ダイヤ・錻力の小説
逆行した降谷暁in桐湘6【完】
錻力の原作が終わってしまったので後半かなり巻いていってます。
最近の本誌の内容のネタバレを含みます。
単行本派の方はご注意下さい。
私は医療の知識がないので病院内の描写はいいかげんです。
神奈川県内の大規模病院に見舞いに行った時に見聞きした病院あるあるを若干参考にはしましたが、保土ヶ谷球場で出た怪我人がどこに搬送されるとかそういう細かい事情は考えない方向でお願いします。
関東大会の球場は千葉県内で、一回戦の組み合わせは
稲城実業(東京)対豪徳高校(千葉)
浦花部高校(埼玉)対桐湘高校(神奈川)
横浜港南学院(神奈川)対青道高校(東京)
組み合わせは東京と神奈川ばっかで他の県どこいったとかツッコミどころしかないと思いますが、こんな関東大会でもいい方のみお進みください。
[newpage]
【神奈川県春季県大会決勝当日】
「あれ、おかあさん」
西東京地区の青道高校のエースとして甲子園のマウンドに立ったはずが中三に逆行して神奈川県立桐湘高校に入学した僕、降谷暁は見慣れた母の顔を見て首をひねっていた。
「神奈川の学校に入ったのは夢・・・?ここって北海道?」
神奈川に母がいる訳ないから、とまどって僕が聞くと、母はいきなり泣き出した。
「あんなに苦労して勉強して入学したことも覚えてないのね、かわいそうに。野球ってこんなにボロボロになってもするものなの」
この様子ではどうやらここは北海道ではないらしい。
「入学って青道、それとも桐湘?どっち?」
聞いたけど母は泣くばかりで返事がない。
泣いてないで説明して欲しいなあと思っていたら祖母の声がした。
「気がついたのね、暁」
「気がついたけど、まだ混乱しているみたい。自分がどの高校に通ってたのかも思い出せないのよ」
母が涙をふきふき答える。
「ねえ、今日って何月何日?何曜日?僕何日眠ってたの」
僕がこんなにせかせかと矢継ぎ早に質問することは普通ないので、母も祖母も驚いている。
北海道にいるはずの母、東京在住の祖母が一緒にいるということは多分僕に何か異常事態があって、誰かの連絡でわざわざ駆けつけたんだろう。
ここ、病院だし。
「四月の・・・日曜日よ。昨日春の県大会準決勝で負傷退場したっていうから飛行機で飛んで来たとこ」
全然覚えてない。
けど、センバツでも都大会でもなく県大会と言ったということは神奈川の大会だ、それも僕が覚えている準々決勝の次の試合。
つまり僕は桐湘に通っている。
「ありがと。じゃあ今日決勝なんだ」
急いで着替えて球場に行けば間に合うかなと思い、起き上がろうとしたらなんか身体に管がいっぱいついててくらっとした。
僕、注射大嫌いなんだけど、どうやら注射だけでなく点滴も嫌いみたいだ。
医療用のテープでなにかよくわからないものが固定してあるし、勝手に外していいのかどうなのかもわからない謎のものがいっぱいで本気で泣きたくなった。
「退院したいから病院の人に言って全部外して欲しいんだけど」
御用の方は、って書いてあるナースコールのボタンを見つけて押してみた。
「降谷さん、どうしました?」
ナースコールの相手が出た。
「ええと、意識戻ったので退院したいんですけど」
「は?」
「暁の母です。おかげさまで息子の意識が戻ったんですが、言動がいろいろとおかしいので検査とかしていただくことはできますでしょうか」
母の言い草にカチンときた。
検査なんて、病院に運ばれた時点でやったに決まっている。
「検査なんて必要ない、早く帰りたい」
「暁」
母に叱られ、僕はつーんとした。
ぐずぐずしてたら試合が終わっちゃうよ。
僕の嫌な予感は的中した。
病院の職員は人手不足の中仕事しているので、容態が急変して一分一秒を争うとかそういう人が優先みたいで、急がなくても死なない患者にはすぐには来てくれないのだ。
ナースコールしたのに病室に最初に現れたのは給食の配膳しに来た人。
しかも僕は絶食の指示が出てるとかで飲んでいいのはお水とお茶だけ。
お腹別に減ってはいないけどもらえないとなると欲しいような、ん?
給食っていつの?
