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バスケ漫画小説(年齢制限なし)
【腐向け】黛千尋のここだけの話(モブ黛、洛山黛)
 オメガバースものですが、黛さんとモブ一人に独自設定ありで特殊な立ち位置。
 名前つきのモブが回想で出ます。
 モブ黛(無理やり)、洛山黛。年齢制限していないのであまり露骨な描写は避けるつもりですしエロくない話と自分では思ってますが、年齢制限の部屋に置くべきだと思う方がいるようなら移動しますので遠慮なくおっしゃって下さい。
 洛山のスタメンは黛さん以外全員アルファ。
 オメガバースが苦手な方はどうぞお避けください。


[newpage]

 洛山高校三年生、黛千尋。
 バスケ部所属。
 一度退部したが、一年生で主将になった天才でキセキの世代の一人、赤司征十郎に持ち前の影の薄さを買われ、幻のシックスマンになるなら退部取消と一軍入りの推薦をすると誘われ、復帰した経歴を持つ。
 そんなオレはウィンターカップ準決勝と決勝ではスタメン(実際はパス専門だが登録上はパワーフォワード)として、洛山の影として、新型の幻のシックスマンとしてフル出場したが、洛山は準優勝に終わった。
 
 会場での反省会が終わると、赤司は実家へ帰ると言って出掛け、オレはチームの連中と宿舎に戻ったのだが、チームメイトで同じスタメンの無冠の五将三人に話があると強引にヤツらの部屋に連れ込まれ、今問い詰められている。
 オレのバース性を。

 言うまでもなく、世の中には男女の性別と、アルファ・ベータ・オメガという区分が存在して、ざっくり言えば、

アルファ男、アルファ女・・・優秀な能力とカリスマ性を併せ持つ天才。ごく少数のエリートだがアルファ同士では子どもがめったにできないらしい。オメガと番(つがい)になれる。

ベータ男、ベータ女・・・人口の大多数。ほとんどが凡人、たまに秀才もいる。

オメガ男、オメガ女・・・男女とも妊娠出来る。三ヶ月に一度、一週間程度ある発情期の最中はセックスに夢中になる、番がいないオメガはフェロモン抑制剤を飲まないとアルファとベータを誘惑するフェロモンを出す等の理由でなにかと差別されがち。アルファと番になれる。ごく少数。

 こんな感じだ。
 おおざっぱ過ぎる?
 悪かったな、自分には関係ないことだからこの辺で勘弁してくれ。
 そう、関係ないのだ、文字どおり。
 オレはどれでもないからな。

「なあ、あんたさっきからうまそうな匂いがしてんだが、オメガだよな?」
 無冠の五将の一人、根武谷永吉が自信満々という顔で聞いてくる。こいつのバスケでのポジションはセンター。
「もう、ほんとうにバカね、そんな直球な聞き方して」
 根武谷を非難しているのは無冠の五将の(ry実渕玲央。ポジションはシューティングガード。
「でもさあ、実際オメガなんでしょ?黛さん」
 断定的に言ったのは無冠の(ry葉山小太郎。ポジションはスモールフォワード。

「お前ら全員顔が近いぞ、離れろ。・・・オレはオメガじゃない」
 うまそうな匂いというと、ひょっとしたらもうフェロモンが出ているのか?
 予定では明日か明後日からのはずだったんだが、だとしたらまずいな。
 オレはオメガじゃないが、一定の周期でオメガに似たフェロモンが出る。その時期は、いろいろと制限があって守らないとヤバいのだ。

 オレの退路を断つ形でドアの前に立っているのはよりによってスタメンで一番ガタイのいい根武谷。
「怖がらせるつもりはないから離れてあげるのはいいけど、逃がさないわよ?」
 オレに一番距離が近いのは実渕。オレより体格のいい実渕をオレが押し退けてドアまでたどり着くのは無理だ。つーか、オレは洛山のスタメンで一番弱いから誰が相手でも無理だな。
 オレは溜め息を吐いた。
 オレに言わせればバース性なんてものは究極の個人情報なのにたかがチームメイトなんぞになんで教えてやらなきゃならないのか。

