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宝物蔵
「アルコールに溺れたら」(Ninfeo mioのユリナ様より拝領のラダ×カノ)
注意書き。
こちらはシュラ×カミュ、カノン×シャカ、リア×シャカなど取り扱いの素敵サイトNinfeo mioでキリ番5000を踏んだ際、ラダカノのデートをとリクエストして書いていただいた作品です。
たまたま家族の出勤の関係で4時起きした日に、起きてまもなく訪問したらキリ番を踏んだという奇跡のような経緯があります。
私には絶対書けない雰囲気のお話です。
素敵だと思った方は、このお宝部屋か、作者様のところで堪能していただき、くれぐれもお持ち帰りはなさらないようにお願いします。


待たされるのは慣れっこで。
今日もアイツは結局、書類の束と戯れているに違いないのだ。
それは何も今始まったわけではないし、だからと言って、それを咎める気も、さらさら無い。
俺は、自分がそうしたいと思うだけの時間を待つことに費やし、そうでなくなれば、待つことを止めて、聖域、もしくは海界へ帰るか、そうでもなければ、アイツを冷やかしに行ったりもした。
ただ、今日は。
待ちたくもないのに待っている、そんな自分が少々腹立たしい。
マスターが、コースターの上の空になったグラスを下げるのを見ながら、俺は次の注文をする。
「アイツがいつも飲んでるやつを」
マスターは少し、眉をひそめた後、何かに気がついたように、柔らかく微笑んだ。
アイスピックで砕かれた氷が、グラスに落とされて、カランと、音を立てた。
―そろそろ流石に酔ったか…?
マスターが置いたグラスの輪郭がやけに揺らいで見えた気がした。そう、2つ、グラスを目の前に置かれたような、錯覚…?
―そろそろ、帰るか…
流石に、これはマズいと俺は思ったのだ。
なんだかムシャクシャして、飲むベースを誤ったか?それとも、待ち過ぎたか?なんで、こんなことやってんのか。
アイツは確かに此処へ、何時になろうとも、間違いなく、律儀に、現れるだろうが…こんな姿で会うのも癪に障る。
だが、気付くのが、些か遅かった。
俺が、この待ち合わせのバーを去ろうと立ち上がった瞬間に、目の前には2つのグラスが置かれ、それから、背後で扉が開いて、冷たい空気に首筋を撫でられた。
「いらっしゃいませ」
マスターは、まるで次のお客が来るのを知っていたかのような顔をしていている。
俺は、背で、よく知った小宇宙を感じながら、奥歯を噛み締めた。
「カノン…いるとは、思わなかった…」
背中の向こう側から聞こえた声に、振り返れば、黒いスーツに身を包んだアイツ―ラダマンティスが、いつもと同じ、やや困ったような顔をしているのが、目に飛び込んできた。
「いて、悪かったな、帰ってやる…」
吐き捨てるように、考えるよりも先に、口から飛び出した言葉。
みるみるうちに、ラダマンティスの顔が、歪むのが見えた時、しまった、と思った。
それでも、簡単に、冗談だ、なんて言えるわけもなく。
俺は、カウンターの前で立ち尽くした。
「カノン…」
ラダマンティスの声が、何故だか少し遠くに聞こえる気がしたのは気のせいか?今し方、酔いなどすっかり冷めてしまったと思っていたのに。
「カノン…怒って、いるのか?そりゃ、そうだよな…すまない」
ラダマンティスは項垂れて、やっとのことで、そう言うと、俺が座っていた椅子の隣に、腰をかけ、黙ったまま、目の前のグラスに手を伸ばした。
「ラダマンティス…」
アルコール度数の決して低いとはいえないグラスの中身を煽るその横顔を見ながら、俺は、ぼそり、と名前を呼んだ。
口からポロリと出たのが名前だとしたら、胸の奥から、並々と溢れるように沸き出したこの感情は、何なのか。
それは気づかなかったことにしたいと、心底思った。
そして、観念して、もう一度、座り直す。
「カノン?」
左に座ったラダマンティスは、俺の方を向き直って、なんだか情けない視線を向けてくるけれど、それ以上に情けない顔をしている奴を、俺は知っていた。
「帰るのは、やめてやる」
その言葉に驚きを隠せないラダマンティスの横顔をちらりと見た後、俺は、自分の目の前に置かれたグラスを掴むと、一気に飲み干した。
「カ、カノン!!」
ラダマンティスの狼狽した声が聞こえる。
網膜に映された全てがゆらめく。
喉を、胸を、それから脳までもを、灼くようなアルコールの媚薬が、全てを溶かし始める。
「バ、バカ、何やってる…」
ラダマンティスが、俺の手から、グラスを奪うけれど、そこに残っているのは冷たい塊だけ。
「いつも待たせる罰だからな、ラダマンティス!責任をとれ!」
もう、何を言っているかなど、わからない。
―わからなくて、いいのだ。
―俺は、カノンを、誤解していたのか?
俺の隣には、珍しく、アルコールの魔力に溺れた、カノン。
酔いが回った姿は、余り見たことはなかった、今まで。
そういえば、加減をして、飲んでいたか?
では、何故―
―何故、今日に限って、こんな風に溺れる程、飲んだ?
そもそも、何故、こんな時間まで、此処にいた?
「オイ、セキニン、とれって…言ってん…だ、ろ」
呂律の回らないカノンが、何やら口にしながら、俺の右の肩口に、もたれかかった。
「ちょ…カノン…」
俺は、何と言ったらいいのか、言葉を見つけられず。いつもより熱い、カノンの体温を、肩から…肌を通して、感じる。
ドクドクと音を立てているのは、うっすらと淡く染まったカノンの首筋の脈なのか、はたまた、自分の心臓の音なのか。
俺は、カノンの手から、グラスを離させると、ぎゅっとその手を握り締めた。
「カノン…」
それから、左手で自分のグラスを持ち、残りの液体を飲み干した。
―酒になど、酔えるはずもない。
マスターに勘定を頼み、カノンを半ば背負うようにして、俺は、店を出た。
目を閉じたカノンの睫が、思いの外、長くて、そんなことにもいちいち俺は、ドキドキしていた。
―責任をとれ、って…意味がわからん…
それでも、俺は、自分の不甲斐なさを悔いた。
書類など、放置してこれば良かったのだ。
毎日ではないのだ。
こんな夜くらい。
けれど、決して、俺を咎めないカノンに甘えていた。
きっと、きりのいい時間であの店を去り、ふらりとどこかへ出向くだろうと、思っていたのに。
でも、違った。
もちろんそれも、気まぐれかも、しれない。
―だけど、そうじゃないかも、しれない。
既に街の灯りは消えている。
恋人たちが夢見る眼差しで眺めたであろうイルミネーションの通りも、ひっそりと静まり返り、後は夜明けの薄明かりを待つだけ。
どこへ行こうかと、思った俺の脳裏を掠めたのは。
―冥界まで、このまま…
このままカノンを奪って帰る!
心地よい右側の温もりと、重みが、俺を甘く誘惑する。
時折カノンの唇から漏れた熱い吐息に耳朶を擽られる。
「カノン…行きたいところは、あるか?」
「ん…ラダマンティス…の、ところ…」
カノンが確かにそう答えたから、もう、俺は迷わなかった。
「カノン!離すな、よ」
俺は、カノンの身体をしっかりと右腕で抱いて、冥界へと飛んだ。
離せ、よせ、と自ら叫んだあの日から、全ては始まっていたと、思い出しながら。
―今夜は、翼竜の牙を、隠しなど、しない

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あきゅろす。
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