「今何時。ていうか試合」
「暁の意識が戻ったって連絡してこなくっちゃ」とか言っている母が持っているスマホは電源が入っていないし。
(病院では携帯の使用禁止だから電源オフしていたらしい)
「4時頃でしょ。病院の夕飯は早いから」
4時じゃあ試合はとっくに終わっている。
今から行ってもなんにもならないだろう。
僕は脱力してベッドにもたれ掛かった。
母は祖母に僕の見張りを頼んで電話をかけに行った。
僕が点滴の管とか自分で抜いて勝手に帰っちゃったりしないか心配したみたい。
「・・・来てくれてありがと。試合のこと、何か聞いてる?」
僕は祖母と話をして情報を仕入れることにした。
僕が負傷退場した準決勝はたしか保土ヶ谷球場でおこなわれた桐湘対横浜翔西戦だったはず。
試合の最中のことを思い出したのではなく、蔡理戦の後の反省会で聞いたことを思い出しただけだけど。
「頭にボールが当たったんですって。準決勝はかろうじて勝ったけど、決勝戦は完敗だったみたい。暁だけじゃなく、エースの子も出られないみたいで、控えの子が一人で投げてたようだから・・・・」
準々決勝で足を痛めた之路主将はドクターストップで準決勝、決勝の出場は絶望的だった。
それで準決勝は喜多センパイが先発、僕がリリーフするはずだったのは覚えている。
その僕も入院してしまった以上、桐湘には喜多センパイしかちゃんとした投手がいないはずで。
個々の選手の力量で勝る港南に勝つには継投しかないのに一人しか投手がいない時点で桐湘は詰んでいた。
「そう・・・・・・」
「降谷さん、気分はどうですか〜?」
空気を読まずに看護婦さんが部屋に入って来て話しかけながら血圧をはかる。
「大丈夫です。帰りたい・・・・退院がだめならせめて一時帰宅」
僕の懇願はまるっとスルーされた。
僕の声小さいから、聞こえなかったのかもしれないけど。
「後で先生の回診ありますからね〜」
看護婦さんは行っちゃった。
僕はため息をついた。
ボールが当たったせいなのか、一部飛んでる記憶。
決勝戦の完敗。
決勝進出した時点で関東大会の出場が決まっているから次のステージに進まなきゃいけないのに考えることが多くて頭が割れそうに痛い。
どうしよう。
【関東大会一回戦】
神奈川二位の桐湘の一回戦の対戦相手は埼玉一位の浦花部高校。
怪我が完治してないので今大会での登板を医者に止められている之路主将はそれでも背番号1のユニホームを着てベンチに入っていた。
背番号といえば、僕の背番号は11になった。
関東大会にベンチ入りできるのは18人と決まっているため、ベンチ入りメンバーの入れ替えがあり背番号が変わったのだ。
(今回は母がこっちに来ていたから背番号は母が縫ってくれた。)
ちなみに清作くんは背番号8。
「頼んだぞ、喜多」
「はい、之路主将」
決勝戦、負けたとはいえ、之路主将さえ経験のない決勝戦のマウンドに立った自信が喜多センパイを堂々とさせていた。
一点リードされている七回裏、二死二塁の好機にベンチが動いた。
喜多センパイへの代打、僕。
思いきり振ったバットに当たった打球はバックスクリーン直撃の逆転ツーランとなり、次の八回表から僕がマウンドに上がった。
喜多センパイの球に目が慣れてきた浦花部打線にとって僕の球は実際以上に速く見えたようで、浦花部打線は三振の山を築いていく。
一周目同様6連続三振を取った僕はゲームセットの瞬間、チームメイトの手荒い祝福を受け、飛びかかられたところをさすりながらベンチで帰り支度をしていたらいつの間にか最後の一人になっていた。
「たいしたもんだな、怪物クン」
聞きなれた声に僕はドキッとしてそっちをゆっくりと見上げた。
そこには青道高校の不動の正捕手、御幸センパイがいた。
ていうか、青道の一軍みんなの姿が見える。
「こんにちは。なんでここにいるんですか」
「降谷、知り合いか?」
いちばん近くにいた之路主将に聞かれて僕は頷く。
「西東京の強豪、青道高校の正捕手の御幸一也さんと青道野球部のみなさんです」
御幸さんとか呼び慣れてないので呼びにくい。
けど之路主将の前で他校の人をセンパイと呼ぶ訳にもいかない。
「いや、ユニホームに青道って書いてあるし背番号見れば正捕手なのも分かるが。次の試合のチームがうちの部員に何か用か」
青道対横浜港南学院の試合は桐湘対浦花部の直後に開催らしい。
それなら球場でニアミスしてもおかしくない。
「そこの降谷くんと前に道で会って知り合ったんですけど、連絡先交換してなかったから教えてくれって言おうとしただけですよ」
「道で?」
御幸センパイの説明に首をかしげる之路主将の反応はまあ普通だろう。
「そうです。僕、青道にも願書出してたし。雑誌で御幸さんの記事を見たのが北海道から首都圏に出ようとしたきっかけだったので、偶然道で会った時につい話しかけちゃって」
ストーカーみたいだと引かれるかと思ったけど之路主将からは連絡先を交換しなかったことを笑われただけだった。
ん・・・?
