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バスケ漫画小説(年齢制限なし)
ジャバウォック戦ぼっち観戦組の邂逅【腐向け黛桜】
 劇場版を見て、思いついてしまった接点なしカプ。黛さんの進路や大学生活やstrkyとの関わりを捏造。映画のネタバレがあります。











 この二人を相棒と呼んでいいのか分かりませんが(黛さんは卒業生だから赤司くんの元相棒?桜井くんは青峰くんと距離は近いけど相棒とは呼べない気がする)相棒好きすぎだと思います。
 青峰くんの活躍を喜ぶ桜井くんはかわいかったし、赤司くんを静かに見守る黛さんはかっこよかったです。
 そのかっこいい人とかわいい子をくっつけてしまおうというお話。
 青峰くんに厳しめな感じです。青峰くんお好きな方、損な役回りでごめんなさい。
 他カプ要素に関する注意書き。
 青→桃です。青/桜と誤解される場面がありますが青峰くんと桜井くんの間にそういった事実は一切ない設定です。
 あと緑間くんは高尾くんを、赤司くんは黒子くんのことが好き。受け攻めもカップルが成立しているかも詳細不明ですが、ほんのりカプ要素が含まれます。カプかコンビか分からないけど、今吉さんと諏佐さんもどうやらつるんでいる模様。今吉さんが何気にちょいちょい出てきます。
 捏造全開でもいい、読んでみようと思って下さった方はどうぞお進みください。











 最後、青峰さんと火神クン二人のダンクで逆転勝利したヴォーパルソードに歓喜し、高揚した気分で通路に出る。
 青峰さんすごかったなあ。
 観客は大入り満員だったから出口は混雑している。このぶんだとなかなか出られないだろう。
 そんなことを思いながら流れに身を任せていると突然どこからか声がした。
「お前も来てたのか、桐皇のシューター」
 知らない声だが、低くささやくような声はとても耳に心地よい。ボクの学校とポジションを知っているということは間違いなくバスケ関係者のはずだ。
 バスケの試合を観に来たバスケファンの中にバスケの知り合いがいる可能性は普通にある。
「うえっ?ど、どこですか、スイマセン、スイマセン」
 いくらキョロキョロしてもそれらしい人を見つけられず、ボクは半泣きで謝った。
「ここだ」
 後ろから左肩をポンと叩かれ、ボクは悲鳴を上げた。
「うわわわ、スイマセン、スイマセン、気づかなくてスイマセン」 
 しかも振り向いてみたけどどこのどなたか分からない。ボクよりは高いけどバスケの選手としてはさほど大きい方とまでは言えない身長で、色素が薄く、色白で割と細身のイケメンがいた。
 あれ、どこかで対戦したことあったっけ?
 見覚えがあるようなないような。
「...元洛山の黛だ。お前、名前桜井で合ってるよな?」
 洛山なら去年のインターハイ決勝で対戦した。
 洛山はキセキの世代の赤司征十郎が主将で、無冠の五将が三人いて、あともう一人が...。
「そうです、桜井良です。黛さんって洛山の影だった人ですよね。対戦したのに覚えてなくてスイマセン」
 身長は180センチ以上あるのに存在感が妙に希薄で、顔立ちは整っているのに不思議と印象に残らない彼は新型の幻の六人目と言われた人だった。
「それよくあることだからいちいち謝らなくていいぞ。今吉から聞いてたけどほんとに謝りまくりなんだな」
「今吉さんと知り合いなんですか?あ、立ち入ったこと聞いてスイマセン」
「同じ大学だ。なあ、よかったらさっきの試合の話とかしたいから付き合ってくれないか」
 たしか、今吉さんと諏佐さんは東大志望だったはず。
「今吉さんと同じ大学ってすごく頭いいじゃないですか!ボクみたいな羽虫に声かけていただいてありがとうございます、スイマセン」
 黛さんは一人みたいだし、ボクも今一人だ。
 試合が終わった直後は何かと忙しいだろうから、一般客のボクが青峰さんや若松さん、桃井さん達に会いに行く訳にもいかないし。
 熱い試合の感動を分かち合える相手がいるのは嬉しいことだ。
「羽虫?お前面白いな。オレの周り、先輩敬わない生意気な後輩ばっかだからすげえ新鮮」
 卑屈すぎてウザいとか面倒くさいとはよく言われるけど面白いと言われるのは珍しい。
 黛さんの反応は僕にとっても新鮮だった。
「洛山ってそんなだったんですか?」
