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こころ

戦では何があるかわからないんだからね!あんたが死んじまったら、もともこもないんだから自分の心配だけしといて。約束。ね?弁丸さま。

幼少のころから彼の側にいた。気付いたときにはあの約束の言葉を口にするようになっていて、わかった、わかったとうるさがれたこともあったが、俺はこの口から出る約束の言葉を塞ぐことはなかった。
幼かった彼はもう立派に成人を遂げた。それでも、俺の口からその言葉が止むことはない。気付いてしまったのだ。忍に有るまじき感情に。旦那を慕う気持ちに。
不安は不安を呼び、余計に俺を焦らせる。その度に掠り傷を負ったりして自分の不注意を思い知らされる。今度は、旦那に心配なぞかけたくない。そう心に誓って戦場へ出た。

「旦那。旦那は自分の心配だけしてね。」

敵の襲撃を待ち構えているとき、旦那の隣にすっと降り立った。こんなときでも言ってしまうあの言葉。いや、こんなときだからこそ言ってしまうのか…。
あなたが大切だから。誰にも傷付けさせたくない独占欲が体中を走る。

「またそれか佐助。その言葉、聞き飽きたぞ。」
「旦那のことだから、無茶して敵陣に突っ込む可能性だってあるんだから、その忠告だよ。」

半ば呆れたように吐いた言葉を俺は受け流し、俺の言葉を続ける。
すると、苦笑いでこっちを見てきた旦那は首を縦には振ろうとはしない。ただ、笑っているだけの旦那。何故縦に振ってくれないのか。
疑問を残したまま笛の音が広い戦場に響き渡った。
それと同時に駆け出した旦那は雄たけびを上げ、無邪気な童のように駆けて行った。
その後を俺は付いていく。

忍にこころなど必要なかった。こんなに考えたこともなかった。
この想い。
戦が終わる頃には素直に言えているだろうか。
それまで、黙っておくことにするよ。

大阪夏の陣。
今、火の手はすぐそこに―――。

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