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CP無《白ノ娘》

※白ノ娘を聴いて、更にその後の話を考えてみました。
もちろん勝手に。

ハク視点のお話です。






◇◇◇◇◇

【白ノ娘】


倒れていた彼女は教会に住むようになった。当時、何も出来なくて失敗ばかりだったあの子。
その理由を程なくして偶然私は知るはめになるのだけれど。


彼女は“悪ノ娘”だったのだ。
黄色ノ王国の王女についた、悪逆非道な政と民への残虐な振る舞いから、国民の間で囁かれ続けた皮肉の名。


処刑されたと聞いていたのに、彼女は、王女は生きている。
理由を直接訊いたことはないけれど、何となく分かる気がした。



*********



何も出来なかったリンは、生きる気力がないような虚ろな瞳をしていた。
私が話し掛けても生返事。


そんなリンがある時、ささいなことをきっかけに変わった。それはシスターの一人がお菓子を振る舞ってくれた時。


そのお菓子を見るなり、リンは瞳を大きく見開いて無言で食べた。


「これって民も作れるのね…」


ゾッとする。私が初めて聴いたリンの声は容姿と似付かわしくない、落ち着いていて冷たいものだった。
その時は発言の意味が理解できなくて首を捻ったっけ。


「作り方教え…て下さい」


リンがたどたどしい敬語でお菓子を作ったシスターに頭を下げた。それはそれは此方が見惚れるほど、綺麗なお辞儀。


その日からリンの生き甲斐はお菓子や夕食などの、料理になった。


…あの時のお菓子は確か、ブリオッシュ。



*********



数十年後、私たちはシスターになっていた。


リンの作る料理、特にお菓子は絶品だと噂で街中に広まり、子ども達が毎日教会へ詰め掛けてくる。

それは今日この日も例外ではなかった。


「シスターリーン!」
「今日は何のお菓子かな?」
「楽しみっ」

「もう暫く待っていてね。おやつの時間はまだあと少し先でしょう」


早く早くと焦れる子ども達を私が宥める。いつもなら少し早めにお菓子を持って現れるリンだけれど、今日は特別。


彼女は日付の変わる前から懺悔室に籠もって出て来ないのだ。
でもここ数年、一緒に過ごして知った。彼女の懺悔が一時止む時間。


ゴーン ゴーン ゴーン…
時計が三時を示すと、教会のてっぺんにある鐘が街中に鳴り響いた。

それは、数十年前のあの日にも響き渡った音色。

「おやつの時間ですよー」


鐘が鳴り止むとお菓子を両手に彼女が現れる。


「シスターリン!」
「今日のお菓子はなに?」

「今日のおやつはブリオッシュですよ」


私が毎年毎年、この日配るお菓子がブリオッシュだと気付いたのはここ二・三年。

いつもの優しい笑顔が今日だけはどこか悲しげだった。



*********



「今日は新しいお友達がいるの!その子の分もある?」


突然、街一番元気な少女がリンに向かって話し掛ける。リンは昔からは考えられない柔軟な表情で「あるわよ」と言った。


「少し多めに作りましたから」
「よかった!」
「その子はどこに…?」
「あたしの後ろ!人見知りなの!」


そう言われて私も改めて見れば、なるほど。少女の影に隠れて小さな少年が立っていた。


「こんにちは」
「こら!シスターが挨拶してるのよ!ちゃんと顔見せて!」
「は…い」


本当に人見知りらしい少年はビクビクしながら少女の後ろから現れる。


少年を見た瞬間、リンが息を飲むのが聞こえた。私も例外ではないが。


「……レ…ン」

「…シスターリン?」
「お顔が白いよ」


子ども達の心配そうな声でリンは我に返る。


「な、なんでもないわ。はい、君にもお菓子を」

「っ!ありがとう!」







海辺で見た。私の思い違いかと思っていたけれど。

泣いている彼女に寄り添って、まるで当たり前のように手を繋ぐ少年の幻覚。

今、目の前にいる人見知りの少年は幻覚の彼にそっくりだった。リンの反応をみる限り、私と同じ人物を重ね見ているんだろう。



*********



「じゃーねー!」
「ごちそーさまー!」


腕を振りながら夕焼けに染まった道を、子ども達が駆けて行く。それを私とリンで見送った。


「戻りましょう」


子ども達が見えなくなって教会の中へ戻ろうとしても、リンは街へ続く道をボウっと見つめている。


「…ハクさん」
「はい?」
「“生まれ変わり”ってあると思う?」


不意に問われた疑問にしては、とても深い意味を含んでいるようだった。
私が応えを渋るとリンは振り返って「ちょっと思っただけです」と微笑む。


「さーて夕食を作りますか!ハクさん、何か食べたいものとか…」
「違うと思うわ」
「え…?」
「あの子は“彼”とは違う。“彼”は貴方の傍にいるもの」


雰囲気にのまれてとっさに言ってしまえば、リンは驚いた顔をしてこちらを見ていた。


「あ!な…なんてね!ちょっと思っただけよ!」
「…ハクさんってば。ビックリするじゃない」


もー!と笑いながら彼女は私の後ろに回り込んで背中を押してくる。


二人で笑い合っている中、微かに「ありがとう」と聴こえたような気がした。



*********



-時は流れて21世紀-


再びこの世に生を受けた私は緑の髪が美しかった友人にまた巡り会えた。過去の記憶を持っていたのはバグから生まれた私だけだったけれど。


「ハークーちゃーん!お仕事終わったよー!」
「わわ…お疲れ様」
「ご飯食べたーい」
「そうね」


がばあ!と抱き付いてきた彼女を支えながら、レコーディングスタジオを出る。
防音されていた部屋から出ると、色々な音が聞き取れた。


「あれ…?この声…」
「ん?どうしたのハクちゃん」


その中に混ざっていた確かに聞き覚えのあるその声は。


「あ!初音ミク!」
「おい!おま、先輩だぞ!?そんな口の効き方は…」
「うるさいなー、レンは」


出会ったばかりの容姿のままで私の目の前に立っていた。


「初めまして!鏡音リンです!初音ミクさんに続いてデビューが決まりました!」
「同じく鏡音レンです。色々御迷惑をお掛けすると思いますが…」
「レンお堅いー」
「リンがしっかりしないからだろ」


ああ…

笑ってる。


「初音ミクです!よろしくねー。さん付けとか要らないから、好きに呼んでいいよ」
「本当に!?じゃ、ミク姉!」
「リーンーさーん。俺の話聞いてます?」
「聞ーてない♪」
「…ですよねー」


他愛もない会話が続く。

みんなが笑っている。



「あなたは?えーと…」


「…弱音ハクです」


情けない話、その空間が幸せ過ぎて…泣きそうになった。








           -END-












◇◇◇◇◇


…という長ーい 長ーい妄想でした♪
久しぶりすぎてgdgd感が強い文章…申し訳ないです。
読んでくれて有難う御座いました*




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