 試合中のことしか知らないけど、そう言えば三年生の黛さんはほとんど誰からも声をかけられずまるで空気みたいだったような気もする。
「そんなだった。赤司なんかオレにお前は賢いねとか言ったことあるし、基本上から目線だったよ。オレは一度退部したのを赤司が主将権限で退部取り消してバスケ部に呼び戻されたくちなんで三年だったけどレギュラーの中では立場が一番下だったからなおさらな」
 事情はどうあれ先輩にお前とか言っちゃうんだ....。
 すごい強気というか傲慢というか、ボクにはとても考えられない。
「そんな扱い受けたのに後輩の試合観に来るって、黛さん滅茶苦茶いい人ですね」
 黛さんは照れたようだった。
「そんなんじゃねえよ、オレは聖人じゃねえし。日本のバスケこけにされたんだからバスケファンなら都合つけば観戦ぐらいするだろ」
「そんなこと言って、後輩が心配だから試合観に来たんですよね?黛さんツンデレですか、あっ、言い過ぎましたスイマセン」
 対戦したことが一度あると言ってもまともに顔を合わせたのは実質今日が初めてみたいなものなのにツンデレとか言っちゃって失言を詫びると黛さんはちょっとだけ唇の端をつり上げて笑った。
「オレはツンデレじゃねえよ。そう言うお前、実はサブカル好きだったりする?」
「趣味で漫画は描いてます。黛さんは?」
「漫画か、すげえな。オレの趣味は読書つかラノベを読むことかな。絵心ないから描ける奴は尊敬する」
 尊敬とか言われちゃった。
 そういうことさらっと言えるのか。
 かっこいいなあ。
 天才四人に囲まれて、影の薄さ以外は普通な黛さんは大変だっただろうけどどんな扱いを受けても淡々と役割を果たしていた。
 嫉妬とかしないんだろうか。
 出来た人だなあ。

 
 やっと会場の外に出れた。
 黛さんは迷いなくどんどん歩いて行っちゃうからボクは慌てて追いかけた。
「このへん詳しいんですか?」
「まあな。オレ、知らない駅でフラッと降りて周りを散策するの好きだから」
 色白で趣味が読書という割に意外とアクティブな人だ。
 ここのコーヒー飲んでみたかったからここにしようぜ、と言って連れて来られたお店に入る。
 会場からも駅からも近いのに隠れ家みたいな目立たないお店だ。お店選びからして黛さんらしいなと思う。
「気になった時になんで入らなかったんですか?」
 聞くと、前に通った時は定休日だったからだ、と返される。ですよね〜、スイマセン!
 
 黛さんがいるのに何故か一名様ですかって聞かれてカウンター席に案内されそうになったりちょっとしたハプニングはあったけどどうにか注文を終えて一息つく。
「影が薄いのって大変なんですね」
「ああ。そもそも、オレが今吉と知り合いになったのもオレが影薄いせいだ。大学には般教...一般教養っていう学部の垣根なく選択出来る授業があるんだけど、学部関係ないってことは人数も多い訳だ。最初は席ぎっちり埋まってたりすんの。オレが先に座ってることに気づかずに今吉に膝に座られそうになって、あれどっかで見た顔やな〜とか言われて、出席チェックの紙の名前見られて一発で身バレした。黛千尋なんて名前そうそういねえから他人の空似とか言えないし」
 そうだ、黛さんは黛千尋って名前だったんだ。
 メンバー表見て綺麗な名前だなって思ったんだっけ。
 試合中は淡々とした雰囲気だったし、見た目は儚げなイケメンだからこんなに話す人だと思わなかった。人は見かけによらない。
「膝に...ふ、ふふふ、スイマセン、やば、スイマセン」
 今吉さんがそんな失敗やらかしたなんて笑える。
「まあ、あいつ妖怪サトリって言われてるらしいし、オレに気づいたけど確証がなくてわざと接近してきた可能性はあるけどな」
 あ、それありそう。
 むしろそっちの方がすごくあり得る。
 共通の知り合いがいることですっかり打ち解けたボク達は試合のことを熱く語り合った。
 と言っても黛さんは後半過ぎてから駆けつけたそうなので、最初の方はボクがしゃべりっぱなし。
「...お前、青峰のこと好きすぎだろ」
 青峰さんがどんな神業みたいなシュートを放ったか微に入り細をうがち根掘り葉掘り丁寧に解説していたら黛さんが苦笑して言った。
「桐皇のエースですからね。嫌いじゃないですよ、嫌いだったらお弁当とか作りませんし」
「?...お前、青峰の弁当作ってんの?」
 黛さんが急に真顔になった。
 変...かな?
