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宝物蔵
「Angel in candle」(Ninfeo mioのユリナ様より拝領のカノン×シャカ)
注意書き。
こちらはシュラ×カミュ、カノン×シャカ、リア×シャカなど取り扱いの素敵サイトNinfeo mioでキリ番4000を踏んだ際、甘いカノン×シャカをとリクエストして書いていただいた作品です。
素晴らしいです。
素晴らしいからといってくれぐれもお持ち帰りはなさらないようにお願いします。


Angel in candle
揺らめく光は、穏やかに、温かく―

教皇の間から、処女宮へと帰る階段を、シャカは降りていた。
初冬の太陽は思った以上に早く沈む。
天には、太陽の名残の微かな朱と、輝き始めた一番星が同居する。
しかし、その光は、明るく地上を照らすには、些か心許無い。
夜が、空を、聖域を、シャカ自身を、包み込む。
全てのものが穏やかな休息と安寧を求める、刻。
それは、身体を解き放ち、心を鎮める為。
処女宮まで戻ってきたシャカは、入り口で、いつもとは、何か違う気配に気がついた。
それは、不快なものではなかった。むしろ、どこか、温かい、何か。
不思議に思いつつも、処女宮の中へと歩を進ませると、足元に、等間隔に並べられたら、蝋燭の灯り。
小さな幾つもの炎と共に、冷たい石の壁に映されたシャカの影が、不規則に揺らめく。
「……これは何事なのかね、カノン?」
シャカは、この悪戯と言うには勿体無い気もする光景を作り出した主を、あたかも最初から知っていたかのように、姿は見えない、その人に、問いかける。
居室の扉の前まで、きちんと並べられた蝋燭は、ひとつひとつは小さいけれども、進む方向を照らすには十分なものであった。
カノンの返事を待ちながら、もうしばらく、この柔らかな、蝋燭の光の中でふわふわと漂っているような、心地でいたいと、シャカは、その場に屈み込んだ。
そして、蝋燭の一つを、真上から、のぞき込んだ。
眩しい、と思った瞬間に、視界から全ての物が消える。
一瞬、シャカは、蝋燭が、全て、幻だったのだろうかと疑った。
しかし、すぐに、そうではないことに、気がついた。
ざわめく自らの胸の内と。
遮られた視界、その場所から、確かに伝わる熱。
「…っ、カノン!」
シャカの両眼は、背後からやってきて、背中から抱きしめるようにして回されたカノンの手のひらによって、覆われていたのだった。
「…油断、しただろ、今」
カノンが可笑しそうに、シャカに問う。
「何なのだね、これは…。それに、その手を、退けたまえ。油断なんか…」
そこまでシャカが言ったところで、カノンは、観念して、手を離した。
「まったく、きみは、何をしている」
シャカの困惑した顔を見るのが、密かな楽しみでもあるカノン。
それは、堪らなく愛しいから。
そして、自分にしか、見せない表情だと、知っているから。
自惚れるなと、シャカに言われようとも―
「何って、見ての通りだ。蝋燭に、火を灯した。…綺麗、だろ?」
そんな、シャカを、シャカの自分しか知らない表情を、いくつも知りたい、集めたい。
蝋燭の光が射して、仄かに色づいたシャカの横顔を、見詰めるカノンの心に広がる想い。
どんなに綺麗な蝋燭を灯してみても、汚れた自分の手が、拭えるわけじゃないことは、百も承知。
それでも。
この手で可能なあらゆる全てを使って、与え得る何もかもを。
―キャンドルの数だけ、天使が舞い降り幸せになれる。
いつか、どこかで聞いたフレーズを、カノンは思い浮かべた。
シャカには知る術も無い言い伝えであったとしても。
独りよがりな想いだとしても。
カノンはそっと、シャカの肩を抱いた。
「シャカ…燭の火だけじゃ、寒いだろ…?」
カノンの隣で、シャカはぎこちなくはにかんで、小さく横に首を振った。
「きみが、いる…」
揺らめく、頼りないけれども優しい橙の光の中。
二つの影はいつまでも寄り添っていたいと、想いを確かめあうように、重なった。

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