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バスケ漫画小説(年齢制限なし)
超能力者黛千尋の災難4
 黛さんが斉木楠雄のΨ難の斉木くんみたいに多種多様(パワーは斉木くんよりは劣るが使い勝手の悪さではいい勝負)な超能力を持つ超能力者というシリーズ。
 前回アップしたのが一昨年だったことに気づいて時の経つのの速さに戦慄してます。 
 作中では花粉のシーズン。
 斉木くん同様、花粉症で爆発騒ぎを起こす黛さんの前にパラレルワールドのちっちゃいけど頼りになるあの男が現れる。
 毎回オリキャラが出てくるシリーズですが、今回はちゃんと公式のキャラ……公式というか派生?のちびキャラが出ます。
 ちびキャラの口調が分からないけど黛さんの顔で幼児語喋らせるイメージがわかないし、ぶっちゃけ私が幼児語書けないので普通の言葉使いです。
 黒バス世界は斉木くん世界の出来事が背景にある(斉木くんが自分のピンク髪が目立つのが嫌だからカラフルな髪は普通だと世界の常識を変えたためカラフルな髪が当たり前な世界に改変された)ことになっています。
 斉木くんのテレパシーが強すぎるのでテレパスな黛さん(WC決勝の黛さんは実際かなりテレパスっぽい)は斉木くんの見たものを実況動画中継のように勝手に受信する。
 そんなわけで黛さんが斉木くんを一方的に知っているけど作中二人がまだ一度も会話してないクロスオーバーです。
 その上、ちびキャラも超能力者です。
 大丈夫な方だけどうぞ。 