「あああ、青峰さんに命令されて...。自分の作るついでなんで、そこまで大変って訳じゃないですけど...」
「弁当とかって言ったよな?他にはどんなもん作んの」
「試合の日にみんなで食べるレモンのハチミツ漬けとか...?」
 青峰さんが一人で食べちゃったこともあるなんて言ったらもっと怒られそうで、ボクの語尾は尻すぼみになっていく。
「それ普通マネージャーが準備するもんじゃないのか?お前がいつも作ってんの?」
「あああの、桃井さん...うちのマネージャーは料理がちょっと苦手なので気がついたら自分が作ることになってました、スイマセン」
 桃井さんがメシマズ系女子だということは本人の名誉のためにオブラートにくるんで説明すると、黛さんはそこは深くは追及しなかった。
「まあ学校によって役割分担はいろいろだろうからそこは部外者がとやかく言う筋合いじゃないだろうが、いくらエースだからって母親でも彼女でもないチームメイトに弁当作らすのはおかしいだろ。お前まさか青峰と付き合ってる訳じゃないよな?」
 とんでもない誤解が生じかけている。
 ボクは慌てて否定した。
「付き合ってないです!チームメイトとしては好きだし、プレーには憧れてるしすごいプレーヤーだと思いますけど付き合いたいとか思ったことないし、青峰さんからそれらしいことを言われたこともないし、完全に誤解です!勘弁して下さい」
「いや、誤解ならいいんだけど。でも自分の代わりにただで弁当作ってもらう相手って世間の常識では身内か恋人ぐらいだから。一食いくらとか金もらって請け負ってるならまだしも、お前金とか取ってないだろ」
 なんで分かるんだろう。
 図星をさされたボクが、ボクなんかが作るお弁当にお金払って下さいなんて言えません、スイマセン、スイマセンと半泣きになると黛さんはボクの頭をよしよしと軽く撫でてくれた。
「アイツ凶悪な人相してるし、お前バスケ以外では気が弱いから言いづらいんだよな。気持ちは分かるが、他人の胃袋に入る弁当で桜井家のエンゲル係数上げるのはどうかと思うし、キッパリ断った方がいいぞ」
 バスケ以外は気が弱い。
 これは本当にその通りなんだけど、逆に言えばバスケの時だけは気が強いって知っているっていうこと?
 たった一度試合で対戦しただけなのに。
「あの、黛さん、ボクの性格のことって今吉さんに聞いたんですか。なんで知ってるんですか」
「なんでって、インターハイで戦っただろ?身長差がある実渕とのマッチアップだったのにすごい精度でクイックシュート何本も決めて青峰が欠場した桐皇の得点源になってただろ。負けません!ってキリッとした顔つきで言ってたのを見ればバスケに関しては相当プライドが高いことくらいは聞かなくても分かる」
 覚えててくれたんだ...? 
