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43.mother



ニブルを抜け川を下りゴールドソーサエリアを跨ぎ先を急ぐ為に川を使ったのが仇を生じた。
確かに数日前に大雨は降ったから水嵩は増していたけれど、まさか水の中に砂漠から流されたランドウォームが紛れているなんて思いもしなかった。




「嘘だろー…」




見事に手製で作ったボートはランドウォームに破壊され、あえなく2人は川に流されてしまった。
どうやらそれから下流に流れてしまったようで、辿り着いたのがここらしい。

周りは見たことのある懐かしい風景。
忘れたくても忘れられない奴が目の前で踊ってる。




「ゲコッ☆」

「うわーん…」




ここは間違いなく“ゴンガガエリア”―――





ソルジャーになる、と行って家を出た親不孝者。
そんな奴を親が『お帰り』と快く許してくれるはずがない。
まして、自分の故郷となると神羅が戻ってくるのではないのかと包囲網を張っているに違いない。

よりいっそう帰れない…



ザックスは腕を組み首を曲げて悩んでいると目の前のタッチミーもそれを真似て腕を組み首を傾げた。




「ふっ、そうだな!村外れの墓地でもいいから休ませてもらおう」




隣でタッチミーに遊ばれるクラウドの顔が心なしか引きつっていることに笑いを漏らし彼を抱き上げ再び走り出した。














数分程経ってからだろうか、
村の目の前で見たことのある人物が行く手を阻んでいた。




「ザックス、久しぶりね」

「シスネ…」




ブラウンの髪を揺らす彼女は何度も背中を押してくれた。
けれど今回は立場が違う。
恐らく上からの命令で俺達を捕獲、もしくは…抹殺に来たのだろう。




「アナタねぇ…敵の思う壺にハマってどうするのよ?まだ私だったからいいものの、他のソルジャーとかに見つかったら、確実にアナタ死んでたわよ?それとも何か言いたいことでもあるわけ?死にたいの?だったらチョコボに蹴られて死ねばいいわ」

「あ、あはは;」




毎回ながらに先がわかってらっしゃる彼女には口を出そうにも正論で言い返せない。
考えたくはないがきっとここにいるのは後者の理由だろう。
つか、死ねって……orz

まぁ、確かに運が良かった。
相手は1人、こちらは2人だが逃げられなくもない。

ザックスは逃げ道を確保しようとばれない程度に視線を辺りに巡らせた。




「…神羅はアナタ達を殺そうとしている。タークスもその命令に逆らうことはできない」

「……」

「でもね、私達はいくらハイデッカー直轄だとしてもアナタ達には少なからず情があるのも確か」




シスネは自分の後ろに隠していたサイドカー付きのバイクを出した。
大きさ的には丁度いいだろう。
けど、何故俺達に見せるんだ?
まるで持って行けと言ってるみたいだ。

シスネは耳に付けたインカムで周りの状況を確認しながら手裏剣を構える。




「奪う気でいる?…そんな必要はないわ」




シスネはポケットからキーを取り出しバイクに付ける。




「…私達に今できるのはこれくらい。まだ上部との混乱の中でまだアナタ達に対しての特別な措置がとれていないのも事実。だからこれは私達が勝手にやっていることでただの独り言よ。

行きなさいザックス、そして約束よ。

  …お願い…生きて帰ってきて」




シスネは手裏剣をザックスへ投げつけた。
頬に軽い切り傷を負うも瞬時に横へ避けクラウドを抱き抱えバイクに飛び乗った。
振り返れば先程の手裏剣がいつの間にか追い付けた一般兵の銃口を切り落とす。

ザックスはエンジンを稼動し走り出した。
友人からの暖かな支えに目尻を熱くさせながら。



シスネは涙を堪えていた。
気持ちを表情に出さない、任務を必ず遂行するあのエリート集団が手を拱いているなんて。
ソルジャー・クラス1stを大量に失くし、ましてや科学部統括の宝条の極秘実験のサンプルが逃げ出したとあればそれに応戦できる人材がいない今、神羅は怯えているのであろう。
殺しておかなければ強靭な牙によって壊滅されると。




「ありがとうシスネ…」




母ちゃん達には会えなくてごめんと心の中で謝った。
いつか、いつか胸を張って帰れるようになったらアイツを連れて帰るから待っててくれるよな?

…ん…?

…アイツって……?