「・・・オレはなんでオメガだと思われてるんだ?匂いか、別の理由か。教えろ」
 既にフェロモンが出ているとしたら誰にもオレの身体に指一本たりとも触れさせる訳にはいかない。
 葉山はオレの後ろか・・・。 
 後ろから来られたらひとたまりもないな。オレは三人の位置が常に把握出来るよう窓を背にして動きを油断なく注視しながら尋ねた。

「えー、バレてないつもりだったの、黛さん?せっかく公式戦デビューしてこれから試合に慣れさせて調整していこうって言ってた矢先に突然十日も、試合も練習も休んだら誰だっておかしいと思うよ。時期外れのインフルエンザだって言われてその時はそうか、と納得したけど、ちょうど三ヶ月後にも一週間部活も学校も休んだじゃん?どう見ても発情期だよね」
 葉山の指摘にオレはギクリとした。
 影が薄いから赤司以外はオレのことなんか気にしていないと思っていたのに他の奴らにも欠席の件で注目されてたのか。
 こいつらが部活はまだしも学校の欠席までチェックするほどオレに興味を持っていたとは知らなかった。
 オレの人間観察はたいしたことないんだなとちょっとへこむ。

「ここだけの話、六月の府予選の時は表向きインフルエンザってことにしてもらったが、実際は犯罪に巻き込まれて警察で調書取ったり病院で検査受けたりいろいろあって、試合に出れる状況じゃなかった。九月は咳風邪が長引いて―――」
「その六月の犯罪って、事件後に退学させられた元部員が起こした事件でしょう?」
 実渕がオレの説明にかぶせてきた。
 そこまで知っているのか?
 でもこいつは副部長だから、立場上知っていてもおかしくはない。
「そうだ」
 オレは言葉少なに肯定する。
「なんだそりゃ!聞いてねえぞ」
「オレも聞いてない!レオ姉ズルイ!」
 六月の事件のことは根武谷と葉山は知らなかったのか。
 意外と情報共有してないんだな。
「副部長だから知ったの、一軍が二人と二軍が一人、警察沙汰になる事件起こして退学になったって。征ちゃんに口止めされてたからあんた達にも黙ってたけど」
 赤司か・・・。
 あいつはどこまで知ってるんだ?
 それとも自分が主将になってからバスケ部から犯罪者が出たことが広まるのが好ましくないから隠蔽しただけなのか。

「ねえ、聞きにくいこと聞いて申し訳ないけどその事件ってレイプだったんじゃないの?それなら征ちゃんが噂にならないように手を打ったのも分かるわ、みんなに被害者が分かってしまったらセカンドレイプになっちゃうものね」
 申し訳ないなら聞くなよと思うが、事実は事実だ。
 それに半年経っているから事件直後よりは冷静なつもりだ。

「・・・正確に言えば強制わいせつだな。犯人は一軍の田中と山本にオレと入れ替わりで二軍へ落ちた佐藤。そいつらはオレが公式戦出場したことで自分達はレギュラーになれないと逆恨みしたらしい。オレはオフの日は知らない駅でフラッと降りて散策するのが好きだ。リンチするために三人組が尾行していたことに気づかず無人駅で降りたオレは、駅の隣の公衆便所に連れ込まれて回されかけた」

「回っ・・・!」
 強面の割に意外と純情なのか根武谷は絶句した。
「あなた・・・やっぱりひどい目に遭ってたのね」
 実渕が労るつもりか知らないが、オレの顔付近に手を近づけてきたのでつい反射的にその手を叩き落とす。
「ちっ・・・」
 やっちまった。オレは舌打ちする。
 だが実渕とオレにとって幸いなことに、今は12月だから外から部屋に連れ込まれたオレはまだ手袋を外してなかった。
 素手じゃないからかろうじてセーフか?
 手袋をつけた時、どこに触ったかはっきりとは覚えてねえけど・・・。
 たしか手を叩いた手のひらの部分には触れなかったはずだ、問題ない。ああよかった。

「ごめんなさいね、怖かった?」
 ある意味怖かったが、実渕が想像しているのとは全然違う理由でだ。なぜならこいつらはオレをオメガだと思っている。オレの事情を知らないのだ、言ってなかったから当たり前だが。
「怖かった。だから絶対、オレに触るなよ?事情も今話す」
 オレは深呼吸した。
 ベータだと思っていたオレがベータでなくもちろんアルファでもオメガでもないと知ることになったきっかけを思い出す。

