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頭悪いリオン。










ふわんと漂う香り。今回はスタンが食事当番だったか。移動中のリュックが切れたら皆で順番にご飯を作る決まりを最近作った。そしてスタンが料理をする所を初めて見たわけだが。
まな板の音が軽快に響く。トントントントン、手際がよいとまではいかないゆっくりしたリズムではあるが、ついついその音の方に目線を向けてしまう。

スタンは人参を切り終えて次はジャガイモの皮を剥いていた。
そろりそろりと。


(指切ってしまえばいいのに)

お約束の様に。

(そうしたら僕が、スタンに駆け寄り切れた指を心配する)
(その切れた指を止血と称してくわえれば、あいつはきっと顔真っ赤にして驚くだろうな)
(そしたら、)

面白い。大変面白い。


あいつのその顔が見たい、僕の想像通りか、はたまたそれ以上か。ヤバい興奮してきた。

するりと剥けていく皮と包丁と指を見て、早く切れと念をスタンに送ってみるが一向に切る気配は無し。こういう所が変に器用なのが腹立たしい。自分の思い通りにいかない歯がゆさで、いっその事腰にあるシャルティエでスタンの指を切ってしまおうかと頭を過ぎったが、それはそれで後々自分が大変になりそうだから止めた。

ついにはスタンは鼻歌を歌いながら次は玉ねぎを切り始めた。
少し音痴な歌に緩やかな笑顔。


(お前の笑顔も良い、うん)

(だが今僕は、お前の真っ赤になって驚いた顔が見たいんだ)

焚き火の灯が風に揺れる。パチパチ弾ける炎はもはや耳に入らず、どうやってスタンを驚かすか考えるので一杯だ。条件が消されていくにつれ、最初との主旨が変わっていくのは否めないか。


(よし、じゃあディムロスが爆発したとか何とか言って驚かすか)

『…坊ちゃん、それはちょっと』

なんだシャル、お前機能停止してたんじゃなかったのか。まあいい、とりあえずスタンの所へ行くのが何より重要だ。

リオンは立ち上がって玉ねぎを切り終えたスタンの傍に寄った。まな板と包丁の音は消え、鍋の湯気が周りを包んでいる。スタンは玉ねぎを鍋に入れる事も無く、手は止まっていた。


「スタン」

ぴくりと肩が揺れこちらに身体を向けたスタンの顔はリオンの予想を遥か飛んでいた。
目元を赤く染め上げ濡れた青色の瞳がリオンを見る。二人とも驚き固まった。

「びっくりした、どうしたんだリオン」

直ぐ笑顔に戻ったスタンはリオンに向き合う。
どうしたはこっちの台詞だ。何があった、お前が泣くなど。何か悲しい事でも思い出してしまったのか。
いや、まて。


「いやー玉ねぎ切るといつも目痛くてさぁ」


リオンに笑って言うスタンの言葉はきっと風に揺れて流れていった。潤んだ瞳で見つめられリオンは先程驚いた顔が見たいという目的さえも忘れてしまっている。

「いい……」

「え?」


(お前、泣いてる顔も)


じっと自分を見つめてくるリオンに、スタンは少しばかり違和感と恥ずかしさを感じた。もしかしたら玉ねぎ切って泣いていたのを馬鹿だと思われたのかも、などと考えいたりもして。


「何でもない、さっさと作れ」

「うん、もう少しで出来るから」


踵を返してリオンは座っていた席に戻った。どかりと座りいい匂いが流れ空腹を誘っても、スタンの鼻歌はまだ続けられているみたいでそっちにばかり気がいく。
スタン、お前は本当に面白い奴だな。

(お前の泣いた顔もいい、な)

(さて、今度はどうやってお前を泣かせるか考えないとな)


香ばしい匂いにふと、そういえば今日のメニューはカレーだったかと思い出した。
スタン、僕はカレーは甘口が好みだ。もし中辛や辛口だったらその時は、今夜お前はまた泣く事になるぞ。
どっちにしろリオンに都合の良い条件ではあるが、本人は知る由もなく。
さぁどうなるか、もう少ししたらスタンのご飯出来たぞーという元気な声を聞いた後に配られる皿に結果が乗っている。

それだけの理由ではあるが今日のカレーは特別な様な気がした。




配られたカレーを見ると切られた野菜と肉がゴロゴロしていた。

(野菜の切り方が雑だな)


一口、リオンは口の中に運んでカレーを味わう。
そして次の瞬間から今日の夜の事ばかりで頭が一杯になり、注がれた水には目もくれず兎に角カレーを口へと放り続けた。












>>END

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あきゅろす。
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