瑛で7つのお題【瑛誕企画】
2.ほろ甘い、珈琲の味
「お前さぁ…」
「ん?なぁに?」
渚は間抜けな顔で返事をしながら、目の前の珈琲に大量のミルクと砂糖をドバドバと入れる。
うぅ…見てるだけで胸焼けを興しそうだ。
「幾ら甘党だからって、俺の淹れた珈琲を台無しにするのはやめろ。喧嘩売ってるのか?」
「だって、コレ苦いんだもん。こうしなきゃ飲めないよ」
「じゃあ飲むな。お前に珈琲を飲む資格はない」
俺はそう言うと、渚の手から珈琲カップを奪った。すると、彼女は頬を膨らませて俺を睨む。
「何よも〜佐伯くんの意地悪!」
「ウルサイ。お前なんか珈琲牛乳で充分だ。俺の淹れた珈琲なんて10年早い」
そうだ。大体、喫茶店でバイトしてる癖に苦くて珈琲飲めないとか有り得ないから。
ったく…本当にコイツ、高校生なのかって時々言いたくなる。
「…だって、佐伯くんの淹れた珈琲だから…。どうしても飲みたかったんだもん」
渚は俺が奪った珈琲カップを睨みながら、小さな声で呟く。少し寂しそうな顔で。
………………。
「…お前」
「でも、そうだよね。佐伯くんが折角淹れたのに、こんなにミルクと砂糖いっぱい入れたら珈琲の味なんて分からないよね。ごめんね」
そう言うと渚は、自分が飲んでいた方ではなく、俺が飲んでいた方の珈琲カップを奪って口に持っていく。
もちろん、俺はブラック派だから自分の珈琲にミルクも砂糖も入れていない。
大の甘党のあいつに、いきなりブラックなんて飲める筈がない。
「あっ、ちょ…」
「うっ…ごほっごほっ」
案の定。渚は顔を思いきりしかめて口を押さえながら噎せる。
「……バカ」
俺は彼女が飲んでた方の珈琲を引っ付かんで、自分の口に含む。
吐き気がするぐらいの甘ったるい味が口に広がる。そして…
「……っん」
「…これで、甘くなっただろ?」
唇を離すとお前は、真っ赤な顔で頷く。
甘ったるい味と苦い味が中和されて、ほどよい甘さになる。
恋と同じだと、思った。
「…美味しいね。佐伯くんの珈琲」
「…………お前もな」
そう言うとまた真っ赤になる渚に、もう一度キス。
出来ればこのままずっと味わっていたい…
お前の味。
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