「その日、オレは便所に連れ込まれてすぐ手錠で手すりにつながれた。ズボンを膝まで降ろされ、ケツ穴いじられ、チンコいじられ、チンコしゃぶらされ、って感じでひでえ目に遭ったが、オレと会って五分ほどで三人全員ひどく苦しみだした」

 オレの【性質】の発現があのタイミングだったのはギリギリだった。そうでなければ、間違いなくケツを掘られていただろう。
 まあ、掘られるまで行かなかったとはいえ指入れられたり男にチンコ触られたりしゃぶらされたりした時点でじゅうぶんトラウマなんだが。
 嫌なことを思い出させられてオレはグッと唇を噛んで耐えた。

「黛さん、気分悪かったら椅子座る?もしかして最後までヤラレた?チンコ入れられちゃった・・・?」
 無邪気そうな顔して、人のトラウマを容赦なくえぐってくるな、葉山。
 WC決勝で道具として扱われたオレの扱いをなんかダメ?とか言いはなったくらいだし、よく言えば裏表がない性格だが、悪く言えば無神経な男だ。

「いらん。ヤラレてねえ。くわえさせられたから口ん中には入れられたが、思い切り噛んでやったし」
「うわ、痛そう!黛さんこわっ」
 やかましいわ。
「黛、あんた毒でも持ってんのか」
 一方、根武谷は疑問に思ったようだった。
 当たらずといえども遠からずといったところだ。もっとバカだと思っていたが、意外と頭は悪くないらしい。

「毒ではないが。オレはある条件下で、アルファとベータをオメガに変える体質だ。身体をそっくり作り変えるから変わっていく最中はとんでもなく苦しいみたいだな」
 オレの告白は疑いの目で見られた。
 まあ無理もない。
 他人のバース性を後天的に転換する体質は世界中で、オレ以外にはたった一人しか確認されていない。そんな珍しいヤツが同じチームにいるとは普通思わないだろう。

「それホントなの?たしか去年?海外の仰天ニュース番組でやってたけど、他人のバース性を変えちゃう人は世界中にその人しかいないとか紹介してたわよ」
 実渕はあのニュース見てたのか、だったら話は早い。
 そのニュースに登場した人物、チャーリーとかいうヤツがオレの他のもう一人なのだ。まあそいつとオレとは厳密には別のタイプなんだが、詳しいことは後で話すことにする。

「本当だ。オレの体質が発覚したのは六月の事件がきっかけだから番組放送当時はそれで間違っちゃいない。15歳で受けるバース診断で、田中と山本はアルファ、佐藤はベータと診断されていたが、警察に留置される時点の簡易判定で三人ともオメガと判定され、大騒ぎになった。ベータと診断されて実はオメガだったケースはたまにあるが、アルファと診断されてオメガってのはあり得ないとかで、三人とも誤診だった可能性は考えられない。オレに性的暴行したせいで三人オメガになったと仮説を立てた警察当局が警察と提携してるデカイ病院のオメガバース外来を紹介してくれて。そこで精密検査を受けた結果、オレは従来の型に該当しない全く未知の型と分かった。オレが未知の型だという事実、録画の検証や警察の捜査で三人とも事件前はオメガではなかったことが裏付けられ、オレがヤツらをオメガに変えたのは確実とされた。ってことで帰っていいか?」

 オレの長い説明を黙って聞いてた三人だったが、残念ながらまだお役ごめんにはしてくれなかった。
 こいつら、ことの重大性に気づいてないのか?一般人がゲーム以外でバイオハザードの危機に直面することはまずないから実感がわかないのだろう。

「えっ、なんで?話し始めたばっかじゃん!三人全員苦しんだとこから警察に捕まった後の話に飛んでるし!飛びすぎ!」
 葉山のツッコミが入り、オレは仕方なく話を戻した。ヤツらの起こした犯罪が性犯罪だと知ってた実渕はともかく葉山や根武谷は知らないのだから、嫌な話でも飛ばす訳にはいかないか。

「三人全員苦しみだしたことでオレは最初、学食のカキにでもあたったとか集団食中毒かと思った。ともかく逃げようとしたが手錠が片方どうしても外れなくて逃げるに逃げられない。幸い、携帯は取り上げられてなかったから110番通報して警察に助けを求めた。ヤツらはオレを脅す材料にしようとでも思ったのかトイレに入ったところから録画していたから証拠も申し分ない。到着した警察官に三人全員、監禁の現行犯で逮捕された」