携帯電話の番号を聞かなかったくらいでどうして笑われるんだろう?
「連絡先なんて交換しなくても受験要項に青道の代表電話が書いてあったのを持ってるし監督にその番号に電話してもらえば試合の申し込みには支障ないんじゃないですか?」
って言ったら何故か之路主将がコイツ天然でとかなんとか御幸センパイ達青道野球部のみんなに頭を下げ始めた。
主将は僕の保護者か。
「それに僕、携帯持ち歩いてないし自分の番号も覚えてないです」
空気が凍った?
中学校の時にチームメイトに化け物呼ばわりされた時のように凍てついた空気に僕はまたやっちゃったかもしれないと思う。
「携帯分からなかったらとりあえず自宅でいいよ」
「自宅でいいんですか?北海道には、交通費がかかるからめったに帰省しませんよ?」
両親しかいない自宅になんか用があるんだろうかと首をかしげると之路主将がすっかり糸目になっていた。
この表情は困惑してる時によく見る。
「降谷はこっちの親戚の家に下宿しているんだったな、下宿先の電話を教えてやれ」
「え、でも今自宅って・・・」
苫小牧の自宅の番号を教えようとしたら急に違うことを言われて混乱する。
「そう言えば下宿って言ってたな、下宿先の番号を頼むわ」
御幸センパイは記憶力がいいらしい。
下宿してることを桐湘ではいつか言ったことがあるけど御幸センパイ達には言った記憶ない。
「・・・覚えてません、伯父の家の番号。自宅にある親戚の電話番号帳か、部屋の充電器に差したままの携帯のアドレス帳見ないと」
もちろん母のスマホにも連絡先が入っているはずだけど関東大会を見ずに今日北海道へ帰っちゃった母はまだ自宅に着いてないだろう。
母の番号も伯父の家に帰って携帯を見ないと分からないから今電話で聞くことも出来ない。
「マジか・・・」
「之路主将、まだですか?降谷も!帰らないと、みんなバスで待ってますよ」
なかなか出てこない僕達を心配して喜多センパイが呼びにきてしまった。
「スマン、今出る。喜多、降谷の携帯の番号は分かるか?緊急連絡先でもいい」
之路主将は喜多センパイに話を振った。
「え?降谷の?本人がそこにいるのに何故俺に聞くんですか」
「降谷は携帯を携帯してないし自局の番号も覚えていない上に、今は親戚の家に下宿しているんだが、下宿先の番号も覚えてないそうだ。俺もまだ登録してなくてな」
「俺も登録してません」
喜多センパイに申し訳なさそうに言われて万事休す。
部活で毎日会うのに連絡先を登録する必要性を感じないからわざわざ登録しなかったのだろう、之路主将も喜多センパイも。
「試合頑張って下さい、こっちから連絡します」
次の試合が始まるのにいつまでも邪魔してる訳にはいかず、結局こうなった。
僕はバスには乗らず、次の試合を観戦することにしたら、バスで帰らないと道が分からないだろとかいろいろ言われて一悶着あったけど、都合の悪いことは無視で通していたら、天の助け?が現れた。
「一年ぶりに会うなんてまるで織姫と彦星みたいだね、拓人君」
赤茶色っぽい髪の毛のイケメンが之路主将に下の名前で馴れ馴れしく話しかけながらボディタッチしようとして、之路主将に腕を掴まれている。
「・・・誰ですか」
僕があえて空気読まずに聞くと、之路主将が言った。
「千葉の豪徳学園三年、國尾利万(くにおとしかず)。港南の穂村、稲実の成宮とともに関東を代表する左腕の一人だ」
成宮さんは知ってるし、穂村さんも桐湘が負けた決勝戦に先発した港南の二年生エースだという予備知識くらいはある。
この人が豪徳の國尾さんか。
「こんにちは」
たしか稲実と豪徳は桐湘の前に第一試合で対戦していた気がする。球場で会っただけなのに織姫とか彦星にたとえるのは意味不明だし、よく分からない人だと思いながらとりあえず挨拶する。
「降谷くん。あの豪速球に、浦花部のエースの決め球バックスクリーンに運ぶくらいだからどんな筋肉ゴリラかと思ってたらずいぶん細いんだね」
うわあ。
いきなり腕をつかまれ、僕は無表情のまま焦っていた。
