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40.escape



『酸素濃度、魔晄濃度異常なし、心拍数数共に容態異常なし。安定しております』

『ふむ、…そろそろ餌でも与えておけ』

『はっ』





















なんだここは…?

泡がごぽごぽと音を立てる。
水の中?

水の中を浮遊する身体。
そこからは幾重にも知らないチューブが繋がっていた。
身体を動かしたくても力が入らず、ただぼんやりと周りを見つめていた。



ここは、研究所……?
一体どこの…



もの前では忙しく白服の男達が何かをやっていた。
一体誰なんだろう。
その中の誰かがこちらに気づき近付いてきた。
なんかに手を添えた。
ああ、ここは、なんかの容器の中なのか。




『どうだね気分は?あれからずっと眠っていたのだよ。キミはあっちよりは使えそうだからな…』




あれから?
それはいつの話だ?
そもそもあっちってなんだ?
訳が分からない。
口の端からコポッと音を立てて空気の泡が舞い上がる。




『まぁいい、後少しで完全するんだ…私の夢が…』




夢?なんだそりゃ?
俺にアンタの夢なんて関係ない。
それより何が起こっているのか説明してくれよ。
訳も分からず、身体も動かない今。唯一動いた眼球。
当たりに視線を巡らしもう一つ同じような容器を見つけた。
背筋に電気が走ったような気がした。
俺はその中身のヤツを、知っている―――

目を見開き動かぬ身体に鞭を入れビーカーの硝子に爪を立て出ようともがく。
なんでこんなことになってるんだ!?
虚ろな瞳に映し出すものは何もなく、光さえ失いかけている。




『博士!暴走です!』

『魔晄濃度を上げてやれ』

『しかし!これ以上あげたら人間ではなくなるかも…っ』

『構わん、相手はソルジャーだ。それくらいでは死なん』

『……っ!』




力ずくで壊そうとするも割れない。
爪が剥けビーカーの中に血が漂い痛々しい。

研究員は命令に従い装置のレバーを上げた。
中に今よりも濃い魔晄が流れ込む。
バタバタともがくも逃げ場はない。
身体の力は抜け、瞼は開ける力を失い、光がシャットダウンされる。

…また闇の中へ墜ちていった。




































それからどれくらい経っただろうか。
研究員の人数も減り、魔晄の異常な程の注入実験も和らいできた。
再び意識が戻った頃、隣のビーカーの中の彼とどれくらいぶりだか解らないが視線がぶつかった。

だが、話そうにも互いに水中に浸されたままで話す術がない。

とっさに浮かんだ案。
それは硝子の内側から爪で文字を書くことくらい。
俺はこれに賭けた。



研究員の目を盗み、ガリガリと傷を生み出す。







――クラウド―だいじょうぶか―?




ビーカーの中に浮かぶ金髪の彼。
微々たる反応だが、小さく首を縦に振った。
良かった、生きてる。
それに安堵し爪を立て文字を続けた。




――つぎのエサのじかんがチャンスだ―




一瞬だが金髪の少年は目を見開き、目を伏せた。
合意、だな。
体力を温存しよう。
その時が来るまで。
俺達には約束がある。
生きて、生きて戻らなければ……





















『ビーッビーッ!…ニブルヘイムの神羅屋敷地下実験室からミッドガルの科学部研究室へ!実験サンプルが2匹逃亡を確認!直ちに応援を要求する!』






















ビーカーを渾身の力で割り。
外へ這い出ると自らの拳へ力を込めて親友のビーカーを叩き割った。
身体に付いたチューブを虫が付いていたかのように払い取り、錆びかけた自らのバスターソードを背負うとまだ覚醒できていない親友を抱きかかえ研究室の扉を破り階段を駆け上った。
途中、出くわした研究員をバスターソードで蹴散らし個室に飛び込む。

間違いなく本部に連絡を入れるであろう。
そんなこと考えたくもない。



クラウドは一般兵の制服を身にまとっていたままだったが、研究員の返り血で真っ赤になっていた。
ソルジャーの制服とは違い機能性に優れない一般兵の服。
これから逃げる中でこのままでは返って目立ってしまう。
仕方なくザックスは部屋の中にあったクローゼットの中を漁った。




「お、いいのがあるじゃん!」




手に取った制服は紛れもなくソルジャー・クラス1stの制服。
何度も討伐などのミッションで野営代わりに使われていたこの屋敷にはこのような制服をいざという時にいれていたのであろう。




「あ、…ぅ」

「…できれば、自分の手で着させてやりたかったな」




ソルジャーになることが夢であった彼にとってどんな気持ちであろう?
こんな形で制服に手を通すことになるなんて…
着させ終えるとザックスはまだ虚ろな瞳の親友に向き直った。
そして知りたくもない現実を目の当たりにした。




「クラ、ウド?…お前っ!?」

「あ、あぁ…あ」



アイスブルーに輝いていた瞳。
ザックスはそれが大好きだった。
だが、目の前に居る彼の瞳は自分のそれと同じ…魔晄に侵された証。
青色の瞳であった。
追い討ちをかけるように、彼の容態は最悪を極めた。
これは間違いない、

魔晄中毒だ―――………

手も足も動かない。
ましてや言葉さえ、…。


なんで、なんでこんなことに…っ?!


ザックスはやり場のない気持ちにただただ涙を流しクラウドの華奢な身体を抱きしめた。
これからがある者に背負わせてしまった傷。
拭うにも拭えない傷。




ガンガンガンガンッ!!




『ここだ!!ここに逃げ込んだんだ!!間違いない!!』




扉を鉄で殴る音。
次第にそれは銃声へと変化していった。

ここももう持たない。

ザックスはバスターソードを担ぎ直しクラウドを腕に抱くと窓を突き破り外へ逃げ出した。




向かうべき場所は、
そうだな………………たくさんのひとが溢れていてクラウドとひっそりと暮らせる場所といえば、あそこしかない。
何年も帰っていない故郷でもいいんだが、あそこは完全に神羅の目下だ。
ならば行ける場所は一つしかない。




「行こう、ミッドガルヘ…」








答えはもう決まっていたんだ。



end



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あきゅろす。
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