 黛さんに覚えててもらえてたことが、認めてもらえていたことがすごく嬉しい。
 胸が熱くなる。
 なんだろう、この気持ち。
 ものすごく名残おしかったけど高校生があんまり遅くまで外にいて補導とかされたら部に迷惑がかかるから、黛さんと連絡先を交換してその時は帰宅した。
 それからしばらく経ったある日、黛さんからメールでいついつに空港に来れないかと聞かれ、ボクは首を傾げた。
 若松さんからたまたま聞いた話だけど、誠凛の火神クンがアメリカへ行くそうで、ジャバウォック戦の後、その事情を聞かされた青峰さん達キセキの世代は火神クンのいる誠凛と最後の試合をした。で、黛さんに都合を聞かれたその日はたしか、火神クンがアメリカへ発つ日だ。
 部活はないから行けるには行けるんだけど、ボクは青峰さんと違って火神クンのお見送りに行くほど親しい間柄じゃないし、チームとして二回対戦はしたけどボク個人を認識されてるかは微妙なレベルだからたぶん行っても迷惑なだけだし、黛さんだって去年ウィンターカップで一度対戦しただけの火神クンに用があるとも思えない。
 でも、インターハイで一度対戦しただけのボクに話しかけてきたくらいだから意外と社交的な性格なのかな。
 試合のビデオを見直しても、熱い気性を内に秘めた仕事人って感じで細かい性格なんて知りようがないし、今吉さんに聞けばやぶ蛇になりそうで聞くに聞けないし、黛さんが何を考えているかボクには全然分からない。
 分からないけど、結局待ち合わせにオッケーの返事をしてしまった。
 だって、会いたいんだもん。
 
「待ち合わせってここだよね...?」
 ベンチのあたりにキセキの世代が五人揃っている。
 桃井さんや火神クン、黒子クンはいない。
 いくら目を凝らしても目当ての黛さんが見当たらない...。
「おい、良、こんなとこで何してんだ」
 ボクが黛さんを見つけるより先に右端にいた青峰さんにボクが見つかってしまい、ボクは飛び上がった。
「峰ちん、ソイツ誰?」
 紫原君にソイツ呼ばわりされ、ボクは反射的に頭を下げた。
「こいつ、オレんとこの桜井良っつーんだけど」
「人と待ち合わせしてるんですけど、間違えたみたいです!場違いでスイマセン、生きててスイマセン」
「生きててスイマセン?いや、そこまで言わなくてもいいッスよ?」
 去年インターハイで対戦した時ボクのクイックシュートを一瞬でコピーした黄瀬君は一応ボクのことを認識していたようで比較的フレンドリーに言ったけど、問題は赤司君だ。彼はキセキの集合に部外者がいるのは気に入らないと言って火神クンにハサミで切りつけたことがあるらしい。
 そんな暴力沙汰を起こしてよく準優勝取り消しにならなかったもんだと思うけど今は大会中じゃないから何をされるか分かったものじゃない。
「黛さん、お久し振りです」
 赤司君は何もない方を見てると思ったら黛さんがどこからともなく現れた。
「おう。邪魔して悪いな、すぐ帰るから」
「そうですか。残念です」
 お前は賢いとか黛さんに言い放ったと聞いていたけど、実物の赤司君はボクが思っていたよりずっと腰が低かった。なんか意外。
「この人はオマエが呼んだのか?」
 緑間君が赤司君に聞くと、赤司君はゆったりと笑って否定した。
「いや、日時と場所を聞かれたから教えはしたが、オレの方から呼んだ訳ではないよ」
 呼ばれもしてないのに押しかけたってこと?
 何考えてんですか黛さん!