なんなんだ、この人。
「苫小牧中の降谷?」
歯列矯正している坊主頭の人に話しかけられ、僕は頷いた。
この人、目付きが鋭くてなかなか強面だ。
「豪徳学園一年、篠武希輔だ。僕も北海道出身だべ。なまらいい球投げるんだな」
なまらってのは北海道弁ですごくって意味だけど、そこまで言ったとたん、篠武くんは赤面した。
「ああ!恥ずかしい、訛りが恥ずかしいから気をつけていたのに」
そんなになまってないけど・・・?
「ドンマイドンマイ」
こんな茶番劇をやっている間に桐湘のバスは出発した。
その前に之路主将は冷や汗を垂らしながら國尾さんに僕を最寄り駅まで送ってくれるよう頼み、國尾さんは笑顔で了承していた。
いいんだけど。
こうして僕と豪徳のエース・國尾さん、北海道出身の豪徳一年篠武くんはスタンドから観戦を始めた。
途中までは完全に一周目と同じ展開だった。
寡黙な自分にしては珍しく話がはずんだのは篠武くんのおかげだ。
雪でぐずついた足下、踏んばるのは慣れっこだということ。
限られた練習時間、一球に対する執着心は誰にも負けないこと。
同じ北海道で野球を一生懸命やっていた者同士、篠武くんとは話が合うのだ。
「なぜ、越境入学?」
一周目と同じ展開なら夏の甲子園と秋の神宮大会を制することになる地元北海道の巨摩大藤巻でなくわざわざ千葉県の豪徳に越境入学した理由を知りたくて聞いた僕に篠武くんは言った。
「中三の時、豪徳の練習を見学していた僕に國尾先輩はこう言った。どこで野球やってても目指す場所は甲子園一つなんだ。迷ってるなら誰と一緒に目指したいかで選べばいいんじゃない?と。僕が豪徳に入る決心をしたのはこの言葉があったからだ」
誰と一緒に甲子園を目指したいか―――
春季大会で七割台の打率を残し、ホームランも二本打ったという同じ北海道出身の好打者篠武くんの言葉は深く印象に残った。
六回、満塁のピンチで港南四番の弐織さん(桐湘の四番弐織センパイのお兄さん)を迎える丹波センパイと御幸センパイのバッテリー。
高めに浮いた甘い球を完璧にとらえた弐織センパイのお兄さん。
打球がレフトスタンドに突き刺さるような当たりで、これで六対二。
「勝負あったか?」
なんて言いながら立ち上がるお客さんもいる。
なんとか後続を断ち、八回には丹波センパイに代わって川上センパイがマウンドに上がった。
僕がいないと一年生に投げさせるって話もなくなっちゃうのか。
この試合、青道は負ける。
僕がいた時も負けてるし。
でも、こんな負け方じゃないんだけど。
そう思ってたら、自分が出てない試合は見たくないとどっかで聞いたような声がして、僕は回りをきょろきょろした。
「あっ」
「どうしたの、降谷くん、知り合い?」
國尾さんが怪訝そうに言うのも構わず、僕は席を立って元知り合い、もといライバルのところへ走った。
「こんにちは」
先にクリスセンパイに声をかけたのは彼が僕の来た方にいたから。
「桐湘の降谷・・・」
クリスセンパイは前の試合をチェックしたのか、僕の名前を知っていた。
「滝川選手、それとそこの・・・」
僕は言葉に詰まった。
クリスセンパイは有名だったらしいから顔知っててもおかしくないけど、中学時代実績を残してない春季大会にも出てない沢村のことを他県の僕が知っていたらおかしい。
「沢村栄純」
自分から名乗ってもらい、僕はほっとした。
ライバルに認識してもらえないのはキツい。
名乗ってもらった後なら僕が彼を知っていても変じゃない。
「甲子園で会いましょう。スタンドじゃなく、グラウンドで」
僕がいない青道が横浜港南学院に完敗するところを見つめながら、宣言する。
それだけ言ってきびすを返すと後ろで沢村がなんか言ってたけど、僕達は野球で語るしかないから無視する。
二回戦は豪徳に勝った稲城実業対桐湘―――。
【その後】
目が覚めると、室内練習場だった。
桐湘にこんないい設備はないから首をひねっていると、誰かに後ろからこずかれた。
「こんなところでなにしてるんだ」
御幸センパイ?