 手錠を外そうとしている間、警察に電話している間、警察が到着するまでの間は、ヤツらがいつ回復して襲ってくるか気が気じゃなくて気が遠くなるほど長く感じた。
 手錠で片手拘束された状態じゃ一対一でも勝てっこないし。
「助かってよかったね・・・。助けを呼べて犯人も捕まってよかったね」
 葉山意外といいヤツだな。スタメンで唯一オレをさん付けで呼んでくれてるし。

「あんた、さっき未知の型って言ってたな?その番組の人と同じじゃねえのか、その病院専門医のくせにヤブなのか」
 根武谷のツッコミが鋭く冴え渡る。
 ああ、それはオレも思ったことだ。
「ニュースになった男はアルファのみオメガに変えるタイプで、オレはアルファもベータもオメガに変えるから別の型だそうだ」
 めったにいないアルファだけ気を付ければいいソイツと、人口の大半を占めるベータにも気を付けなくてはならないオレでは難易度も全然違う。

「オメガに変える、ある条件ってなんなの?もったいぶらないでくれない?」
 実渕の疑問はもっともだがもったいぶっているのではなく、質問に一つ一つ答えた結果なのだからオレは悪くない。
 オレは舌打ちした。

「オメガに変える条件は、三ヶ月に一度一週間オメガに似たフェロモンが出ている時期、医者はフェロモン分泌期と呼んでるが、その時期か通常時かで変わる。まず通常時。性行為またはその類似行為、ディープキス、オレの血を飲ます、オレが噛む、噛まれる、傷口にオレの血や精液を擦り付けるとか。そういうことをしなければ特別心配はないので普通の生活をしてかまいません。こう告知されたから、今日までオレはバスケを続けてきた。ここまではいいな?」
 オレは三人を見渡してから話を続けた。

「問題はフェロモン分泌期だが、この時期は人をオメガ化させる原因とみられる物質の分泌量が激増する。オレの皮膚や粘膜、オレが出すもん・・・血液、精液、唾液、汗、涙、小便などあらゆるものに含まれるので、直接でも間接でも微量でもそれらに触れるとオメガになる危険がある。飲み物の回し飲みはもちろん、タオルやバスマットの共有とかも絶対にするなと言われていて、その辺はオレがちゃんと気を付けていた。要するにオレに触らず、オレが接触したものに触らず、唾が飛ばない距離にいれば問題ないが、気持ち悪いだろうからそろそろ帰らせてくれ」
 咳は三メートル、くしゃみは五メートル、飛沫が飛ぶらしいからこの部屋でくしゃみなんかしたら最後、洛山が大変なことになってしまう。

「触るなと言ってたのはそのせいか!でもオレは試合中、あんたの背中を何回か叩いたよな。汗びっしょりかいたユニフォームに触っても別になんともなかったぞ」
 根武谷はオレの話を疑っているらしい。
 人が帰りたいっつってるのにスルーしやがって・・・。

「試合中もオメガっぽい匂いがしていたか?試合中はまだフェロモン出てなかったんじゃねえの。オレのフェロモン分泌期にアルファかベータがうっかり触ったら皮膚から吸収される前に流水ですぐ洗い流さないとアウトだそうだし、今のところ、オレが見た七人全員息が詰まるような兆候を見せてから約五分弱で変態したからなんかあれば一目で分かる」

「七人って三人じゃなかったの?いつのまにか人数増えてるじゃないの!」
「あとの四人はバスケ部とは無関係で、また別の事件だ」
「事件巻き込まれすぎだろ、黛・・・」

「そんなことより、黛さん、試合中は匂いしてなかったと思うけど今はユズみたいな美味しそうで癒されそうなめっちゃいい匂いしてるよ。これってやっぱ触っちゃいけない時期・・・?」
 葉山がビビって腰がひけた感じで聞いてきた。オレはこれで急に触られる気遣いはないと判断して今更だがバッグから個包装の使い捨てマスクを出して開封し、装着した。
 正直なところただの気休めだが、しないよりはした方がいい。

「柚子・・・?柑橘類のような匂いとか言ってたヤツもいたな。オレから制汗剤以外の匂いがしてるならフェロモンだろうな、触ろうとすんな。残念ながらオメガの発情期と違ってそれらしい自覚症状がなにもないから自分では分からないんだ、予定では明日か明後日のはずだったから指摘してくれて助かった」