 黛さんは赤司君と軽くやり取りしてすぐ、青峰さんに言った。
「青峰。お前、桜井にただで弁当作らせてるらしいな。それ、もうやらせんなよ」
「あ?なんでんなことテメーに言われなきゃなんねーんだよ」
 青峰さんが青筋を立て声を荒げて威嚇する。
 青峰さんには以前若松さんに暴力ふるった前科があるけど、全然関係ない黛さんに暴力ふるったりして、それがバレたらウィンターカップとか公式戦が危ういと思うんだけど....。
 ボクがおどおどびくびくしながら推移を見守ると黛さんは声を荒げるでもなく淡々と言った。
「誰が見ても非常識だからだ。ただのチームメイトに無料で弁当作らすとかおかしい。それとも、キセキの世代の中じゃ親でも恋人でもないただのチームメイトに無償奉仕で弁当作らせるのは常識なのか?どうなんだ緑間」
 黛さんはウィンターカップ準決勝で秀徳と対戦した時、緑間君にダブルチームしたことがあって、全然知らない相手ではないからこのメンバーの中では聞きやすかったのか、緑間君に名指しで聞いた。
「そんな常識ある訳ないのだよ。青峰、オマエ何をやっている」
 緑間君は呆れ顔だ。
「リアカーひかせたりチームメイトこき使ってるのは緑間っちも同じじゃないッスか。人のこと言えるんスかね〜」
 リアカー。
 そう言えば、前に会場の駐輪場で見かけて誰が持って来たんだろうと思ったことあるけど、あれ緑間君のだったんだ...。
「フン、オレは高尾に弁当なんか作らせたこともなければ手料理を食べたこともないのだよ。宮地さん達には別に作って欲しくないが高尾が作ってくれるなら代金ぐらい喜んで払う。そもそも材料代がかかるはずだから無償でなどあり得ないのだよ」
 結論は常識的だけど途中がちょいちょいおかしい気がするのは気のせいかな?
 宮地さんというのはstrkyにいた明るい髪色のイケメンのことか、今の秀徳の主将でやっぱりイケメンなSFの人のことかどっちだろう。あの二人、同じ名字で顔が似てるから兄弟かな。
 高尾君はジャバウォック戦にうちの若松さん、誠凛の日向さんとともに控えとして呼ばれていた秀徳のPGだ。
「みどちん料理出来ないもんね〜」
 赤司君は会話に参加せずに携帯端末をいじっていたが、ふと顔を上げた。
「一方の当事者の言葉だけ鵜呑みにするのは片手落ちと思って桃井に確認を取ったが、チームメイトに弁当を作らせているという話は事実らしいな。何故止めなかったんだ、と聞いたら、大ちゃんは桜井君と付き合ってるんじゃないの?と返ってきたよ」
「ハア?メシがウマイから弁当作ってこいって言っただけでなんで付き合ってるとか言われなきゃなんねーんだよ?オレはおっぱいデカイ女が好きなのに男と付き合う訳ねえだろ」
「味噌汁を作ってくれないか、というのがプロポーズの言葉だった時代もあるからね。オレの弁当を作れ、というのが桃井には桜井を口説いているように聞こえたのかもしれない」
「付き合ってる相手なら弁当作ってって頼むのも変じゃないッスからね」
 青峰さんが絶望したような顔になった。
 青峰さんはたぶん、桃井さんのことが好きなんだ。その桃井さんに自分の日頃の行いのせいでボクと付き合ってるとか大誤解されていたと知ってものすごくショックだったんだろう。
 でも同情はしない。
 ボクだって青峰さんと付き合ってると思われてたのは不本意なんだ。
 ボクが好きなのは黛さんだもん。
「...明日からもう弁当作んなくていいぞ。その代わり、オフの日にさつきに料理教えてやってくれ」
 青峰さんが折れた。珍しい...!