「あれ?稲実との試合は?」
「これから試合するんだろうが。寝ぼけてんのか?」
青道にいるということは桐湘野球部にいたことは全部夢だったんだろうか。
北海道出身の好打者に会っていいこと聞いたのも夢?
「御幸センパイ、今僕は何年生ですか」
一年生をまたやり直ししているのか二年生になっているのか。
返事してくれない御幸センパイに焦れて、僕は背中の背番号を見ようとする。
背番号11なら一年生。
背番号1なら二年生。
「なにしてんだ、お前」
呆れたように御幸センパイは言うけど自分では見えずらくて1なのか11なのかハッキリしない。
「あ、そうだ」
僕は携帯を出して日付を確認した。
僕は二年生になっていた。
ついでに思いついて千葉の豪徳学園の試合結果を検索すると夏の甲子園予選を勝ち抜き、甲子園出場を決めていた。
勝利投手は國尾さん、決勝打を打ったのは篠武くん。
そして神奈川県大会はというと決勝は今日保土ヶ谷球場で桐湘対横浜港南学院。
僕抜きで桐湘は港南に勝てるんだろうか。
僕は之路主将が投げる姿を想像して不安を振り払った。
之路主将ならきっと抑えるだろう。
「降谷?」
携帯をいじり始めた僕を御幸センパイが不安そうに呼ぶから、僕は携帯を閉じて御幸センパイに言った。
「絶対甲子園行きましょう。会わなきゃいけない人がいるんで」
神奈川の桐湘の之路主将、清作くん。
千葉の豪徳の國尾さん、篠武くん。
そして北海道の巨摩大藤巻の本郷くん。
彼らと夏の甲子園で会うことを誓い、僕は稲実との戦いに臨むのだった。
【終わり】
【蛇足、豪徳学園登場人物紹介】
國尾利万(くにおとしかず)
三年生、技巧派のサウスポー。ピンク髪のイケメン。
之路主将のライバル。
自分と之路主将を織姫と彦星にたとえた逸話は原作にもあり。
原作ではちょいちょい他キャラのお尻についてコメントしており、準決勝蔡理戦の観戦中、之路主将にナイスヒップと声をかけた。
篠武希輔(しのぶきすけ)
北海道出身の好打者、越境入学してきた一年生。
中学の時から歯列矯正している。
強面だが笑うと笑顔がキモカワいい。
北海道弁を気にしている。
[newpage]
後書き、主に関東大会について言い訳。
関東大会の開催地についてはダイヤにはいわゆる沢村世代が高校一年の年は記載なし、高校二年の年の関東大会はまだ描かれてないので不明。
錻力では清作くんが高校一年の年は千葉なのでこの話も千葉県としました。
開催地が千葉の場合、東京勢は二校出場、つまり春季大会の決勝戦に進出していれば出場決定になります。
ダイヤのA原作で確定している出場校は、東京の青道と神奈川の横浜港北学園。
いずれも順位は不明。
一方、錻力のアーチスト原作では神奈川一位の港南学院と神奈川二位の蔡理と埼玉一位の浦花部が確定、他に学校名が出てないけど蔡理に負けた東京地区の代表(投手がナックルを蓬莱さんに打たれた)、港南の四番弐織義壱さんに、どっかのチームがホームランを打たれていることは確定。
この話では蔡理の代わりに桐湘が神奈川二位で出場してますが、錻力原作の通りに神奈川と東京の学校が対戦する場合、東京の学校はどこなのかって問題があります。
錻力の関東大会では、一回戦の蔡理の対戦相手は東京代表で、ナックルを投げる投手がいた(チーム名は不詳)んですが、桜沢が関東大会に出られるかというとやっぱり難しいと思うし。
ダイヤの原作では青道が出場しているので桐湘が青道と対戦する可能性も考えたんです
が、降谷くんは関東大会で強豪校相手に鮮烈なデビューしているので青道の対戦相手が神奈川二位で公立の桐湘だとおかしいことに気づいたのでボツ。
青道サイドから見た場合、桐湘だと関東大会にやっとこさ出場してきたレベルの安牌になっちゃうので強敵と戦う感が出ないため、あの横学誰が抑えるんだみたいな原作通りの絶望感を出すには神奈川一位と戦わないとおかしいんですよね。