「柚子の匂いの制汗剤って聞かないからやっぱりフェロモンよね・・・。最初は発情中のオメガかと思ったし、似てるけどちょっと違うみたいね。いい匂いだけど理性が吹っ飛ぶほどじゃないし。そもそも発情期なら私達アルファと同じ部屋で普通に話が出来るなんて考えてみたらあり得ないわよね」

 マジか。
 オレはバース診断で不明、要再検査の通知が来ていたけど18歳の再検査でどうせベータと言われるんだろうなと余裕ぶっこいていたのでアルファやオメガのことは通りいっぺんのことしか知らないんだ。

「は・・・?お前らオレと話がしたいって言って連れてきといて何言ってんだ?オレをオメガだと疑ってたんだろ、話を出来ない相手と話がしたいって矛盾してるじゃねえか」
「あ〜、それな、もしあんたがオメガだったらオレらの誰かと付き合わねえかって告って両思いになったら二人きりにしてやってやることやるつもりだったんだよ」
 根武谷の口から語られた衝撃の事実にオレは固まった。
 やるって、殺す方じゃなくてセックスだよな・・・そんな計画知りたくなかった。

「・・・笑えねえ冗談言うのやめろよ。そんなにオメガの恋人が欲しければ、オレが手拭いたハンカチでも使わせれば簡単にオメガにしてやれるけど。強烈な痛みを伴うし、一生元に戻れねえからもちろん本人の同意がある場合に限るが」
 三人とも表情がピクッとひきつった。

「オメガの恋人が欲しかったんじゃなくてあなたの恋人になりたかったのよ、ほんとは・・・でも、自分がアルファ性を捨てるつもりじゃない限り一生プラトニックなおつきあいしかできないのは苦しいわ、残念だけど」
 実渕が小さな声で何か言ったが、オレにはよく聞こえなかった。

「ハンカチでオメガに出来ちゃうの?それ、子どもが欲しいゲイのカップルとかにうまいこと活用出来れば人助けになりそうだけど、元に戻る方法ないの?」
 こいつらが呑気だったのは元に戻る方法があると思ってたからか。
「今のところないな。一人目のチャーリーってヤツとオレの研究でオメガ化させる原因とみられる物質までは特定されたが、どうやって生成されるのかのメカニズム、無力化する方法の有無、変態した身体を元に戻す方法の有無、まだ全てが研究段階だから、今後研究が進むか、オメガからアルファやベータに変える新型が見つかれば、将来的には可能性がないとは言わないが」

「あんたの話がホントだとすれば初見じゃ回避出来ねえだろ。警察や病院の人達がオメガだらけになってもおかしくねえのになんの発表もなしか?それとも防護服でも着て出動してたってのかよ」
 根武谷はまだ疑っているようだ。

「いや、防護服は着てなかったけど、通報の時点でオレがオメガの発情期中だから襲われたんじゃないかと思われてたおかげで、オレを救出に派遣された警官はオメガだった。幸い、オレの体質はオメガには無害だからな。待合室も処置室もオメガ以外立ち入り禁止のオメガ用。捜査が始まってすぐ、録画を検証した刑事はオレが三人をオメガに変えた可能性を考え、原因は不明だが別の人に伝染する可能性も考慮して上層部に感染症対策を取るように進言した。その結果オメガ用の部屋で引き続き隔離されて事情聴取とかもオメガの刑事がしてたから警察に二次被害は出なかったはずだ。病院も警察からの事前連絡で最初から新型伝染病並の特別体制で受け入れたとか後で聞いた。さっきも言ったように、皮膚や汗が少々触れたくらいなら流水で洗い流したり、衣類とかは洗濯すれば原因物質は落ちるから感染症対策の応用で被害は防止出来る。発表ならオレの主治医が研究論文をとっくに発表してるが、マスコミが取り上げない理由は知らん」

