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カイメイ《アイ LOVE Myペット》
「おネエさん!僕をペットにして下さいっ」
唐突にそんな台詞を自分より年下の、しかも出会ったばかりの少年に吐かれて、私は固まっていた。
まだVOCALOIDとして活動したての私を使用してくれていたマスターが、私と同じ型のKAITOをデュエット用に購入したのは知っている。
同じ型だから似ていると思ったのに…。KAITOは私と違う思考を持っているらしく、出会っての第一声がそれだった。
「え?今なんて…?」
「だから、ペットにして下さいってお願いしたんです!」
普通に考えたら人が人のペットなんて常識として有り得ないし(私たちはVOCALOIDだけど基本同じだ)、第一なんでそんな話になったのかすら覚えていない。
…けれど、そのあどけない少年の瞳がキラキラと世界最高峰の宝石でも目の当たりにしているかの如く輝いていて、私は思わず承諾してしまった。
「いいわよKAITO。貴方は今から私のペットね」
私がそう言うと少年KAITOは益々その瞳を輝かせて、嬉しそうに何度も頷いた。
*********
「KAITOー!焼酎取ってぇ」
「焼酎!?…めーちゃん、まだ夕方だよ…?せめて発泡酒にしようよ」
「えーー!?嫌よ!じゃあ、ビールにして!」
あれから随分な月日が経って、私たちは成長した。少年KAITOは青年KAITOになったし、私はより女性らしい声を出せるようになった。
もう大人だからお酒だって毎日楽しく呑む。…と言っても、KAITOがあまり飲めない質なので大抵一人宴会になるのだが。
「はいビール」
「ん。あ、おつまみセットも持ってきて」
「はいはい」
私の言う我が儘に文句一つ漏らさず、おつまみセットを取りに台所へ逆戻りするKAITOの背中を目で追いながら改めて感心してしまう。
だって、私だったら絶対に言うこと聞いてやらない。ビールを頼んだ時点でおつまみセットも一緒にって直ぐ言わないのが悪いんだし。
従順だなぁ…犬みたい。
そう思ったら、不意に子供時代が蘇ってきた。ああ、確か会ったばかりの頃にペットだとか何だとか言ってたっけ。
「…あー…懐かしいわ」
「何が?」
ボソッと呟いた独り言は、おつまみセットを片手に戻ってきたKAITOによって拾われた。
私はそれを受け取りながらソファに沈むように座る。
「ペットって、」
「うん?」
「言ったの覚えてる?アンタ、私と出会って間もない頃に言ったんだけど。ペットにして下さい、とか何とか」
「あー!覚えてる覚えてる。間もない頃ってゆうか、僕が初めてめーちゃんに言った言葉だよ」
「だっけか?」
「だよ」
KAITOも懐かしいなぁ、なんて昔を思い出している顔をして笑った。
…というか、今思い返しても可笑しすぎるわよ。私はプッと吹き出してしまった。
「ペットにして下さいって…アレ変だったわよね。何であんな事言ったのよ?理由とか覚えてないの?」
「理由かー…んー。…一応覚えてはいるんだけどね」
「え!?覚えてるの?何々?」
「ちょっ…なんでそんなに興味津々なの。何か恥ずかしいんだけど…」
「勿体ぶらない!」
勝手に照れだしたKAITOの頭を軽く叩いて話の続きを促す。
KAITOは痛いよめーちゃんなんて、大して痛くもないだろうにさも痛そうに苦笑した。
「で?ほら、白状」
「んー…。めーちゃんが可愛かったから…かな」
「…は?」
何を言い出すんだコイツは。
「や、だから、めーちゃんが思ってたより可愛かったんだよ」
「…ぁん?思ってたより?」「うん」
「…」
自分でも私は可愛い部類ではないと思っているけど、そう言われるのは心外だ。これでも人間に愛される用なデザインになっている。
