私の色を忘れさせない
クオくん。

クオくん。

私の大好きなクオくん。

いつになったら、あなたは気付いてくれるんだろう。









今日はマスターが出張でいない。毎日が忙しいマスターにとって、出張なんて珍しいことじゃない。

そうなんだけど、何せ私がクオくんのこと好きになって初めての出張だから、私は必要以上に緊張していた。

マスターが出張って知ったその日に、クオくんにバレないようにこっそり本だって買ってきた。

タイトルは「百人の男を落とした女の秘技二百」。

……買うの恥ずかしかったけど、今の私にはどうしても必要だったんだから。



「クオくーん! 押し入れの整理手伝ってー!」

「あ、うん。今行く」

いつもよりスカートを短くして、早速クオくんを呼ぶ。押し入れ整理なんて口実。クオくんを「その気」にさせるためには、押し入れ整理が一番しやすいから。

でもクオくんはなんだかぼーっとしていて、私を見ながら何か考えてる。スカートを短くしたことに気がついたのかな? って思ったんだけど、そうじゃないらしい。

じゃあちょっとだけ、からかってみようかな。

「クオくん? 何ぼーっと してるの?」

ぐっ、とクオくんと鼻が触れそうなくらい近づいてみた。からかうつもりだったんだけど、ポカンとしたクオくんの顔があまりに綺麗で、ついこっちがドキッってなっちゃった。

あーあ。どうしてクオくんはそんなにカッコいいんだろう。

もうこの勢いのまま、クオくんのその薄い唇にキスしちゃおうかなって考えた、その拍子に。

「うわっ!」

ボンッ、って音が鳴りそうなくらいにクオくんが顔を真っ赤にさせて、さっさと離れちゃった。あーあ、残念。もっとクオくんの照れた顔、見たかったな。照れたクオくんってあまり見ないし。

「わわ分かってるよ! 押し入れ整理するんだろ!?」

動揺しすぎて声が裏返るクオくん。可愛いなって思いながら、私が真っ赤にさせたんだと思うとすごくうれしい。

だからあえて、まずは純情にいかないと。ゴメンねクオくん。騙す気はないんだけど、私、クオくんが欲しいから。

「そうだけど……クオくん、顔真っ赤だけど調子悪いの?」

「そんなことないから、ほらさっさとやろうよ!」

やたらクオくんは焦りながら、さっさと押し入れに身体を突っ込んでしまった。

「うーん……」

おかしいな。こんなはずじゃないのに。

口実なはずなのに、クオくんを掃除に目覚めさせてどうするの、私ったら。

どうしようかと考えながら、仕方ないので私もクオくんを手伝うことにした。

隣のクオくんはそれはもう整理というか掃除に熱中していて、私のことなんてちっとも見てくれない。

おかしいな。毎日一緒にいるのに、いつも意識してるのは私だけなのかな。さっきの赤面はやっぱりびっくりしたからなのかな。

ちらりと隣を見ると、クオくんは背中を丸めて狭い押し入れを漁っていた。ちらちらと見える白い背中につい釘付けになる。

細いのに、男の子らしいというか。

あーあ。自分でも分かるくらいに、私はやらしい子になってる。

それなりに押し入れが片付いてきたところで、不意に椅子が目にとまった。

そういえば、まだ「あの作戦」が残ってたなあ。

「クオくん。私、上の押し入れ整理しとくからね」

「あ、うん」

そう言うも、やっぱり生返事しか返ってこない。

悔しいから、少し仕返しするんだから。






椅子にのぼって上の押し入れの整理をすること数分。

下でクオくんがのそりと動いた気配がして、私もつい緊張する。

だって今日のために、私のとっておきの下着をしてきたわけだし。

ちょっとサイズ無理したところもあるけど、その方が男の子にはいいって本には書いてあったんだから。

ちらりと下を見ると、顔を真っ赤にしたクオくんと目があった。

大好きな人にスカートの中身を見られたと思うと、なんだかムズムズする。

何か言いたそうなクオくんに、私はあくまで何も分かってないように、首を傾げた。

「……クオくん?」

「いっいや何も」

「そっか。あ、上も大分片付いてきたから、もう休憩に入ろうか」

真っ赤なクオくん可愛いとか思いながら、私はそっと椅子から降りる。あくまでも下着を見られたことに気づかないように、でも少しクオくんを「誘い」ながら。片付いたなんて、嘘なんだけどね。

だけど、そんなこと考えた罰なのかな。

「ひゃっ!」

気づいたら、私の身体は宙に浮いていて。

バランスを崩したんだって、そのあとすぐに気づいた。

神様ごめんなさい。ミクは嘘ついてまでクオくんを欲しがった悪い子です。でもまだまだ壊れたくないんです。お願いだから誰か助けて──

「危ない!」

どんっ、と重たい衝撃。だけど床みたいな冷たくはない。恐る恐る目を開けて見上げれば、どアップでクオくんの顔があった。

王子様みたい、なんて思った私はまだまだ子供。

だから私はクオくんから離れたくなくて、きゅうっとクオくんのシャツを握った。

──ふにょん。

え?

やわやわと、感触を確かめるように揉まれるのは……私の、胸。

「あ、あの……クオくん?」

ただの事故なのか突然クオくんが積極的になったのか、私には分からない。だけどこのままでいたい、むしろこのままキスもしたい、と思った私は悪い子です。

しばらく呆然と私の胸をもみもみしてたクオくんの手が、突然止まった。

かと思うと、顔を真っ赤にさせて、

「ごっ──ゴメン!」

謝られて逃げられた。






まだまだ私の恋路は、

前途多難のようです。


あきゅろす。
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