 花粉症は今までなってなくても急にかかる場合があるとは噂に聞いていた。
 斉木も花粉症にはだいぶ悩まされていたようだがオレも結構ヤバい。
 くしゃみすると発火能力が暴発して火事を起こしそうになるのだ。
 効き目が8時間持続する薬の効能が切れかかってる気がするんだが、火災発生するたびに修復や記憶消去を頼んでいたら異世界の自分が何人いても足りねえ。
「へっくしょい」
 レギュラーだけ居残っての自主練習中、うっかりオレがくしゃみしたことで空気中の酸素にボッと火がつき、激しく燃焼する。
「うわ、なにこれ人魂?また洛山七不思議増えるの?」
「触っちゃダメ、熱そうよ」
「バカ、手を出すな!」 
「チッ」
 オレの身長の半分ないくらいの大きさで丸っこいシルエットのチビが時空間を超えて現れると舌打ちした。
 白い服を着たそいつは青いバケツをかぶり、赤白ストライプのステッキを持っている。ステッキを掲げると白い雪玉を連射した。
 シュビビビビビビ!
 雪玉は普通の雪ではなくドライアイスで出来ている。ドライアイスが正確に空気中の炎に命中すると炎も雪玉も消滅して二酸化炭素に変化した。
「お、火が消えた!」 
「今どこからか何か出てきたわよね」
 五将には見つからないのか微妙に見当違いの方向をしきりにキョロキョロしている。
「君は?千尋の弟かな?」
 目のいい赤司の目をごまかすのは難しい。
 赤い蝶ネクタイをつけた雪だるまの着ぐるみ姿の一歳児のような外見をした異世界のオレは赤司に早速見つかってひょいと抱き上げられていた。
「オレはこいつのおとうとなんかじゃねえ」
 ゆきだるまゆずみは若干迷惑そうなジト目をしているが、赤司はオレがもっと塩対応してもへこたれないからこの程度じゃ気にもしないだろうな。
 ちなみにゆきだるまゆずみの言っていることは嘘ではない。異世界の自分だから弟ではないしな。
「小さな子どもは体温調節機能が未熟なのであまり着せすぎはよくないと聞くよ。暑くなってきたし、着ぐるみは脱いだ方がいいんじゃないかな?室内でフードをかぶりっぱなしというのも熱がこもりそうだし」
 赤司は一人っ子のくせに意外に世話好きなのか、蘊蓄を披露しながらゆきだるまゆずみの頭のバケツを外し、白いフードを下ろそうとする。
 と、ゆきだるまゆずみはステッキでバケツを取り返しつつスルッと赤司の手からすり抜けて音もなく体育館の床に降り立った。
「オレはゆきだるまゆずみ、雪だるまの妖精だ。この着ぐるみ衣装は体温調節に必要だから着てるってのに勝手に脱がすな、局地的に異常気象が起きたら困るだろ。オレをそこらへんのチビと一緒にするんじゃねえ」
 ゆきだるまゆずみはどや顔で言い放った。
 なにぶん一歳児サイズだからさまにならないけど。
 このゆきだるまゆずみは小さいが一丁前に強力な降雪機能つきだからこいつの冷気がばらまかれたら京都(下手すりゃ西日本全部か日本全国かもしれん)で真冬並みの気温を観測しましたとかいって五月の観測史上初の寒波を記録しかねない。
 それはまずい。
「キャー、妖精?可愛い!」
「なんか芸出来る?見せて見せて!」
「雪だるまの妖精の仕事は空気を冷やすことと雪を降らすことだ。つー訳で後はそっとしておいてくれ」
 ゆきだるまゆずみはバケツから手品のようにラノベを取り出すと体育館の壁に寄りかかってラノベを開いた。
 こいつ見た目はちっちゃいけど実はオレより年上なんだよな。
「なんだ、そんなに小さいのに字が読めるのか?すげぇなお前!」
 根武谷が感心しているが、なりは小さいけど、パラレルワールドのオレでオレより年上だからそりゃ字くらい読めるだろ。
「今ラノベどっから出したの?手品すげぇ!」
 それはたぶん手品じゃなくてアポート(取り寄せ)だ。
 こいつは不思議な現象を起こしても妖精だからで片付ける気満々なんだろうな。
「あなたもラノベが好きなの?」
「ああ、オレは普通の小説とは違うあのテイストが好きなんだ」
「千尋そっくりなことを言うね」
「ラノベバカにすんのか。喧嘩ならいつでも買ってやるぞ」
 ラノベを閉じたゆきだるまゆずみが赤司を不機嫌そうな目で睨んだ。
 残念ながら外見一歳児だから迫力は全くない。
「こんなにちっちゃいのにどうやって喧嘩すんの?まるでライオンとウサギみたいじゃん」
「オレがウサギ?お前はどこに目をつけてんだ」
「ウサギじゃなくてどう見ても雪だるまだよな……」
「雪だるまの妖精、だ。雪だるまじゃねえ」 
 ゆきだるまゆずみがここまでこいつらと相性悪いとは想定外だった。
 ゆきだるまゆずみの世界には赤司以外の洛山の連中はいないらしいから好感度が上がらないのだろう。
「おい、練習しなくていいのか?」
 ゆきだるまゆずみに夢中なレギュラーどもをオレがたまには上級生らしくたしなめると、実渕がびくっとした。
「あら、黛さんいたの。自分のそっくりさんに何か感想とかないの?ずっと黙ってるからうっかり存在を忘れてたわ」
 ひでえな。忘れんなよ。
「別に感想とかねえよ」
「オレもないな。つうかそんなに似てねえだろ」
 ゆきだるまゆずみの発言にオレと本人以外の全員が突っ込んだ。
「どう見てもそっくりじゃん!」
「は?そっくりってのはこういうののことを言うんだ」
 ゆきだるまゆずみはラノベに挟まっていた写真を差し出した。
 そこには白いウサ耳帽子をかぶり、灰色のベストを着てカラフルなイースターエッグを運ぶイースターラビットまゆずみが映っていた。
 ウサギらしく頬にヒゲまで生えている。
「こっちのが等身大だからそっくりだろ」
「やっぱりウサギじゃん!」
「ウサギはこいつだ。オレは違う」
 イースターラビットは子どもがプレゼントをもらえるいい子だったか反抗的な子だったかを記録してプレゼントをもらう資格の有無を判定する権限がある点はサンタそっくりだからゆきだるまゆずみとは役割がまるで別物なんだが、まあパッと見似てるよな。
「お前が今持ってる本ってこいつのか」
 写真のイースターのまゆずみが持っている緑のラノベをゆきだるまゆずみが持っていることを指摘するとゆきだるまゆずみは肯定した。
「続きが早く読みたかったから一足先に春へ飛んで借りて来た。そしたら近くの次元でなんか空気が燃えてたから鎮火してやったって訳だ」
 しれっと時間移動出来ることばらしてるけどいいのか?妖精だからいろいろ出来るんですで押し通す気か。そんな万能な妖精がいる訳ねえだろ、少しは超能力隠す努力しろよ。
「やっぱり燃えていたのか?君のおかげで大事にならずに済んだようだ。ありがとう」
「どういたしまして。そういう訳でラノベ読み終わるまでオレはしばらくこの時間にいるが、邪魔すんなよ」
 ゆきだるまゆずみは短い足を組んでラノベを読み始めた。
 なんつうか、雪だるまというより人形かぬいぐるみみたいだ。
 実渕のヤツ、部室までダッシュでケータイ取りに行ったと思ったらかわいいかわいいと言って写真を撮りまくっている。
「おい、撮るだけならまだしも、ネットやSNSには絶対アップするなよ」
「やあねえ、本人の承諾もなしにそんなことしないわよ。それにアタシ達の目の前で雪玉出した以外は普通にかわいい男の子だもの。雪だるまの妖精なんて言っても誰も信じないでしょうしね」
 あー、ほっぺぷくぷくしてかわいいー、と言いながら実渕はゆきだるまゆずみの頬を指でつんつんした。ゆきだるまゆずみはめっちゃ不本意そうな顔をしている。
「かわいいって言葉の定義をもう一度辞書ひいてみろ。オレこれでも妖精界じゃあ図体でかい方だからな?あとじかに触るな、シューターのくせに大事な指がしもやけや凍傷になっても知らないぞ」
 ティンカーベルとかああいうのと比べると確かにでかいことはでかい。
 だが妖精基準ではでかいと言っても人間の基準だと乳幼児並みに小さいしかわいいって言われちまうのはまあしょうがないだろう。
「しもやけ?凍傷?え、雪だるまそんなに冷たいの」
 雪山で凍傷になる人がどんだけいると思ってんだ、むしろ雪でしもやけや凍傷にならないと思った理由を言ってみろ。
「ゆきだるまゆずみ、だ。雪降らせる能力があるんだから普通に雪より冷たいに決まってるだろ。普段はフィンランドのコピペみたいな生活してるんだぜ」
「フィンランドのコピペって何だ?」