 ボクが一も二もなくオッケーしようとすると、
「断る。オフの日はこいつはオレとデートで忙しい」 
 黛さんは突然の爆弾発言で青峰さんを驚かすと、無表情なのにどや顔という器用なことをしてボクの手を引いた。
「邪魔したな。もう用は済んだし帰る」
 軽く手を上げて赤司君達に挨拶するとさっさと歩きだしてしまう。ボクは黛さんに引っ張られてつんのめりそうになって慌てて足を動かした。
「あああの、お邪魔してスイマセン!失礼します!」
 後ろでキセキ達の声がした。
「赤ちん、アイツなんなの。自由すぎじゃね?」
 自分に特大ブーメランが刺さりそうなことを言っている紫原君。
「あの人は引退式も出なかったからね。基本的に、自分がしたいことしかしない人だよ」
「洛山はあの人が三年生唯一のスタメンだったはずなのに、引退式に出てない?あり得ないのだよ」
「その黛さんがわざわざオレに連絡を取ってまでこうしてオレ達の前に現れ、青峰に釘をさしたということはそれだけ大事なんだろうね、彼が」
「でも、青峰っちに釘をさすなら桐皇に行けばいいのになんでわざわざこっち来たんスかね?」
「たぶん、各校のエースが揃っているところでオレ達に意見を言わせて青峰に自分の行動の非常識さを認識させようとしたんじゃないかな。エースだからといってなんでもワガママが許される訳じゃない。特に金銭が絡むなら尚更のことだ」
「あーあー、オレが悪かったよ。オレはウマイ飯が食いたいだけだったのにさつきにはあり得ねえ誤解されるし、踏んだり蹴ったりだ」
「自業自得なのだよ」
「しょうがねえだろ!良のメシはうめーんだから。さつきに良の料理の腕があれば完璧なんだけどな...」

「ちなみに、今どこへ向かってるんでしょうか?」
 目的地が全然分からないけど...。
 やっとキセキの世代の濃すぎる人達の声が聞こえないところまで来たボク達は、歩くペースを落として話し始めた。
「せっかく空港まで来たついでに、機体工場見学でもしようかと思ってな。事前予約制だから申し込んでおいた」
 何それおもしろそう。
「あの、いろいろ考えてくれてたんですね、黛さん...スイマセン」
「オレと赤司はアイコンタクトで何考えてるか読み取る訓練したからお互いに目を見れば考えてることがだいたいわかっちまう。お前に聞こえてるって絶対分かって言ってたぞ、アイツ。チッ」
 黛さんは舌打ちした。
 黛さんと赤司君はお互いに相手の考えが分かる。だから赤司君が黛さんの気持ちを想像して言ったことは当たっているということで、じゃあ、青峰さんに黛さんが釘をさしたのはそれだけボクが大事だから、という想像も当たりってことかな...。
 それにしても。
 アイコンタクトで何を考えてるか読み取るってそんなことを訓練して出来ちゃうこと自体すごくないですか?
 今吉さんといい、赤司君といい、黛さんといい、パサーって人の心を読める人しかやっちゃいけない決まりでもあるんだろうか。
「まあ、これで青峰にたかられることはなくなるだろ。飯がウマイって何回も言われてたけど、オレにも今度弁当作ってくれないか?」
 目元を優しく和ませて微笑した黛さんに問われ、ボクはその意味を考える。
 付き合ってる相手にならお弁当作ってもらっても変じゃない。付き合ってもいない相手にお弁当作らせるなんておかしい、というやり取りをした直後のこの発言の意味は...。
「ボク、今口説かれてます?男ですよ?」
「そりゃ男子バスケ部の選手なんだから男に決まってるが。インターハイでお前を初めて見かけた時から、かわいいなと思ってた。決勝で桐皇の特攻隊長として活躍していた姿は、バスケ選手としては小柄で細いし、まだ一年なのにすげえなって目を奪われたよ。たまに今吉の高校の話にお前が出てくると関心ないふり装いながらめっちゃ聞いてた。そのお前とあの日偶然会えて連絡先ゲットして。いつ口説こうかずっと考えてたけど、もう我慢出来なかった。去年のインターハイからずっと片思いしてたんだからしょうがねえだろ」
 そ、そうだったんだ...。
 頬が熱くなる。
 そんな前から、黛さんはボクのことを...。
「今吉さんにボクの連絡先聞こうとは思わなかったんですか?」
 そうすればもう少し早く会えただろうに。
「今吉に借り作るのは嫌だったんだよ。諏佐とも面識は一応あるけど同じ講義取ってないから滅多に会わねえんで連絡先交換してないし、だいたい今吉が一緒だから聞くに聞けなくてさ」
 黛さんは露骨に嫌そうな顔をした。