「あんたが長い作り話ぺらぺらしゃべれるとも思えねえし本当なんだな・・・。三ヶ月に一回最低一週間学校休んでたのは他のヤツをオメガにしないためか?」
 根武谷の質問にオレは頷いた。
「そうだ。それと病院がフェロモン分泌期のデータがよっぽど欲しいらしくて検査させろサンプル取らせろだのとにかく煩いんだよ、オレと同じタイプが他にいないから気持ちは分かるけど。九月は咳風邪がひどくて病院に行く途中同じ中学だった不良グループの四人にカツアゲされてさ。押し問答してる間に五分経った頃、四人とも六月の三人と全く同じ苦しみ方し始めて。咳の飛沫でも誰かをオメガにすると分かったら、咳が止まるまでうかつに病院の外出れねえだろ」
 いくら人をカツアゲするようなクズでも、人の人生を簡単に変えてしまっていい訳はない。
「せ、咳でもダメなの?」 
 葉山が後退りした。
 どんだけ怖いんだよと笑いそうになったが赤司も無冠の五将三人も、洛山のスタメンはオレ以外全員アルファだからオメガに変わってしまうかもしれないと思えば、怖くなるのは当然か。

「ダメに決まってるだろ、今までの話聞いてなかったのか?不良グループ四人のケースでは、オレに直接触れたのはオレのカバン奪おうとしてオレを殴ったヤツだけだが四人ともベータからオメガになってる。オレの服を掴んだヤツもいたから原因はそっちの可能性もあるが、時間的に考えるとたぶん咳で唾が飛んだせいだろう。考えようによっては、通りすがりの無関係な一般人でなくオレからカツアゲしようと考えたバカ野郎をオメガにしたのはまだ不幸中の幸いだったが」

 さすがに七人も見ればどういう経過をたどってオメガになるかだいたい分かる。
 ちなみに最初は恐喝だったがオレを殴って怪我させた時点で強盗致傷にクラスチェンジしてるのとヤツら全員誕生日迎えていて18歳になってたから17歳以下の似たようなケースの少年より罪が重くなったらしい。ざまあwww

「フェロモンが出ている時期が危ないんならフェロモン分泌抑制剤?飲めばいいじゃねえか」
 根武谷が突っ込む。
 ほんとこいつ案外鋭いな。
 オレも最初それは思ったのだ。

「オレは未知の型だと言っただろ?抑制剤は臨床試験扱いで病院が負担してくれて実用化されてる製品をいろいろ試したがオレに効くものは見つかってない。つまりオレのフェロモンを抑える方法はまだない」

「ねえ、なんでそんな大事なことずっと黙ってたの?!どうして私達が聞くまで教えてくれなかったの」
 実渕が叫んだ。
「フェロモン分泌期が当初の想定よりヤバいと分かったのが九月の事件の捜査の結果で、オメガ化原因物質が特定されたのは九月に取った試料を研究した後、つまりごく最近だからだ。オレは三年生で、ウィンターカップが終われば引退だからな」

「ごく最近でも、分かった時点ですぐ教えてくれたらよかったじゃない」
 実渕になじられ、オレはため息を吐いた。まあこいつらを結果的に危険にさらした以上責められるのは当然か。
 部屋に無理矢理連れ込んだのはこいつらだとはいえ事情を言っておかなかったオレにも非がない訳じゃない。

「次にフェロモンが出る予定はさっきも言ったように明日か明後日だったからその時点ではウィンターカップも終わってるし、三月は卒業した後だからお前達と関わる理由はなにもない。言わなくても問題ないと判断したんだが、分泌期がズレたせいで迷惑かけたな。あと数時間前だったらウィンターカップ決勝に出場した両チームはじめ表彰式に参加した選手や大勢のバスケ関係者を根こそぎオメガにする恐れがあったし、お前らを危険な目に遭わせたことは謝る」

 くしゃみとか少量の汗でもオメガ化させてしまう以上、半径五メートル以内にいた人やモップの交換する人に至るまで危険に晒す訳だからな。
 今思えば洒落にならないくらい危ないところだったと思う。

「黛さん、怒るよ!言わなくていい訳ないじゃん」
「たしかに言わなくていいと思ったのはオレの判断ミスだ。お前らに迷惑かけたことと、危うくバイオハザード引き起こすところだったことは反論の余地がない。言い返すつもりもねえよ」
「バイオハザードはヤバいけどそうじゃなくて!」