「気温が・・・℃の時、フィンランド人はどんなふうにふるまうか、そのとき他国では何が起きているかっていうネタだ。知らないのか?」


−10℃。イギリスでは暖房を使い始める。フィンランド人はシャツを長袖にする。

「オレは京都をマイナス10℃にする訳にはいかないから今でも長袖着てるけどな」
 マイナス10℃はまずい。
 京都の観測史上最低気温はたしかマイナス8.1℃とかその程度だから五月の京都にそんな寒波が訪れたら異常気象って騒ぎになるの絶対間違いないし、シャレにならねえ。

「体温調節ってそっちか?君が溶けるんじゃなくて周りを冷やしてしまうのか」
 赤司ですらその発想はなかったらしい。
「ああ、この着ぐるみを脱がなければ心配いらないがな」
「冷却機能を着ぐるみで封印してるってこと?力を封印してるとか中二病っぽくて黛さん好きそうだね」
「いや、オレそういう趣味ねえから」

−60℃。コルヴァトゥントゥリが凍結。フィンランド人はビデオを借りて家の中で過ごすことにする。
(コルヴァトゥントゥリはフィンランド北部・ラップランドにある山でサンタクロースが住むとされる)
−70℃。サンタクロースが南方へ引っ越す。フィンランド人は、コスケンコルヴァを屋外に保管しておけなくなり、いらいらする。フィンランド軍がサバイバルの訓練を開始。
(コスケンコルヴァはフィンランドの蒸留酒でアルコール度数が非常に高い。通常、飲む前にビンごと冷凍庫に入れて冷やす)
−273℃。絶対零度。あらゆる原子の運動が停止。フィンランド人は「くそっ、今日はずいぶん寒いじゃないか」と言い始める。

