46.letter
ミッドガルの八番街にあるとある小さなバー。
プラチナブロンドの髪を揺らし、タキシードで決めルージュの唇を妖艶に曲げながらシェーカーを振るバーテン。
静かに飲みたい時にだけ脚を運ぶ秘密の場所。
「はい、マンハッタンよ」
「ありがとうな、と」
グラスに注がれた赤いアルコール。
それは自分の髪と同じ真紅の色。
「今日はいきなりどうしたの?レノらしくないわね?」
「…うるさいぞ、と」
タバコの排煙が宙を漂う。
甘いバニラの香りが周りに香り渡る。
レノはやりきれない気持ちでいっぱいだった。
上から直々に下された命令は、悪友でもあるザックスとクラウドの抹殺。
いくら掛け合ったとしてもその命令は揺らぐことはない。
上司であるツォンも駆け回り交渉に当たるが頭を縦に振れるような満足な結果は得られない。
皆憤りを感じていた。
「なぁ…もし目の前に親友がいて、そいつを殺さなきゃならなきゃならなかったらどうする?」
ただやりきれない気持ちを吐き出した。
俺達はタークス。
命令は絶対だ。
壊せと言われればば破壊するし、殺せと言われれば抹殺する。
拒否権はない。
あるのは使命だけ。
バーテンは小さく溜め息を吐くと再びシェーカーを振るわせた。
まぁ、こんな話はするもんじゃないよな。
酒が不味くなる。
レノはフィルター近くまで灰になったタバコを吸い殻で山になったその中で揉み消した。
コトン…………―――
頼んでもいないのに目の前に一つのグラスが…
薄い水色に染まったそのカクテル。
どういうつもりだ?
バーテンはニッコリ微笑みグラスの上に鉄のマドラーを起き角砂糖を炎で炙る。
周りに甘い香りが漂う。
「俺は甘いのは嫌いだぞ、と」
「知ってるわ。でも、偶には甘いものを取るのも必要なのよ?」
蒼い炎で砂糖が溶ける。
薄い水色だったカクテルは不思議なことにみるみるうちに深い蒼色へと変化を遂げた。
………………蒼、か
花、空、海…人間が夢見る色だ。
自然界ではなし得ない夢の色。
それは魔晄の色。
それはソルジャーの瞳の色。
それに、アイツの髪の色…
そういえばアイツ生きてんのかな?
神羅の裏情報では宝条に暗鬼部隊は壊滅したらしい。
まぁ本当かはわからないが…首が飛び散った写真が見つかったのはその証拠だろう。
だがその中にはあの少年の姿は無かった。
……生き、ている?
レノはそのカクテルを飲み干すと立ち上がった。
バーテンは満足そうに微笑むとお代はいらないと告げ、再びシェーカーを振り出した。
イイオンナっつーのはそういうもんだ。
間違いなくザックス達はここを目指している。
確かに、ここに居ればいつかは会えるかもしれない。
だが、神羅はそれを黙っちゃいないだろう。
生きていることさえ許さない、危険なものは早急に排除しろ。
そんな会社だよここは。
だとすれば、考えられることはただ一つ…
「待ち構えて銃弾の雨、か」
抹殺という選択に他ならない。
チリンッと扉の飾りのベルが鳴る。
外では壁に背を持たれいつからか待っていた相棒。
軽く手を振るとタバコに灯をともし彼は歩き出した。
「…答えは決まったのか?」
「…ああ、行くことにしたぞ、と。上の奴らに嗅ぎ付けられる前に俺達が収集する」
「…これは仕事か?」
「いや…………友情だぞ、と」
吐き出された排煙は弧を描き舞い上がる。
あの頃の無邪気な笑顔。
暖かな場所、消されてたまるかってーの。
黒い背中が2つ、闇の中へと消えていった。
「え、マジ!?おっちゃん乗せてくれんの!?」
「兄ちゃんには負けたよ!これもなんかの縁だ、近くまで乗せてってやるさ」
難なく大陸越えを果たしたザックス達は遂にジュノンエリアに差し掛かっていた。
この先は雄大な平野が広がる。
どうにか走り抜けたい気持ちは山々だが、いくら何でも今の身体では体力に限界があるワケで。
仕方なく移動手段をさがしていた矢先、見たことのあるトラックを発見したのだ。
「黄色いトラックの似合う男っつーたらおっちゃんしかいないっしょ!」
「言うな〜兄ちゃん!にしても久しぶりだなぁ?」
「俺の家出以来だっけか?」
「おうよ!あんときゃあ兄ちゃんも豆粒みてぇなクソガキだったのによ〜今じゃいっちょ前の男じゃねぇか!」
「Σ豆粒って!そんな俺は小さくなかったぞ!?」
「俺よりちいせぇ奴はみんな豆粒だ!」
「んなムチャクチャな;」
クラウドを後ろの荷台へ乗せるとザックスも隣に飛び乗った。
トラックで行けるとしたらミッドガルエリア手前の峠辺りまでだな。
いくら腕っ節のいいドライバーだとしても四輪駆動のトラックにはゴツゴツした山を登なんてできやしない。
2人が乗るのを確認すると老父はエンジンを入れ走り出した。
そういえばおっちゃんはなんでこんな所にいるんだ?
