予想を裏切ってくれる人が好き
──ゴメン。俺は、他に好きな人がいるんだ。

──その、気持ちはうれしいけど、ミーアのことは、友達として仲良くしたいと思ってるし。

──君なら、もっといい人と巡り会えるよ。


つい一ヶ月前、アスランに告白したら、そんな答えが返ってきた。

興味ないならそう言ってくれればいいのに。出来ないのがヘタレというか。流石アスラン。

でも、そういうところが好きだった。

アタシはカガリほど可愛くも優しくも、素直にもなれない。

だから、アタシはスッパリと気持ちを切り替えることが出来たんだ。

その時は桜が咲き始めてて。

素直に「アタシの色」って思えなかった。









もう桜は散り始めて、ところどころ葉っぱも見え始めている。

新入生の中にはルナちゃんの妹さんもいるんだっけ。会うの楽しみだなぁ。

四月。

三月が別れの季節なら、四月は出会いの季節だってラクスから教えてもらった。

メイリンちゃんだっけな。確かに新しい出会いだなあ。

今思えば、去年も同じこと思ったっけ。

快活で元気なルナちゃんに、そんな彼女に片想いなレイ、お調子者のヴィーノに、ちょっと大人めなヨウラン。

それと、アスランの後輩っていうシンくん。

そういえば、あんまりシンくんのこと知らないんだなあ、アタシ。

一年も経って、きっと仲良しグループの中にメイリンちゃんも加わるのに、この調子じゃダメだ。

「ミーアさん?」

「へ?」

「どうされたのですか? 何だかぼーっとしてたようですけれど」

「あ、ああ……」

気付いたら授業も終わってて、もう放課後だった。いつから考え事をしていたのか、全然記憶にないんだけど。

ラクスはアタシの前の席に腰掛け、じっとアタシの目を見ていた。よく似てるって言われるアタシたちだけど、こうして改めて見ると全然違う。ラクスの方が柔らかいというか、落ち着いてる。

いいなあ。こういう人が、色んな人から好かれるんだなあ。キラもいい人を捕まえたものだ。あ、でも男の人からの嫉妬が怖そう。

「……もしかして、アスランのこと、ですか?」

「ううん。アタシにも春が来るのかなあって思って。ほら、ラクスもカガリもいい人捕まえてるわけだし」

ちょっと不安になってさあ、と笑ってみるけど、上手く笑えたかよく分からない。本当はそんな簡単じゃないのに、どうして強がってるんだろう。もっと素直にならなきゃいけないって、分かってるんだけどね。

でも、思いの外ラクスは複雑そうな顔をした。真剣に考えてくれてるんだって気付いた途端、急に申し訳なく思ってしまう。ラクスには冗談があまり通じない。それを分かってたはずなのに、アタシのバカ。

……やっぱり、どうかしてるのかなあ。

「……アスランは、なんておっしゃっていましたか?」

「もっといい男に出会えるって」

「そうですか。私もそう思いますわ」

そう、ラクスはふわりと笑った。同性のアタシでも赤面しちゃうくらいに綺麗で儚い微笑み。眩しくて直視が出来ない。何だか、ラクスが何であんなにモテるか、何となくだけど分かった気がする。

「──ラクスが言うと本当っぽく聞こえるわ」

「あら、それはうれしい限りですわ」

そう、今度はちゃんと笑い合う。

ラクスはそう言ってるけど、もう、いいんだ。

失恋することが怖いし、何よりアタシはまだ恋自体が恐ろしい。

もう一生恋なんてしなくていいかな、とも思ってるほどなんだから。








気付いたら外はもう橙色に染まっていて、人気もなく何となくガランとしていた。

もう帰ろっか、とアタシたちが席を立つと、ガラリと引き戸が開かれた。

ちらりとそちらを見ると、赤と黄色と黒が目に入る。

あれ、ルナちゃんとレイとシンくんだ。

珍しいこともあるんだなあ、とラクスと顔を見合わせる。ラクスも同じことを思ったようで、ほわほわした顔をポカンとさせて小首を傾げた。

可愛い下級生たちはしばらく三人で色々相談しているようだった。耳をすますと、今いかなくてどうするのよ、とか、言い出したのはお前だ、とか、それぞれシンくんに言ってるみたい。

やがてシンくんも意を決したようで、可哀想なくらい顔を真っ赤にさせながら、 小走りでアタシの目の前までやって来た。

余計わけが分からなくてラクスに目を向けると、今度は意味ありげに微笑んできた。きっとわけが分かってないのはこの中でアタシしかいないんだ。

アタシよりちょっと背の高いシンくんは、その真っ赤な目で真っ直ぐアタシを射抜いてくる。でも睨むとか、そういうのじゃない。よっぽど緊張してるんだな、きっと。

「み、ミーア、さん!」

「はい?」

「あ、後で聞いて欲しいことが、あるから、その」

「ラクスさんも、帰り一緒しませんか?」

緊張しすぎてまとまらないシンの言葉を、ひょこっと後ろから現れたルナちゃんがフォロー。ナイス連携プレイ、とか、そう思ってる場合じゃない。

その言葉に頷きながら、緊張のせいか羞恥のせいか、視点の定まらないシンくんの頭を撫でてみた。リラックスリラックス、って言ってやればようやく顔を上げてくれる。

「ミーアさん」

ラクスに呼ばれ振り向けば、やっぱりあの眩しい微笑みでこう言われた。


──恋を諦めるには、まだ早いですわ。

アタシも、笑って頷いた。





とは言っても。

予想斜め上からのアプローチだったけどね。


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