「ネタではもっと低い温度もあるが、低温はマイナス273.15℃が絶対零度と言って最も低い温度だからこれより下はない」
「マイナス300℃とか漫画じゃあるまいし現実には存在しねえよ」
「妖精に漫画じゃないって言われても説得力ねえよな」
「千尋はずいぶん詳しいね。この子と前にも会ったことがあるのかい」
「そりゃまあ」
 オレの発火能力が暴走した時、よく鎮火しに駆けつけてくれていたヤツだから面識はあるに決まってる。
 普通のパラレルワールドの自分は、同一人物が同一世界に存在出来ないという宇宙の原則の兼ね合いがあって時間制限つきでしかこっちにいられないがゆきだるまゆずみやイースターまゆずみのような妖精は人間じゃないため一応時間制限はない(仕事をあんまりサボってると妖精のチビ赤司が迎えに来るから時間制限が全然ない訳ではないが、他の連中に比べたらだいぶ緩い)。
「この子って、言っとくがオレお前より年上だぞ、年上は敬えよおぼっちゃん」
「ええええ」
 オレとゆきだるまゆずみ以外の全員が驚いた。
「ねえ、あなた何歳?」
「18歳だ。妖精だから外見上、年取らねえだけ」

 結局この日は練習にならなかった。
 オレがくしゃみするたびに空気中の酸素が燃えるし、ゆきだるまゆずみがステッキをビシッと差して炎を凍りつかせるとあいつらすげえすげえと大喜びだし。
「氷使いって弱いイメージあったけどすごく強くて便利だね!」
「炎使いは高温なら何度まででも上げられるから力をインフレさせやすいんだよな。それに比べてヒャド系は冷遇されがちだが、絶対零度を極めれば物の動き止められるからヒャド系便利だぞ」
 ゆきだるまゆずみのヤツ、ドラクエもやっているのかドラクエの呪文について語り始めた。こいつの日常生活は結構謎だ。
「君は絶対零度を極めてるのかい?」
「練習中だ。極めてはいねえ。つーか、マイナス70℃以下にすると赤司が寒いって文句言うから」
 ゆきだるまゆずみは面倒くさそうな顔をしつつもちゃんと返事してやっている。
 よい子の味方サンタの相棒やってるだけあって、よい子は邪険に出来ない性格なんだよな。
 中学の公式試合で、ゾロ目の点を狙って取ったりどす黒いこともやってるから完全ないい子ちゃんではないけど、赤司は勝利至上主義なだけで基本的には悪い奴じゃないし。
「君の世界にも僕がいるのか?!」
「あー、オレの世界の赤司は両目が赤いからお前ではないかな」
「……!」
 赤司が驚いて目をカッと開いたが、他の連中は異変に気づかずにいる。
「マイナス70℃以下を寒いですませるの?本当にフィンランドのコピペそのまんまなのね。あなたの世界の征ちゃんそっくりな子も雪だるまの妖精さんなのかしら?」
「いや、あいつはサンタ。人間だからオレより寒さに弱いんだよ。ま、パソコンはもっと低温に弱いがな。5℃の時と25℃の時を比較すると5℃の方が故障が6倍多いっていうからパソコン置いてる部屋だけは常に温かくしてる」
「ゆきまゆサンパソコン使えるの?」
「無論だ。今時どの仕事でもパソコンは必須だからな。使えるに決まってるだろ。18禁のエロゲーだって出来るぞ」
「それはいろいろまずいんじゃねえか……?」
「なあ、オレのラノベ貸すからお勧めのやつやらせてくれ」
「待て、お前はまだ17歳だからダメだろう」
 どさくさに紛れて頼んだオレに赤司がすかさず突っ込んだ。
「お前が持ってるのはオレもう全部持ってるから。世界線が違うから微妙に筋書きは違うがな」
「微妙に違うって、原作とアニメくらいの違いってことか?」
「そのたとえだと、単行本と映画くらい違うかな。大筋は同じだが、たまにいなかった奴が出てきたりいた奴が消されてたりするだろ」
 ゆきだるまゆずみは若干複雑そうな顔をした。
 こいつがこういう顔するのは未来に起こる出来事を知っているかららしい。
 オレは時間移動は出来ないし、予知も不完全なので自分の未来のことは何も分からないが、自分の力で道を切り開くべきだと考えてるゆきだるまゆずみはこの先に起こることを語ろうとしない。
「じゃあ、オレの世界のも読めばいいだろ」
「外伝をたくさん読むとどれが原作でどれが派生か区別つかなくなってくるから嫌だ。お前の世界線といつまで接続出来るかわかんねえのに途中まで読んだらラストが読めなくてモヤモヤするだろ」
「えっ、ゆきまゆさんまた会う訳にいかないの?」
「雪を降らせる仕事があるんだろう。まあ都市部にはあまり頑張って働いてほしくはないが」
