物を詰めて梓くんに駆け寄る。それを見届けて梓くんは歩き出した。

今日からはもう、逃がさないからね。


「おーっと、」
「うわっ!?」
「手がすべっちゃった」


するり、と梓くんの左手に私の右手を滑り込ませて軽く握った。
拒否されるかな、と思って、小学生がするみたいな、控えめ感じに。

ドキドキしながらそのまま歩いていると、歩くスピードが遅くなってる。
なんだ、不安になる必要なんかなかったんだね。


「待っててくれてありがとうっ」
「…だから、待ってないって言ってるだろ」


さっきよりも言い方が優しい。そして耳も頬も、うっすら赤い。

いつもの余裕そうな顔じゃない梓くんも、好きだよ。
小さく呟いてから、梓くんの方に身体を寄せた。




素直じゃない君に
(そういえば、さっき何でシャー芯投げたの?痛かったんだけど)
(……手がすべったんだよ)








第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!