「関わる理由はないって、卒業したってあんたオレ達の先輩だろうが!」
 オレを呼び捨てにして先輩らしい扱いなんかしたこともない根武谷の言い草がおかしくてオレは口の端をちょっと釣り上げた。
「先輩らしいことなんかなにもしてねえのにオレを先輩として扱う必要はない。この辺で帰ってフェロモン収まるまでラノベでも読みながら病院に引きこもるよ。試料採取に協力すれば医学の発展の役に立つ訳だし」

「黛、オレが胸ぐら掴んで怒鳴っても立ち直らせられなかった赤司を信じて静かに発破をかけたあんたはさすが三年生、洛山の五番だと感心したんだぜ。先輩らしいとこちゃんと見せたじゃねえか・・・」
 負けたけどな。
 根武谷が急にしんみり言い始めて、雪でも降るんじゃねえのとオレは心配になった。
 交通機関が乱れたら帰る時困るんだが。

「そうだよ黛さん・・・決勝戦、ボロボロに崩れた赤司に渇入れて立ち直らせた時の黛さんはちゃんと先輩っぽかったよ。タイムアウトの貴重な時間中に監督の話を遮ったから、オレびっくりしたけど」
 葉山まで急にオレを持ち上げ始めた。
 試合中はさんざんこきおろしてたし、ついさっきも怒って煩かったくせにな。
 それに、ちゃんと先輩っぽいって日本語がおかしいだろ。

「そうね、征ちゃんにあんな風に言えたのはあなただけよ。あの決勝戦に出場した唯一の三年生として、あなたが征ちゃんを立ち直らせなければきっと酷い試合になってた。試合の後、誰よりも深く礼をしてたあなたの姿に心を打たれたわ。今ではあなたが私達の先輩で本当によかったと思ってるのよ」
 実渕よ、お前もか。
 タイムアウト中のだれおま発言ですっかりオレの株は爆上げしたらしい。単に言いたいことを言っただけなのに負けた決勝のことで誉められても居心地が悪いだけだ。

「さっきからずっとオレ帰らせろって言ってるよな?お前ら人の話聞く気ねえのか・・・」
 オレは一番距離が近い実渕を睨んだ。
「ヤダ、まだ話終わってないじゃない。もう少しだけ時間をちょうだい?」
 実渕は退かない。
 小首傾げられてもオレより大男のお前じゃ可愛くねえし嬉しくねえよ。
 顔が綺麗なのは認めるけどな。イケメン爆発しろ。
 オレは実渕と睨み合った。

「黛、あんたのアリウープのパスはドンピシャでいいパスだった。あんたのパスをもっと受けたかった・・・」
 どいつもこいつも人の涙腺を攻撃するな。オレはだんだん真顔を保つのが難しくなっていった。決勝戦で負けた時ですら唇を噛んで涙は堪えたオレが。
「・・・終わったことだ」
 殊更冷たく聞こえるように言ったオレのジャケットの裾を誰かが引いた。

「つらい時に一緒にいてあげられないオレは恋人に立候補する資格ないけど、それでも、しあわせになってほしいよ。一人でいてほしくない・・・」
 誰って、葉山だ。
 咳でもダメだと聞いて怯えたはずの葉山が何かをつぶやいていた。声が小さすぎて聞こえねえけど。
 間接的にでも触ったらリスクがあるって話をこいつは理解出来なかったのか?
 葉山が掴んだ部分をオレが触ってなければセーフだが、危ないことしやがるな、こいつは。無鉄砲すぎてヒヤヒヤする。

「黛さん、すぐ一人になりたがるけどやっぱ一人は寂しいよ。誰かをオメガにする訳にはいかないっていうならオメガのいい子見つければいい。そしたら一人ぼっちで寂しい思いしなくてすむよ」
 帰ろうとしてるオレにストップかけてまで言う台詞がそれかよ。
 解決法をそれで見つけたつもりか?
 彼女がそう簡単に見つかれば誰も苦労はしない。
 非リアなめんな。

「余計なお世話だ。オレには二次元の嫁がいるから寂しくない」
「あんたオタクでよかったな・・・」
 根武谷のおかげでしんみりムードがどっか行ってくれてオレはほっとしたのだが。

「脳筋は黙ってなさい!・・・あなたがどんな体質でも、オメガになってもかまわないから好きだって言ってくれる素敵な恋人が見つかることを祈ってるわ」 
 実渕がまた余計なことを言ってくれる。
 我ながらひねくれた性格のオレに彼女が出来る訳ねえよ。
 影薄いオレに出会いがあると思ってるなら大間違いだ。
「オレに出会いがあると思うのか?ねえよ、そんなもん。退け、実渕」
 実渕は今度こそやっと退いた。