「……それもあるが、時間移動ってのは結構繊細でな。過去を変えると未来も変わるからあったはずの道がなくなってることもままある。例えば、オレがここに来る通り道の世界線上の黛はチームメイトの誰とも親密度を上げずにWC決勝に臨んだら、しくじった時チームメイトにボロクソにけなされたりしたけど、こっちの黛はまんべんなく好感度を上げてるからたぶん失敗したとしても同じことは起きないだろ。そうするとそこで未来が変わるから道が消えるんだよ。PCでいうとブックマークが消えて検索候補にも出なくなるみたいなもんかな。ホームボタン押せば自分のホームへは戻れるけど、通り道が消えるとこの世界に飛ぶ方法もなくなるんだ」
 斉木が見た未来では、たしか斉木が死んだせいで第三次世界大戦が勃発して北斗の拳みたいな世紀末的世界に変わる未来も存在する。
 あんな未来は普通に嫌だよな。
「黛さんをボロクソにって、アタシ達が?信じられないわ」
 好感度メーターをチェックすると全員余裕で80超えていて笑うしかない。
 頭上から植木鉢が降ってくるのを赤司経由で未然防止した葉山、財布なくしたピンチに飯食えるようにしておいた根武谷、通り魔に襲われた女子を助けようとして刺されそうだった実渕をパラレルワールドの自分をこき使って救ったのがきっかけで無冠の五将三人はしばらく前から好感度が上がりっぱなしだ。
 ゆきだるまゆずみの相棒が赤司そっくりなところを見てもオレは赤司の相棒的ポジションにおさまるのが確定らしく、赤司の好感度は最初から高い上になかなか下がらないと来ている。
「ゆきまゆサン、オレらと黛サンが仲悪い世界経由で来たのかー、それじゃ帰らないでここに住んじゃえば?」
 葉山がなんも考えてない様子で言った。
「アホか、雪の精のオレが長いことこっちにいたら五月に寒波が来ちゃうじゃねえか。百歩譲って一日か二日なら冬に逆戻りしたみたいとか言われるだけですむが、オレがずっといたら異常気象で大騒ぎになるし、元の世界も雪が降らない暖冬になって大変なことになるんだぞ」
「うわーマジかー」
「じゃあどうしても帰らなきゃいけないのか?」
「ああ、今日は赤司が飯当番だから晩飯が出来る頃には帰る」
「一緒に住んでるのかい?サンタの赤司と」
「ああ。今日はかぼちゃたっぷりのうどんって言ってたからうどんが伸びる前に帰らないと」
「飯テロかよ!腹減ったな。ゲッ」
 根武谷がゲップすると実渕が目をつり上げた。
「なんでお腹がすいてゲップするの?信じられない!あああこんなにかわいいゆきまゆさんとお別れなんて寂しいわ。黛さんの小さい頃もこんな感じだったのかしらってすごく微笑ましかったのに。頬ぷにぷにでほんとかわいい〜、ずっと一緒にいられないのが残念だわ」
 微笑ましいか?
 無表情で18禁のエロゲー堂々とやるような奴だぞ。
「ほっぺが雪見大福みたいでうまそうだよな」
「お前牛丼だけじゃなくて甘いものもいけるのかよ」
「オレ雪見大福よりかき氷食いたい!」
「待て小太郎、シロップがないだろう」
 赤司がたしなめたが、問題はそこじゃない。
 葉山は胸を張って言った。
「かき氷機でかいた氷にコーラかけて食べてもうまいよ!」
「それただの味薄いコーラじゃねえの?」
「いや、マジでうまいから!試食会やろ!ゆきまゆサンが氷作ってくれればすぐ食えるよ」
「チッ、じゃあコーラ代はお前が出せよ。かき氷20人分の氷は買えば400円くらいするんだからな」
 ゆきだるまゆずみは急にせちがらいことを言い出した。
 まあ人件費ってただじゃねえしな。
「4人だから100円分でいいよ?」
「食欲ないからってご飯茶碗一杯分だけ米炊く奴はいないだろ、そんなに小さく作るのはかえって面倒なんだよ。冷凍庫の製氷機だって一個作ろうがいっぱい作ろうが作る時間変わんねえだろ?」
「そりゃあまあね」
「へっくしょい」
 ゴオッ……!
 空気中の炎が空気中の酸素を取り込んで激しく燃焼する。
「まただ!」
「ゆきまゆサン!」
「任せろ、こういう時は……!」
 ゆきまゆは真ん中をくり抜いたドライアイスで空気中の炎を閉じ込め、あっという間に鎮火した。
「ほらな、酸素の供給を断てば火なんかすぐ消えるんだよ」
 熱でドライアイスが溶けても二酸化炭素になるだけだしな。
 一酸化炭素が出来てると困るので念のためアポートで外の空気とここの空気を交換しているゆきまゆマジ有能。
「さっきから千尋がくしゃみするたびに火が出てる気がするんだが?」
「パラレルワールドの自分が来たせいで未知の力が発動しちゃったとかかな。そろそろ晩飯の時間だしオレ帰らないと」
