44.cissnei
「シスネ、なんか落ちてたぞ、と」
「え?あー、ありがとう」
紅い髪を揺らし小首を傾げ、いつもおどけている同僚の青年が小さな民族品を手に操縦桿を握る。
前を見なさいよ、前を。
少々呆れながらもシスネは彼の手元にあったものに視線を落とした。
チリンと小さく鈴の音が鳴る。
「誰かの形見とかなんかか?」
「別に…、ただの携帯ストラップよ」
「にしてはだいぶ古く痛んでないか、と?」
「これは、これでいいのよ」
「?」
シスネは何事もなかったの用に携帯ストラップをもとある場所へ付け直した。
ヘリは順調に指定された場所へと飛行を続けている。
これは忘れられない思い出。
小さな銀色の鈴が無機質な業務用の電気に照らし出されキラリと輝いた。
小さい頃、私はここよりももっと遠くの民族の村に住んでいた。
今では観光地と化してしまったが、ひっそりとしていてとても住みやすかったことを覚えている。
その頃、よく私は母さんに連れられて村の御堀に行っていた。
そこには神様を祭っているんだって、そう教えられて。小さな両手を合わせて一生懸命祈った。
毎日毎日、何を祈ればいいのかもわからないまま、ただ母さんの真似をして祈りを終えるのを待っていた。
神様なんて全く信じていなかったけど。
隣で神様を信じて祈る母さんの姿に、幼い私は『神様って凄い人なんだ』って。
ただ単純にそう思ったわ。
それからかな?
私は母さんに連れられて行っていた御参りを一人でするようになったのは。
もともと信仰心の強い民族であったし、周りも神様を凄い人なんだって崇めていたから、いつの間にか私も神様は何でも出来て私たちを助けてくれるって考えるようになってた。
村の端にあった御堀まではそうは遠くなかった。
まして、村の人たちも当たり前のように毎日御参りを出来る距離。
なんの心配も注意を払わず行けるそこは危険な場所という認識も無くなっていた。
…それが迂闊だった。
地面に横たわる身体。
薄れ行く視界。
身体から綺麗な紅と力が抜けてゆく。
そう、それが私の初めてのモンスターとの対峙。
胸から腹にかけてザックリと、初め見るてみるそのグロテスクな肢体に怯んだ瞬間に切り裂かれた。
今でもその傷が疼く。
弱い敵だったかもしれない。でも、丸腰で足のすくんだ状態で逃げることさえもままならなかった私は手当たり次第近くにあった木の枝や石を投げた。
当たり前のようにそんなものが相手に通用することは皆無。
神様は助けてくれるんじゃなかったの?
どんな時でも私たちの近くにいて導いてくれるんじゃなかったの?
初めて神を疑ったわ。
何でも正しいと信じてきた母さんやみんなの言っていることさえも。
そんな時よね。
初めてアナタと出会ったのは。
その後姿は今よりも幾分幼かったわ。
私と同じくらいの年だもの、今よりも格段と頼りない背中を覚えてる。
白い装束を纏って、アナタは自分よりも大きな刀を手に持っていた。
瀕死状態の私を背に護り、一瞬でモンスターに斬りかかったあの戦闘。
幼いながらに鳥肌が立った。
本当に一瞬でモンスターを仕留めてしまったんだもの。
白い装束に一滴も血が付着していなかった。それは強いものの証拠を意味する。
…怖かった。
この人は、人なのかって。
人の姿をしたモンスターなんじゃないかって。
もう意識の途切れそうな中、死ぬんだと諦めていた最中に考えてた。
刃を伝う紅い血。
恐怖しか感じなかったことを覚えてる。
でも、アナタは狂気に笑った瞳を持ってはいなかった。
見えてしまったの…
モンスターを倒して歓喜に染まった表情ではなく、生き物を殺めた罪を背負った表情に。
あれから私は記憶を手放した。
それからの記憶は全くない。
けれど一つだけ覚えているの。
アナタが優しく頭を撫でてくれた。
怖いのに一人でよく頑張ったねって。
心の中で緊張で張り詰めた糸が解けた瞬間だった。
怖くて涙が溢れた。その人の服を握り締めて時間を忘れて泣いた。
気を失うまでずっと…
起きた先は村の小さな診療所のベッドの上。
母さんや村の人たちが私を覗き込んでいた。
生きてた。
でも、嬉しいとは感じなかった。
みんなの嬉しくて泣いている姿になんとも思わなかった。
それよりも自分の弱さ、自分の惨めさに胸が苦しかった。
それから私は武器を取り訓練に明け暮れた。
弱い自分が嫌だった。
神なんかに縛られて崇拝して弱いままで役に立たない自分が嫌いで仕方なかった。
それから数年、
戦争が悪化して私が神羅に連れて行かれたのは。
辛い思い出かもしれない。
でも、私はそう思わないわ。
実の名前をかくして違う名前を語る今。
もう一人の自分と偽っている今。
私が私で居られるようにも感じれる。
確かに綺麗な仕事とは居えないけれど、
街のみんなの命を護るために治安の安全のために私たちは戦っている。
あの頃の自分と同じ境遇にあって欲しくないから…
あの時握っていた掌に残っていたあの子の服の破けた端切れ。
そこに付いていた小さな鈴。
それを私は今でも大切にしている。
私の次の生きる道をくれた切欠。
名前も知らないアナタがくれた初めての“勇気の証”。