「あなたって自己評価が低いけど、頭がよくて運動も出来て不器用だけど他人を気づかえる優しさと役割を全うする責任感があって、おまけに顔もいいんだから好きになる人は絶対いるわ。部活引退しても顔出してね、きっとよ」
 だからオレは影が薄いから出会いそのものがねえんだよ。同じこと言わせんな。

「ドア開けてくれ、根武谷。なるべく余計なものに触りたくない」
 根武谷はドアを開けるとそのまま自分も通路に出た。
「黛、今度牛丼でも食いに行こうぜ。割引券やるから、な?」
 まあドア近くに立っていられても狭いし、邪魔だから通路に出てくれた方がぶつかる心配がなくて助かるけど。
「行かねえ、券はせっかくもらったなら自分で使え」

 こいつらとはウィンターカップが終わった今もう一緒に戦うことはない。
 オレはウィンターカップが終わるまでという条件で部活に復帰したので年始の天皇杯には出ないのだ。どっちみち一週間引きこもった後調整するには時間がなさすぎるから引退を伸ばしたところで試合で使い物にならないだろうし出られないことに変わりはない。
 そんなオレに部活に顔を出せとか牛丼食いに行こうとか誘う意図が分からない。
 オレしか何かを教えてやれない立場なら、後継者の育成のためになんとか面倒見てやらなきゃならないのだろうが、オレの幻のシックスマンというプレイスタイルは元々赤司から教えられたものだからオレが教えるより赤司が教えた方が効率がいいに決まってるし、その他の技術ならオレより上手いヤツは現役にいくらでもいるからオレがでしゃばる必要ないしな。

「黛!」
「黛さん!」
 デカイ声を出すな。
 オレは通路に出た。
 振り返らないまま言う。
「他の客の迷惑になるから騒ぐな。見送りはいらない。ああ、監督には予定が早まったとだけ伝えてくれ、それで通じる。赤司には・・・自分でメールしとく。余計なこと言うなよ」

「うん、まかせて。でさ、初詣ってたいてい人混みだから黛さん行けないよね?ホントは一緒に行きたかったけど・・・オレ、早く恋人ができるように神様に頼んできてあげる!」
「いらん。家内安全か交通安全にしろ」
「じゃあオレはあんたがメシに困らないよう祈っといてやる!」
「いらん。オレはお前みたいにゲップするほど食わねえ」
「じゃあ私は合格祈願するわ。受験生なのに年末まで本当にお疲れさま。合格発表が出たらどこの大学か教えてね」
 実渕の発言は割とまともだが、受験か。
 そうだ、受験勉強しなきゃいけないんだった。ラノベ読んでる場合じゃねえ。嫌なこと思い出させんなよ、クソ。
 でもたいして先輩らしいことしてもいないオレのためになんかしら祈願しようとしてくれるこいつらはなんだかんだ言ってかわいい後輩だったのかもな。

「教えねえ。・・・お前ら、敬語も使えないムカつく後輩だったけど、お前らとしたバスケはそれなりに楽しかったよ。じゃあな」
 幻のシックスマンらしく黙って消えるつもりだったのに何故かなりゆきで最後の最後に渾身のデレをお見舞いしたオレの顔はたぶん赤くなっている。 
 もう二度と関わる気はないのに、後輩達の気遣いにちょっとだけ涙が出たことはここだけの話だ。
 


終わり

[newpage]

 こんな感じで別れの挨拶が済んでいたらいいなあという妄想ネタでした。

 原作終盤に出てきて毒舌ちょこちょこかまして通りすぎていった黛さんは既存の枠内に入らないイメージがあってついつい変わった属性を付与したくなります。
 今回は誰ともくっつかなかったんですが、葉山くんと実渕くんが建ててくれたフラグを回収していつか黛さんが一人じゃなくなる日が来たらいいなあと思います。

 ここまでお読みくださりありがとうございました。


2016.10.22追記

オメガの恋人が出来るフラグは
赤司征十郎と黛千尋の秘密
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=7383328
で回収しました。
今作と違って18禁で僕→黛を経て、黛→←オレかつ黛←僕です

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