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42.key





「胸の奥に眠る 大きな大きな慈しみを
 繋ぐ掌の 温度で静かに 目を醒ますよ

 ここは暖かな海だよ…

 …昔みんなヒトツだった世界
 おいで、暖かな空だよ…」




白と黄の花が揺らめく教会。
彼女は祈るように歌を紡ぎながら木漏れ日の中眠る子ども達に寄り添っていた。

遠くから機械的な音が聞こえ降り立ったことに気づきゆっくりと立ち上がり入り口から来た彼に駆け寄った。




「取り込み中申し訳ない」

「ツォンさん。最近ザックスやスバルには会いました?」




あれから幾度も神羅本社へ送られてきた手紙にさすがのツォンも自ら足を出向き彼女のケア目的にと教会へ来るようになった。
彼女は古代種。
いくら若いからといっても誤魔化しきれない部分があるのが少々難点ではあったが、遂に手紙が80通を越えた頃、あまりにも悲痛であって仕方がなかった。




「すまない…私たちも忙しくてな、会ったらお前が心配していると伝えておく」

「うん…お願いね?」




少し痩せただろうか?
月日が経ちあの頃のあどけない少女の姿は時と共にこんな素敵な大人の女性へと変化させていた。
しかし心配の拭えない彼女の心の暗雲を吹き去ることは未だにできていないことは事実であった。




「ツォンさん、今日もまたお手紙お願いしていいですか?」

「あぁ…」




ツォンはエアリスから手紙を受け取り小さく頷いた。
いつもこの駆け引きを繰り返す。
実はその手紙は行方不明者宛ての行き場のない手紙。
ツォンはそれを受け取ると任務中に立ち寄ったのだとヘリに乗り立ち去っていった。




「ホント、みんな嘘が下手くそなんだから…」




エアリスは段々と静かになってゆく空を見つめ小さく呟いた。
本当に下手くそ。
みんな辛いのに辛くないって嘘をつくからわかっちゃうんだよ?



ツォンは手の中に握りしめた手紙を見つめ遣り場のない怒りに眉を寄せた。




「私達タークスが全精力を上げて2人を射殺される前に回収するぞ!!!」

「「「了解」、と」」




































『止まない波は返す 静かな吐息は宙に舞って

 溢れかけた 星の雫
 離さないで 歩きたい
 離せば 全てが無くなるようで…』




今日は1人海辺を歩きながら口ずさむように歌う。
何か引っかかるんだ。
自分の歌う唄の中にその鍵が無いか探してる。
誰かに歌って聞かせたことがあった気がして、それが切欠で何か思い出せたならと。




『失していくもの総て抱き寄せて
 君が笑うのなら僕がぬぐってあげよう
 揺れた心を 確かめるように
 月は僕達を 照らしていた…』




今宵も満月。
スバルは裸足で海辺へ出で立ち戸惑うことなく海面を歩き出した。
海に映る満月は何かを思い出させてくれそうで、胸騒ぎがしたんだ。




『気づけば砂にまみれ無邪気な顔で追いかけた

 君がくれた星の砂を
 離さないで歩きたい
 離せば 全てが 無くなるようで…』




無く、なる?
あれ…?
何かが引っ掛かる。
何かを俺は無くした?

一体何を……?

胸元に光るドックタグ。
これは一体誰の?
しかも自分が敵対している神羅の、しかも軍の犬であるソルジャーのドックタグ。
だけど不思議なことにまったく嫌なことがしないんだ。寧ろその逆な気がしなくもなくて…




『解っていた筈、君はうつろいゆくと
 伝えたい事がきっと伝わらなくとも
 今は誤解を恐れずに云うよ
 僕はあなたを…愛し…て…』




何かが頭の中をかき混ぜるような痛みが走った。
たくさん流れ込んでくる記憶。

そうだ、
アイツは黒髪で
海よりも深い綺麗な青い瞳。
バカで一直線で優柔不断だけど、
正義感だけは人一倍強い。

大っ嫌いだけど大好きな人。




『僕は、あなたを愛していると…』




思い出したよ。
忘れていてごめんなさい。
そして、早く気づけなくてごめんなさい。

トリカゴ越しに歌ったこの曲は彼に頼まれて歌った他愛のない流行歌だったかもしれない。
でも今なら解るよ、この唄の意味を。
伝えたかった言葉を。






海面に佇み空を見つめていると、隣に彼が降り立った。
飛び方も様になってきた気がする。
どうやら黒い翼を気に入ったようで、
せの理由は俺が許さない理由だったけどね。




「思い出したのか?」

『うん、あれからもうすぐ5年が経つ。
俺は最悪な嫁だよ』

「そうか、…アイツがいない日々も楽しかったのだがな」

『セフィ、まさかザックスのこと思い出してっ…!?』




振り向き反論しようとする唇を彼の唇によって奪われる。
視界一面に広がる彼の表情に言葉を失った。




「あんな五月蠅い子犬、忘れたくても忘れられん」

『そんな…』

「フッ、お前との時間、暖かで心地よかった。だが、少々俺には暖かすぎた…」




口調が前のものに戻っている…。
これは心を開こうとした彼の努力の賜物であろう。
スバルは目蓋を閉じるとゆっくりと開けセフィロスの頭を撫でた。




『アナタはアナタらしく、そのままで在ればいい…』

「俺はあの子犬には勝てないのか…?」

『ザックスは俺の中で特別だから』




脚の完治したセフィロスは少し不服そうだが小さくため息を吐くと翼を広げスバルの手を取った。

もうね、行く場所なんか決まってる。

彼と初めてあった場所はあの街だから、
きっと彼はアソコに帰ってくる。
根拠もないけど、そう感じたんだ。


2人は満月の下手を取り合い海面から飛び立った。




『あなたが 照らした場所で
 誰にも負けずに咲き乱れよう…』




  失くしていくもの、総てを抱き寄せて
  君が笑うのなら 僕が拭ってあげよう
  揺れた心を確かめるように

  月が僕たちを

  照らしていた







さぁ、行こう。
俺たちの約束の地―――




ミッドガルへ。


end


添え付け歌詞
アイモ/ランカ・リー
月光浴/Alice nine.

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あきゅろす。
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