 ゆきだるまゆずみは適当なことを言ってこの場を逃亡しようとしている。
「まゆずみさん、どこですか?」
 赤司そっくりの声が響いた。
 赤司がオレに敬語使う訳ないからこれはサンタ赤司だろう。
「あー、イースターまゆずみの近くの火災発生現場付近だ。現地の奴がかき氷食わせろってうるさいんで難儀してる」
「楽しそうですね。今日はうどんですからうどんが伸びる前に早く帰って来て下さいね」
「分かってるよ、じゃあな」
「今のが赤司そっくりのサンタ?その子はこっちに来れないの?」
「無理に決まってるだろ。時空を越えたテレポートは超能力の消費が激しすぎるし、サンタの超能力はよい子にプレゼントを届けるために使うものだ。今使ったらMP不足でクリスマスにプレゼントの配達が出来なくなる」
 超能力なのかMPなのかどっちなんだ。
 ドラクエだとMPなのか。
「そっちって今何月なの?」
「バカね、小太郎。クリスマスの前でかぼちゃを食べる日と言えば冬至に決まってるじゃないの」
「あー、んがつく食い物いろいろ食う日か」
「あんた食べることしか考えられないの?合ってるけどね?」
「おい、オレ赤司とうどん食わなきゃいけないから巻きでいくぞ。コーラ持って来い」
「分かった!」
 雷獣が走り出してすぐ、ゆきだるまゆずみは考え直したらしい。
「やっぱいいや。走って持ってきたらコーラしゅわしゅわになって泡ばっかりになるだろ。後でこいつにちゃんと金払えよ」
 ゆきだるまゆずみはオレの財布から小銭を取り出して自販機へ投入、アポートでコーラを取り寄せた。
 こいつのアポートは等価値の何かと交換なんだよな。
「今の何、すげー!」
「自販機に金入れてコーラ取っただけだが?ちなみにスーパーとかコンビニとか人がいて防犯カメラもあるところだとホラーとか疑われるから出来ない。最近は防犯カメラつきの自販機も多いからそういうのも使えないがな」
 ゆきだるまゆずみは今度は寮のデザート皿とスプーンをアポートした。
「こんなもんかな。食ったら食器は洗ってちゃんと返しておけよ。万一証拠残したら連帯責任でお前ら全員の布団氷漬けにしてやるからな?」
 えげつない報復の予告をしてからデザート皿にかき氷を高速で積み上げていくゆきまゆ。
 終わった順に女子力高いオネエがかいがいしくスプーンをセットしてコーラをかけると一人一人の前に手際よく置いていく。
「みんな行き渡ったかな?では、いただきます」
 赤司は珍しそうにコーラかけかき氷をしゃくしゃくとすくって食べ始めた。
「どう、赤司。ゆきまゆサンもおいしいよね?」
 ドリブルする時みたいに楽しそうに聞く葉山は高一にしては幼い印象だ。
「オレが作った氷だから美味いに決まってるだろ。氷は不純物の入ってない水に空気入れずに作ると美味いんだぜ」
 ゆきまゆはどや顔で蘊蓄を垂れつつ自慢した。
 確かに通常、家庭で作る氷には空気が入ってしまうので白っぽくなるが、こいつが作る氷は透明だ。
「味が薄いけどこれはこれでおいしいかもね。わざわざお店の売り場うろちょろしてかき氷シロップを探さなくてもどこにでも売ってるコーラで作れるのは手軽でいいわね」
「シェフが作ってくれるフラッペとはだいぶ違うけどみんなで食べるとおいしいね」
 こんなチープな食べ物を安い食器で赤司が笑顔で食ってるという絵面が盛大なキャラ崩壊な気もするが、赤司だって高校入学したての15歳のガキだもんな。
 かき氷食って笑うぐらいするか。
「アポートするためにオレのステッキ食堂に置いてきたから食器返すついでに引き上げといてくれ。五月になんでかき氷食ったんだとか追及されないように皿は必ず洗ってから返せよ」
 ゆきまゆは一人分だけ氷の皿を作り、かき氷にコーラをドバドバかけた。
「はー食った食った。あんた何してんだ?」
「持って帰って赤司におみやげにすんだよ。お前らに氷の皿渡して冷たい思いはさせられないだろ」
 ゆきまゆは氷の皿を片手にすっくと立ち上がると言った。
「じゃ、晩飯の時間だから帰る。オレがいたせいで上空に寒気が来ちゃってるから二日ぐらい寒いかもしれないが、しばらくしたら落ち着くから我慢してくれ」
 あいつの言う通り、この日の夜と翌日は五月なのに三月並みの気候でやけに寒かった。
 寒いと花粉は飛ばないのでオレはその間に花粉症の薬を調達することが出来て助かった。
「ゆきまゆさんかわいかったけど異常気象は困るわよね」
 帰った直後はそう言ってため息をついていた実渕だったが。