港北と港南で学校名も一文字かぶってるし強豪設定もあることから青道対港南にしてしまいました。
それから蔡理は二回戦敗退なので同じ神奈川二位の桐湘も一回戦は勝つことにしたいという願望もあり冒頭に書いた組み合わせになりました。
そもそも降谷くんは関東大会で対戦相手を最低一度はカマセにしなくちゃいけないんですよね。
そこで、本来二回戦で対戦する埼玉一位の浦花部高校に犠牲になってもらいました。
蓬来さんとの勝負を避けたから勝ったみたいなチームなので実力は大したことないだろうという想定です。
沢村世代が高一の年の春季大会中、あとひとつ勝てば関東大会で降谷くんをデビューさせると言っていた日に稲実のビデオを見ようとしていました。
準決勝の対戦相手だった可能性もありますが、決勝戦の相手をチェックしておいてもおかしくはないので青道と稲城実業が春季大会の決勝戦に進出していたと考えます。
青道が東京二位だったことにしたのは、過去の関東大会の結果をチラッと参考にした際、一回戦で一位同士が当たらない様子だったので港南と戦う場合、二位の方が自然だと思ったからです。
プロット段階ではすごく安易に、青道と関東大会で戦う降谷くんが見たいと思ってたんですが、話の都合上実現させられませんでした。
錻力のアーチストが清作くん一年夏の大会までで終わらず続きを書かれていれば秋大会とか選抜の模様も書きたかったけど、桐湘は之路主将が抜けたら甲子園を狙えるチームではなくなってしまうだろうからやっぱり難しかったかなと思います。
清作世代の下の学年に有望選手が来てくれないと実力ある部員が足りないのでオリキャラを沢山出さないといけなくなるとそれはもう錻力の二次創作ではなくなってしまうから私には無理でした。
個人的に一話と三話はいい出来だったと思ってますが、長期連載でその水準を維持出来なかったのは自分でも残念です。
最後、降谷くんが喜多くんと同じ高2になっているのは精神年齢は高2と言ってたところが伏線でした。
青道に戻った降谷くんが桐湘と戦う展開も捨てがたいと思いましたが練習試合以外では関東大会か夏の甲子園でしか戦えないので今のダイヤの降谷くんの状態では黄信号ですね。
ここのところ降谷くんsageというか試練のターンが続いてますから。
あと降谷くんの夏の予選での背番号をハッキリさせなかったのは、このままだとエース降格させられるかもと原作の予想をしているからです。
主人公の沢村くんが降谷くんと熾烈なエース争いを繰り広げると初期に言っていたので、エースの座を奪ったり奪い返されたりする展開になると思うので、背番号を名言すると辻褄が合わなくなりそうで。
辻褄といえば、降谷くんは結局緩い球を習得してないっぽいので紅白戦のところは後でコッソリ直すかもです。
終盤も終盤だし、豪徳は出さない方が自然だったかもしれないけど、篠武くんの口から語られた國尾さんの名言が気に入っているのでどうしても出してあげたくて、本来西東京の学校という設定をねじ曲げて力ずくで登場させてしまいました。
勝手に開催地の千葉県の学校にしてすみません。
錻力は甲子園出場を決めたところで終わったので、豪徳と甲子園で戦う番外編書き下ろしが単行本に収録されないかなあと期待しているのは私だけじゃないと思います。
決勝の相手が薄くて地味(失礼)だったので今から思えば麻生西か豪徳がラスボスの方が良かったんじゃないかと思ってもいたり。
最後に。
錻力のアーチストの二次創作はごく少ない中、クロスオーバー小説に興味を持って読んで下さった方々には心から感謝します。
長文の連載にお付き合い下さった方々本当にありがとうございました。
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