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宝物蔵
「どうして欲しいの、僕に?」(神月みいな様の黄金缶よりフリー作品のシュラリア)
どうしてほしいの、僕に?

「アイオリア、獅子宮を通らせて貰うぞ」
 そろそろ夕暮れ時という頃、シュラは聖域に帰還して自分の宮に戻るべく十二宮を昇っていっていた。
 そして五番目の宮のアイオリアの獅子宮に通り掛かった時、獅子宮の主人がいるのを見つけてそう声を掛けた。
 いつもならそれですれ違って終わりだが、アイオリアが小さな声でシュラを呼び止めた。
「……あ、あの、シュラ」
 アイオリアらしくない元気がないというか、しおらしい声に始めシュラは空耳かと思ったくらいだ。
 振り返ると俯いてもじもじしているというか、いつものあの元気さはどこにいったのか体の調子でも悪いのかと心配になったくらいだ。
「どうした、アイオリア。体の調子でも悪いのか?」
 黄金聖闘士になれたとはいえ、まだまだアイオリアは聖域の中では逆賊の弟扱いをされていて理解者は少ない。
 シュラはアイオリアの兄を殺してしまったという負い目はあるものの、アイオリアのよき理解者でありたいと思ってアイオリアに特に気を掛けていた。
 正直、それ以上の下心もあるにはある。
 シュラはアイオリアがアイオロスの人馬宮にいた頃から知っている。
 隣の宮だけあってその明るい笑顔を見る事も多くて、それを気に入ってもいたし、今では体の関係もなりゆきとはいえ持ち込む事も出来た。
 でも恋人という訳でもないという微妙な関係で、出来たらきっちり恋人になりたいとは思っていた。
 その相手がこんなに心細そうに自分を見ている姿を目の当たりにしては、とても落ち着いていられなかった。
「あ……、シュラ、メシ食った?」
「いや、まだだが?」
「良かったら一緒にどう?」
 これにはシュラも驚いた。
 まさか、アイオリアから誘って貰えるなど思っていななかったからこれは正直に嬉しかった。
「別に構わないが……」
「その……、作り過ぎちゃって」
 とアイオリアは言っているが、元は兄と一緒に暮らしていたアイオリアには一人の食事は寂しいのだろうかと思って誘いに乗ることにした。
 食事の最中、アイオリアは楽しそうでシュラはアイオリアの手料理とその楽しそうな笑顔と両方を堪能したのだが……
 さすがに夜も更けて、シュラが獅子宮をお暇しようとした時、またアイオリアが必死な顔をしてシュラにこう言ってきたのだ。
「シュ、シュラ……、ごめん、今日、シュラの所に泊まらせて!」
 叫ぶようにそう言ったアイオリアにシュラは最初何を言われているか判らなくて呆然とした後、その意味を覚ると目の前で真っ赤になっているアイオリアの顔と一緒に心臓がドクドク言い出した。
 これは、まさかアイオリアからのお誘い? 食事もこれか、このためか。
 そう思えば一気に血が頭に昇っていった。
「もし駄目ならこのまま泊まっていって!」
 そのアイオリアの声にシュラはアイオリアを抱き寄せて一気にキスまで突っ走った。
 このチャンスを逃すテはない。一気に恋人同士に……とシュラが意気込んだ時、アイオリアはシュラの胸にしがみついてこう言ったのだ。
「もう、やだ! お化け怖いッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は? お化け?」
 もっと色っぽい話になるかと思ったら、アイオリアの口から出てくるのがコレだった。
 アイオリアは涙目でシュラを見上げるとこう言った。
「デスマスクの巨蟹宮からは成仏できなかった魂魄が流れてくるし、シャカは魑魅魍魎を使役して回覧板まわしてくるし、もう俺、獅子宮やだぁッ!」
 そして、シュラは十二宮を昇ってくる時、自然と足早になる気味の悪いデスマスクの巨蟹宮と、処女宮でいつも座禅を組んでばかりで自分の足で歩こうとしないシャカの姿を思い出した。
 そして、この獅子宮の立地条件に思い至り思いっきり納得したのだった。
「昨日なんて、処女宮からマドハンドが団体様で来たんだぞ。しばらく獅子宮の床でシャカの伝言を手話でやろうとしてるんだけど、そんなの判るか! 気味悪いし、怖かったんだからな、凄く」
 その光景を思い出して頭を抱えてプルプル震えているアイオリアはとても可愛かった。
「判った。今日は泊まっていってやるから……」
 そのシュラの声に嬉しそうにぱあぁぁと広がっていくアイオリアの笑顔にシュラは手を出すにも手を出せず、生殺しになるだろう予感を抱いて、ぐっすり眠るアイオリアの寝顔を前にお預けを食らう羽目になるのだった。
 次の日、アイオリアの十二宮の環境改善の為にシュラも付き合って巨蟹宮のデスマスクの元を訪ねた。
「しゃーねーだろーが、魂魄たちは上へ上へと昇っていくし光がある方に天界があると思って引き付けられるんだから。アイオリアの小宇宙が明る過ぎるんだよ」
 そのデスマスクの開き直りの言葉にアイオリアが吼えた。
「だったら、魂魄を置いておくなよ、こんな所に!」
「やだよ。俺、コイツらの声好きだもん。この恨みがましい響きがなぁ……、アイオリア、お前にも聞こえるだろう? 助けてぇ、楽にしてぇっていう魂の声がなぁ」
 それにアイオリアはもう泣きそうな顔でプルプル震えていた。
 そのアイオリアを見てデスマスクはニヤニヤ笑っている。
 シュラはこれを見てわざとだ、デスマスクの奴、アイオリアをこうやって苛めて遊んでいると思った。
 確かにこのアイオリアの様子は鼻血ものに可愛いが。
 これもデスマスクの嫌がらせというより、可愛い子程苛めたいというソレかもしれない。
 その後、アイオリアの見てない所でデスマスクはシュラに言った。
「オイ、夕べのありゃ何だよ。せっかくのチャンスだろうが。この機会に一気に恋人同士に持ち込めよ。せっかくアイオリアから頼ってきたのに。俺はしばらく続けるから、次は上手くやれよ」
 そして、次の処女宮のシャカを訪ねるとあっさりこう言われた。
「アイオリアの小宇宙は明るいからな。魑魅魍魎たちも救いを求めて行きたくなるのだろうな。アイオリアへの伝言を誰か一人に頼むとケンカになるのでみんなに任せているのだ」
 その声に泣きそうな顔でアイオリアが言った。
「ちったぁ、自分の足で歩け! 自分の足で伝言くらい持って来い!」
「そうすると怨霊たちがガッカリするのだ。彼らはアイオリアが大好きみたいでな。アイオリア、別に心配することはない。彼らのする事など、せいぜい君を床に引き倒して体をベタベタ触る事くらいだ」
 その声にアイオリアはぞぉおおおっと背筋に冷たいものが走った。
 そして、「やっぱり獅子座の黄金聖闘士なんてもうやめるー!」と逆ギレするのであった。
 その後、聖域の三大心霊スポットとして、1位処女宮、2位巨蟹宮、3位獅子宮と言われるようにもなったというが、アイオリアの住宅環境は全く改善されなくて、アイオリアは十二宮の下に家を借りて住むようになったという。
 それにチッと舌打ちをした蟹座と乙女座の黄金聖闘士の姿があったとか、なかったとか……
 怨霊、魑魅魍魎が大量発生しているけれど、今日も聖域は平和です。

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あきゅろす。
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