まぁいいか、今はミッドガルへ急がなきゃな。



備え付けにかけてあったゴーグルを掛け隣で揺れるブロンドの髪を撫でた。
大丈夫、俺達なら何でもできる。








峠を越えゴールドソーサエリアへの橋へ差し掛かった頃。

誰かが橋の前でモンスターに追われているのが見えた。
相手はグランドホーン一体。
どうやら道に迷った老婆が腹を空かせたグランドホーンと出くわしてしまったようだ。

サイドカーに乗るクラウドのシートベルトを確認する。ロックしていることを認識。
ハンドルを握り直し勢いよくアクセルを入れた。




「いっちょ派手に行きますぜ〜!」




エンジン音が戦慄く。
地面を蹴り上げスピードを上げる機体。
ミッドガルに置いてきた愛車のデイトナまでには到底及ばないが、モンスター直前で前輪を浮かせ踏み込むと素早くハンドルを切り加速しスピンしたままの後輪でモンスターに体当たりを喰らわした。
ザックスはなまりは有るがバイクテクだけはピカイチ。
老婆を抱き上げ救出するとトドメにマフラーを向け、ブレーキをかけたままアクセルを蒸かしマテリアを発動した。

排煙にファイアで発火し見事な爆煙がモンスターに直撃。
見事に討ち下した。




「こういう使い方もあったりなかったり(笑)」




抱き上げていた老婆を下ろしてやると再びザックスはバイクへ座り直し先を急ごうとハンドルを握った。




「あ、あの!助けてくれてありがとうねぇ

…あの、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかえ?」

「ん?どうしたのばっちゃん?」

「聞いちゃ悪いかも知らないけど…アンタは神羅の人かい?」

「え、あー…まあ」




見た目からしてそうだよな。
田舎にしたら珍しい格好だし、よく魔晄炉へ観測に来てたから…。ましてや神羅に怨みを持った人が多い。
何か言われんのかと覚悟していたのだが、老婆から紡がれた言葉は意外なものであった。




「アンタ、

ザックスっていうソルジャーを知らないかえ?」

「え……」

「10年くらい前にいきなり飛び出して行ったっきり全く連絡がない親不孝者でね。
…でもね、私達は夢を叶えたとか叶えられなかったじゃなくて、あの子が生きていること、それだけでいいの

アナタはザックスを知っているかえ?」

「……っ」




言葉に詰まった。
自然と鼻の奥がツンと痛くなり目頭が熱くなった。
ゴーグル越しでもってわかる。
この人は、この人は……




「か…ぁ…、アイツならピンピンしてますよ?」

「本当かい?」

「ああ…ソルジャーになって毎日活躍してますよ。俺も一緒に同行したことがあります」

「そう、良かった」




心底安心したように微笑む老婆。
ゴーグルをしていて良かった。
今外してしまったら涙も一緒にバレてしまうから。




「んじゃ、この道を真っ直ぐ行けば帰れっから気をつけて帰れよ?またモンスターに会うんじゃねーぞ?」

「ありがとねーお兄さん」




ザックスは鼻の下を指で擦ると軽く手を振りバイクを走らせた。
あの時より少し老けた母を背に。























「大きくなって……ちゃんと友達を守ってやんなさいよ」




バイクの走り去った後を見つめながら囁いた。
鼻の下を擦る癖、あの癖は小さな頃から全く変わらない。
それにこの道は地元の人しか知らないゴンガガへの近道。
数年ぶりに会った息子の背中には人を護る逞しい背中へと変わっていた。

生きているだけでいい、
今度はちゃんとした形で帰ってきなさいよ。




「…ザックス、頑張んなさいよ

そして、辛くなったらいつでも帰ってきなさい」




老婆は服に付いた埃を払うとゴンガガへと戻っていった。










































「ホランダーの居場所が解った」




ラザード統括が失踪してから数日。
プロジェクトGの遂行者の役者の居所が発覚した。
恐らく其処には元ソルジャー・クラス1stのジェネシスも居るだろう。
緊張が走る。




「これは極秘任務だ、彼らを抹殺してもらいたい」




上部からの命令。
また汚い仕事。それはタークスの任務。
総務部調査課の使命。
だから私達に拒否権などいっさいなかった。




「「ハッ!」」

「健闘を祈る…」




白いスーツを着た若い副社長の命令に逆らうことなど出来るはずがない。
シスネは静かにスーツの端を握りしめた。



end


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