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いつか。
「かな、」
聞き覚えのある声。振り返ると懐かしい男が立っていた。
「あ、」予想はしていたが、顔を見た瞬間、頭が真っ白になった。一年ぶりだろうか。こいつに会うのは。

「やっぱり、かなだ。久しぶりだなー。全然連絡取れないから、
どうしてんのかと思った。」

昔と髪型も、髪の色も違うけど、昔みたいにこいつは本当にかっこよく笑う。硬直していた顔が徐々に緩んでくのが自分でも分かった。

「久しぶり。ヒロはまたナンパ?」
「そ。今ヒマ?」

「ごめん。人、」「可奈?」
人待ってるの。そう言おうとしたら、真後ろから名前を呼ばれた。
よく聞きなれた声。一瞬心臓が止まった。きっとあの人だ。さっきの悪感が蘇る。大丈夫。落ち着け、あたし。
振り向いて。
「あ、ごめん。久々に会ったから話混んじゃって。」
「や、いいよ。まだ時間あるし、先にチケット買ってくるから。」
「ありがと。すぐ行くね。」

彼がヒロに軽く会釈して映画館の中に消えて行った。
「まさか、か、彼氏・・・?」
まさかって、こいつ。
「うん。」
「え、お前、え、あーゆーのがタイプだったっけ?」
「驚きすぎ。」
「当たり前!」

なんだか笑えた。それもそうか。今まであたしは1人に絞ることがなかったし、付き合う人も髪の色が明るくて、女関係がだらしなさそうで(実際もだらしなくて)、頭の悪そうな連中ばかりだった。
でも彼は、今の彼氏は。
「なんか、こーゆーのもいいかなって。」
「なんだそれ」
そう言って笑った。今までとは、昔とは、少し違う表情で。それでも、やっぱりこいつはかっこよく笑う。

「そろそろ行ったら?なんか悪いし、」
こいつも気にしたりするんだ。なんだか今日はおかしい。付き合いは長い方なのに、あたしは何も知らなかったんだ。思わず笑いが漏れる。
「うん。じゃあね。」
「おう。」
きっとあたしの彼はキャラメルポップコーンを手に、あたしを待ってるだろう。ヒロに背を向け、映画館へ向かう。振り返らず、少し早足で。

(→)

あきゅろす。
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