「レノ、アナタには護りたい人がいる?」
「お?恋愛話か、と?」
「…アナタに聞いた私が馬鹿だったわ」
デスクワークの合間で最近良く話す話題。
そんなのに時間をとるよりも早く埃が積り山積みになった書類を片付けて欲しいのが本音だ。
しかしこんな彼でも仕事には美学がありきちんと仕事をこなす故にエースの肩書きを持つ。
信じられないが頼りに成る人物だ。
史上最年少で総務部調査課に入った彼女。
その手には見たことのない民族武器が握られていた。
紅く輝くその刃は飛行する敵にさえ逃げ場を与えない。
風魔の手裏剣――――
「もうすぐ目標エリアに到達する。準備はいいか、と?」
綺麗な木々が立ち並ぶ林道の先。
今回の目標エリア。
しかし、そこには目を疑う程の痛々しい姿の村があった。
「願いが叶った」
ジェネシスはザックスの腕の中で微かに微笑むと静かに瞼を閉じた。
バのーラに辿り着いたザックス達はホランダーに出くわし、ジェネシスコピーを身体に取り込んだ彼は見るも無残に劣化の意図を辿っていた。
もう人ではなくなってしまっていた…。
彼を追っていたラザード統括もまたその一人で、彼はジェネシスの細胞を使用ではなくアンジールの姿で現れた。
どうやら瀕死の状態でどうにか生き延びるためにとった最後の手段がアンジールコピーへの移植。
最初は驚いたさ、自分の手で天へ誘った友達がまさか再び自分の目の前に現れるとは。
聞いた話。
ラザード統括とホランダーは以前とある実験計画をともに目論んでいたらしい。
しかし途中でホランダーは逃げ出し、その計画も神羅にバレルのも時間の問題。そこで彼は逃げ出すことに踏み切ったのだが神羅がそれを許すはずも無く、このような姿に至ったのだという。
どのような形であっても生きてここまで来てくれたことにザックスは嬉しかった。
しかし皮肉だろうか。
彼のお陰でクラウドを気にせず戦うことが出来たが、彼の劣化はもう限界に達していた。
顔からも劣化の証なのか意思のような皮膚が剥がれ落ち光に変わり空へ舞い上がり、安らかな笑顔と共に彼は安心したかの様に天へ召されていった。
最初から彼は裏幕だった。しかしアンジールのコピーと融合することによって彼の正義に触れたことによって゛“壊す”ことではなく“救う”ということの大切さを知った。
結果的に彼にとっては良い生き方を出来たのであろうか?
彼は良かったと言っていた。
…彼が満足できたのなら、だったら良いんだ。
どんな人生であろうと、悔いが残っていないのならそれで。
腕の中で静かに息をするジェネシス。
ホランダーと共に行動していたジェネシスに止めを刺した。
約束、なのか?
アンジールとの…
でも、これでよかったのか?
…良かったんだよな。
身体の端から光に包まれる。
「ジェネシス、また会おう」
ザックスはジェネシスの手を握り胸元へ置く。
これでもう苦しまなくて住む。
ゆっくり安眠してくれ、そう願った。
身体を抱き上げ柔らかな草の上へと横たわらせる。
これで終わったの様に思えた。
…これで終わらせないのがあの会社だよ。
「焼き尽くせ…」
「…ッ!?」
突然業火が周りを飲み込む。
間違いなくこれは魔法マテリア、威力からしてファイガ。
成長マテリアを使用するとなると相当な実力の持ち主。
もう追っ手が追いついたのか?
おそらくホランダーやジェネシスがいる情報を逸早く嗅ぎ付けてきただろう。
どちらにしてもあまりにも早すぎる…!!
バイクに乗り早くここから立ち去らなければ。
ザックスは素早く駆け寄る。
しかし脚は挫かれた。
跨り逃げようとするも先に魔法が発動されバイクは度派手な爆発を起こし炎上。
間一髪でクラウドを助け出し受身を取る。
すかさず次の攻撃に身構える。
だがいっこうに攻撃をする様子は無いようだ。
「アンタ等一体何なんだよ?」
「……」
見たことのある征服に身を包んだ敵は明らかに神羅の、しかもソルジャーの2人組み。
いくら問いかけても聞く耳を持たない。
2人は倒れているジェネシスの近くへ駆けつけると彼を担ぎ出す。
どうしようというのだ?
彼等は誰かからの手先か?
「おい!ちょっと待てよ!ジェネシスをどうする気だ!?」
「…思えには関係ない」
吐き出された言葉とともにアルテマが発動された。
唯一残るバノーラと確認できたバノーラホワイトの木々がアルテマの餌食となる。
逃げ惑うごとに消えてゆく痕跡。
仕方が無かった。こちらの持ち合わせはあちらよりも遥かに劣る。
ジェネシスの行方も気になるが今は逃げるしか手は無かった。
林道を駆け抜ける中、追い討ちをかけるように、こちらへとヘリの音が近づく。
おそらく神羅のヘリだ…
もうここには居れない。
ザックスは唇を噛み締めるとクラウドを担ぎなおしバノーラだったその場所から走り出した。
「アイツ等…一体誰だったんだ?」
現れたソルジャーの数はたった2人。
任務のようには見えなかった。
ザックスの疑問は誰も答えることも無く、沈み行く夕日の中へと消えていった。
end
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