「あー、ゆきまゆサン来てほしい〜。ゆきまゆサンのかき氷食いたい〜」
「あのかき氷はおいしかったね。ゆきまゆとサンタを呼んで今度はみんなで食べたいね」
 体温超えの酷暑が来ると、赤司までもがコーラかけかき氷を待望し始めた。
「主将、タオルどうぞ。かき氷食べる時はぜひオレも言って下さい」
 マネージャーの樋口まで食いついてきた。
 まあ暑いから食べたくなるよな、かき氷。
 すっかり仲良しになった洛山は、オレがボロクソにけなされたという世界とはまるで別物になったせいか、あいつとは連絡が取れなくなっている。
 でもステッキがこっちにあるんだからまたいつかきっと会えるさ。
 そう、きっと。
「さあ、そろそろ練習しようか」
 休憩明け早々。
「へっくしょい」
 オレがパスしたボールはオレのくしゃみとともに空中で爆発炎上した。 
 スギ、ブタクサ、イネ科植物による花粉症は世界三大花粉症と呼ばれている。
 どうやら今度はイネ科植物の花粉症かもな。
 せっかくスギ花粉がおさまってから平和だったのになんでだよ畜生!
「うわ、あぶねっ」
「またかよ?GW明けにもこんなことあったよな」
「よお。忘れ物を取りに来てやったぜ」
「ゆきまゆさん!」
 炎をも凍らせる厨二病なヒャド使い……もとい、白い着ぐるみに青いバケツ姿のゆきまゆが現れた。
「こんにちは。皆さん、はじめまして」
 ゆきまゆの後ろからひょっこり顔を出したのは夏なのに暑そうな赤い服を着てサンタの格好をしたちび赤司だった。
「きゃあああああ小さい征ちゃんかわいいい」
 実渕のテンションが異常に上がった。
「こっちの世界には期間限定でドラクエのリアル脱出ゲームがあると聞いて、参加しようと思ったら、四人でパーティー編成しなきゃいけないらしいから誘いに来た。そっちちょうど六人だからパーティー二つ作れるだろ」
 人数はセーフだけど明日から部活はお盆休みだ。
 お盆で帰省する奴がいるとか考えないのかね。
 まあ黛家は酷暑の中墓参り行って熱中症になるとシャレにならんから墓参りは秋の彼岸に延期しようと言ってお盆の墓参りは中止になったんだが。
「リアル脱出ゲームって何?面白そう!」
「赤司が全部謎を解いてソッコークリアしそうな予感しかしないけど」
「ドラクエとか懐かしいわね。小学生の頃やったわ」
「黛、お盆休みにこの子達と出掛けるの?ドラクエイベントならオレも行きたいかな」
 樋口が意外に食いついてきてる。
「安心しろ、お前も頭数に入ってるっぽいぞ」
 