ギッと一言多いKAITOを睨むが、KAITOは思い出漁りに必死でこっちを見やしなかった。
それどころか、まだ話続ける。
「マスターがさ、僕を連れて家に着くまでずっとめーちゃんの話をしてくれたんだ」
「…へぇ、あのぐーたらのウチのマスターが」
「うん。で、僕もめーちゃんに会うの楽しみだったし、一生懸命聞いてたんだよね。でもさ、その話は聞けば聞く程めーちゃんが鬼のようなイメージになっちゃって」
「鬼って…ひど」
「そ。これから会う女の子のイメージが鬼だよ」
酷いよねぇ、なんて言いながらもカラカラと笑うKAITOをさっきよりキツく睨む。流石に気付いたKAITOは笑うのをピタリと止め、コホンと咳払いをして誤魔化した。
「まあ、ほら…マスターって仕事は出来るけど生活面じゃだらしない部分多いからさ!しっかり者のめーちゃんがガミガミ言うのが母親みたいだったんじゃない?」
「それ疎ましいってこと?」
「うーん…どうかな。でもその反面、凄くしっかりしてるっても聞いてたから、僕の中では鬼のように怖いお姉さん像が確立されちゃってたわけ」
なるほどね。大体は理解した。気が利かないマスターの事だ。まだ幼かったKAITOに対して愚痴を零す感覚で私の事を紹介していたのだろう。
実際、私も来たばかりの少女時代でさえもう大人扱いだった。
全くマスターってば…、溜め息を吐いてビールに口をつける。
「…わかった?めーちゃん」
「ん?あぁ、理解理解。マスターってば本当にダメね」
「じゃなくて、何で思ってたより可愛かったって言ったのか」
「…あ」
そうか、本題はそっちだった。すっかり忘れてた。
「分かったわよ、うん。そんな鬼のイメージじゃあねぇ」
「ね?めーちゃん、凄い可愛いのに!マスターの嘘吐きって思ったよ。可愛い子のペットになれるなんて幸せじゃない?…って大丈夫?」
KAITOの言葉のせいで気管にアルコールを引っ掛けた私はゲホゴホと咳き込む。言った本人は無害そうな表情で首を傾げた。
「凄い可愛いって、アンタの目どうなってんのよ!恥ずかしいわね!」
「え、そこ?どうって…めーちゃんが可愛く写ってますけど」
「馬鹿じゃないの!」
さっきも言ったが私は可愛いの部類じゃあない。
可愛いというのは、ミクやリンの類いだろう。私がよく言われるフレーズとしては、綺麗とか美人とかの辺りだ。
故に“可愛い”という褒め言葉に対しての抗体を持ち合わせていない。
「めーちゃん顔赤いよ。…もしかして照れてるの?」
「ち、違うわよ!酒のせい!」
「ふぅん」
完全に挙動不審になってしまっている私を覗き込むように、KAITOがずいっと近付いてきた。
「…めーちゃん可愛い」
「!!?」
急にヘラァと締まりない笑顔になると奴はそんな爆弾発言をする。
「ばっ…かじゃないの!」
「ッぃだ」
私は抗体を持ち合わせていないからきっと熱に浮かされて顔が真っ赤になっている。
そんな、間抜けな表情を見られたくなくて苦し紛れに振り下ろした拳は、KAITOの後頭部を直撃した。
*********
「ただいまぁー!」
「あら、リン・レンお帰り」
「ただいま…って何こいつ?」
「あ!KAI兄倒れてる!」
「え。あー…寝てるンじゃないかしら?」
「…床で?つーか、こいつ顔ニヤけててキモいんだけど…」
「うわぁ!ほんとだ!しかも、涎垂らしてるぅ〜」
「…」
「MEI姉コレ、蹴っていい?」
ガスッ
「いたい!」
-END-
◇◇◇◇◇◇◇
あれ?可笑しいな…?
この話、最終的には「今でも僕はめーちゃんのペットだよ」とかKAITOが恥ずかしい台詞言って終わる予定だったのに…!
…書いてる内に話が変わるなんてよくある事だよね!
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