確か、居たのは向こうの大陸。
しかもコレルまでの砂漠地帯で在った筈なのに、偏屈なものだ。
「もしかしておっちゃん、出稼ぎかなんか?」
「お?おう、まぁそんなところだ」
老父はポリポリと頭を軽くかくと運転席から何かを見せた。
そこにあったのは無造作に縛られ束になった手紙の束。
「コレルやゴンガガじゃあ流石に妻や娘を養えやしねぇ。だから今はこっちで配達業をしてんのさ」
「へぇ〜…」
「けどなー、たま〜に宛先間違えたヤツが混じってたりしてよー仕事になんねぇんだ。燃料だってタダじゃねぇのによぉ」
老父の見せた手紙の束を受け取り紐を解き宛先を見る。
そこにはミディール、カーム、コンドルフォートにチョコボファーム、多種様々な地名が記されていた。
「どうだい兄ちゃん、暇なら仕分けしてくれねぇか?」
「え、俺が?」
「どうせやることもねーだろ?頼むよ」
「まータダで乗せてもらってるしな、いくらでも手伝うよ!」
「お〜助かるぜ!」
機嫌を良くした老父は運転席から此方を見るために開いていた窓からゴッソリと手紙を出し手渡した。
いや、ハンパないんスけど?;
まぁやることもないし別にいいか。
1つ1つに気持ちが込められた手紙。
こんな紙切れにみんな溢れんばかりの想いを詰め込んでるんだ。
それを配達している老父が少しばかりか羨ましく思えた。
「何でも屋、こんな仕事もあんのかな?楽しみだな〜…な、クラウド?」
クラウドの綺麗な髪が気持ちのよい風にふわりと揺れた。
さて、と小さくため息を吐くと腹をくくり、山積みになった手紙の山に手を伸ばしザックスは街や村ごとに纏め仕分けを始めた。
「ん?……なんだこれ?」
山積みななっていた手紙の仕分けを終えようとしていた頃、一通の手紙が手に止まった。
宛先は他の大陸。
「これが言ってた混ざりモンかー」
しかもウータイなんて端っこじゃないか。
こんな観光地へ手紙を出す人なんかいるのか?
ザックスは気になり裏面を見た。
一応こういうのって個人情報に関わるからしちゃいけないんだけどね。
目を凝らせばそこには目を疑う差出人の名前が記されてた。
「エア、リス…!?」
ミッドガルで花を育てていた少女。
スラムで出来た大切な友達。
彼女は一体今はどうしているのだろう?
最後に会話を交わしたあの日から彼女とは全く連絡をとり合っていない。
ましてや今連絡をとるとなれば彼女に危険が及ぶかもしれない。
尚更だ。
ザックスは懐かしさと悔しさに唇を噛んだ。
そういえば彼女は一体誰に手紙を送るのだろうか?
宛名を確認していない。
ミッドガル以外に友達がいたのかと関心しつつ、ザックスは再び裏返し名前を確認した。
「え〜と、スバル…ちゃん?」
…ん?
なんか引っかかる。
名前的に女の子じゃないよな?
ウータイなんてミッドガルから遥か遠くじゃないか。
しかもこの手紙の宛先、ウータイとしか書いていない。
住所がわからないのか?
手のひらでくるくると回してしばらく悩んでいれば微かに香る懐かしい花の香り。
そういえばよく神羅ビルから抜け出して教会で話したりしたな〜
ツォンによく見っかったりもしたもんだ。
毎回連れ戻されたりしたな〜(笑)
アイツに花を持って行ってやったりも…
え、アイツ?
アイツって……誰だ?
「Σわっ!」
ガタンとトラックが揺れ隣に座っていたクラウドが此方に倒れかかってきた。
すかさず受け止め肩を貸す。
あれ、この感覚どこかで…
頬を撫でる柔らかな髪。
包み込むような暖かな風。
風で軽く乱れた黒髪を直そうと手を耳元に寄せる。
珍しくグローブにピアスの金具が引っかかった。
何やってるんだ自分はとトラックに乗せられていた鉄板を覗き込み取ろうと試みた。
「いってー、早くとらな……あれ?」
蒼く輝くピアス。
俺がしていたピアスは蒼じゃなくて黒色だったはず。
―――これをあげる…お守り
―――生きて帰れ…、約束だ…
―――神羅なんか大っ嫌いだ…!!!
―――大丈夫…絶対大丈夫だよ…
記憶が流れ込んでくる。
まるでカラカラだったスポンジに水を注いだかのように満たされていく。
初めて出会った場所、好きだった歌。
知った傷、拭えない過去、泣き合ったあの夜…
ああ…俺は大切な人を忘れていたんだ……
この言葉はお前がくれた言葉だったんだな。
―――ザックス…大丈夫、絶対大丈夫だよ
「スバル………会いたいよ」
青々と輝く空の下。
トラックはミッドガルエリアへと静かに侵入した。
end
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