 京都から千葉(幕張メッセ)まで行って千葉から目と鼻の先のコミケには行けないとかなんだよそれイジメかよ。
 別世界のオレをビッグサイトへ送ってやる約束があるのに大丈夫だろうか、オレ。
 ゆきまゆがいるから熱中症の心配はいらないが、また三月の気候になったらフォローのしようがないよな。
 オレは面倒ごとの予感に頭痛を覚えながら久々の再会にキャッキャうふふしてる連中を横目にため息をついたのだった。   

 後書きです。
 別の世界線の黛さんといったら、デフォルメキャラのちび黛さんを忘れちゃいけないと思い、登場させてみました。
 雪だるまの着ぐるみ装備の黛さんの名称って、書く人によってまちまちなので困惑してるんですが、どれが正解なんですかね?
 イースターエッグと一緒の黛さんも正式名称が分からないし。
 分かる方、教えていただけたら嬉しいです。

 言葉使いは最初子どもっぽくひらがな表記しようかなとも思ったんですが、ひらがなでわざわざ書くのも(予測変換の関係で)面倒だったのと読むのも読みにくいなあと思ったのでひらがなにするのは諦めました。
 ちび黛さんって背丈が縮んでるだけで頭の中身が幼児化してる設定とか公式にないですよね?
 幼児語話す黛さんとか想像力が及ばないので個人的には最初から毒舌モノローグかましててほしい。

 五月にかき氷を食べてるのは現実の暑さに引きずられて涼しいネタを書きたくなったからです。
 かき氷にコーラかけるとおいしいというのは以前PTAで動員されてかき氷売り場の手伝いをした時、シロップを断って持参のコーラをかけたいという子達が結構いたため、「おいしいの?」と聞いてみたら「うまいよ、毎年やってる」とか返事されたので物怖じせずに堂々と要望しそうな葉山くん辺りはこういうことをやりそうと思い、使ったネタです。(コーラシロップでなくて普通のコーラをかけるとシロップより甘くなく炭酸が強くておいしいらしいです)
 根武谷くんはなんでもいいから普通にガツガツ食べそう。
 実渕くんはアタシはイチゴにするわ、みたいな感じでちゃんと選びそう。
 赤司くんはメニューにないものを自分で工夫して食べようとかそこまで祭りの経験値がなさそう。
 黛さんは注文したものを忘れられて、忘れられては困るな、とかムッとしてそう。
 黛さん、洛山カラーに似たエメラルドパイン味辺りを注文しても印象に残らない性質故に間違えられてハワイアンブルーとか出されそう。
 かき氷一つでもネタが結構浮かぶものですね。
 世界的に暑い日が続き、北極圏でも7月に猛暑で33℃を記録したそうですが、冷たい話で少しでも涼しくなっていただけたら幸いです。

 読み直したら第2話の牛光さんχって2015年4月6日発売のジャンプに載った話なので黛さんがバスケ部退部してから復帰した後のエピソードとして日程的に無理があったんですよね、どうしよう。
 まあ斉木くん世界はサザエさん時空でいろいろと歪んでいるので季節だけ一致で年はデタラメな時空の歪み説、赤司くんが入学前から部活に参加してて部を掌握していた説、黛さんがリアタイ視聴ではなかった説etc.でお好きに解釈をして納得して下さいませ。
 たぶん五月から八月へ飛んだ間の時期に158話の「ゲームの世界へΨンイン」があって黛さんもあのネットゲームプレイしてたけど鳥塚くんに関わりたくないのでスルー→鳥塚くんがBANされたので声かけようとしたら斉木くんもログアウトしたので結局声かけられなかったみたいなエピソードがあったかもと想像。
 黛さんは敵に気づかれないのでキル数競うゲームだと黛さんの存在を認識した時にはもう敵死んでるみたいにめっちゃ強いイメージ。
 ここまでお読み下さりありがとうございました。 

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