「strkyにも今吉から誘われたけど、妖怪サトリとあんまり接点作るのはなんか怖いから同級生の樋口を紹介して逃げた。まあオレがジャバウォック相手にミスディレクションかました後で黒子を起用した場合、敵にミスディレクションの耐性がついてた可能性があるから、結果的にはオレはstrkyにいなくて正解だったと思うが」
 strkyのメンバーは全員キセキ獲得校の卒業生だ。樋口さんというのはたぶんボクには見覚えがなかった小柄な黒髪の人のことだと思う。
 樋口さんは知らないが他のメンバーの高校時代のポジションはPG二人、SF一人、C一人だからPFの黛さんがいた方がバランスがよかったのはたしかだ。
「結果論はそうだったかもしれないですね。でもボク、黛さんのプレーを見てみたかったです」
「?インターハイで見ただろ」
「あの時は影として本領発揮してなかったじゃないですか。ウィンターカップ決勝は会場で見てたけど遠かったし。影として機能してる黛さんがどんなパスを出すのか間近で見たいし、もっと言えば、自分にもパス出してほしいです」
 黛さんは爽やかに笑って言った。
「じゃあ次のお前のオフはストバスでも行こうか。弁当持って来てくれるよな?」
 わあ、話がそこに戻って来ちゃった。
「...ハイ」 
 ボクがドキドキしながら交際の申し込みを了承すると、後ろからパチパチと拍手の音がした。
「黛さん、告白成功おめでとうございます」
 振り向くと、そこにいたのは黒子クンだった。
「お前...いつからそこに...」
 黛さんは苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
 黛さんにとっては高校最後の公式戦のウィンターカップ決勝で負けた相手だし、影としてのライバルだった相手だし、同属嫌悪のようなものがあってもおかしくない。
「ボク今口説かれてます?って桜井君が聞いたあたりから後ろにいました。赤司君が心配していたので両思いとめでたく判明したと報告します」
「心配って...黛さんはボクの恋人ですから、たとえ赤司君でも絶対負けません」
 黛さんをボクより先に見つけたり、アイコンタクトとかボクに出来ないことが出来る赤司君だけど、それでも絶対負けないと決意して宣言すると黛さんがボクをあやすように髪を撫でた。
「赤司が好きなのはこいつだから取り越し苦労しなくていいぞ。あいつは旧型のシックスマン君のことが好きすぎて影の薄さが似てただけのオレを新型に仕立て上げたぐらいだからな」
 こいつ、と言って視線を誘導された先にいたのは黒子クンだった。
 なんだ、赤司君は黒子クンのことが好きだったんだ。
 心配して損した。
 赤司君のことをあいつって言った時の黛さんの表情はなんだか優しくて、ちょっと気になるけどボクが青峰さんの話してた時みたいな感じであくまでもプレーヤーとして、元チームメートとして好きなだけなんだよね?
「黛さんのその、赤司君のことをなんでも分かってるみたいなところが嫌いです」
「お前が今よりもっと赤司を分かってやればいいだけだろ。心配しなくても、オレにはかわいい恋人がここにいるから、他に目移りしたりしねえよ」
「公共の場でイチャイチャするのはやめて下さい。個人的には、Strkyに黛さんがいなかった謎が解けてスッキリしました。そろそろ失礼します。どうぞお幸せに」
 黒子クンは言いたいことを言うだけ言って人混みに紛れて立ち去った。
「行ったか...」
 黛さんはふう、と気だるげにため息をつくと、ボクの手を取り、恋人繋ぎした。
 身長が高いだけあって、手も大きいなって、そうじゃなくて。
「ま、黛さん?何してるんですか、スイマセン」
 周りには人が結構いるのに!
 ボクが小声で聞くと、黛さんはいたずらっぽく笑った。
「手を繋ぐの、ダメか?それとも、人がいないところでならいいか」
 黛さんってこんなふうに笑う人だったのか。
 試合中は笑顔にならなかったのでさっきの爽やかな笑顔も優しい微笑みも今のいたずらっぽい笑い方も全部が新鮮で、かっこいい。
「...ドキドキするので、手を離して下さい...」
 ちょっともったいないけど心臓がもたないので手を離してもらい、黛さんのパーカーの袖をそっとつまむ。
「だ、ダメですか?」
 スイマセン、と上目遣いに見つめると黛さんは赤面した。
「ダメじゃない...、これはこれで萌える...。一年の時から強豪バスケ部のレギュラーで、料理がうまくて絵心もあって、おまけにこんなにかわいいとかスペック高過ぎだろ、お前」
「そんなこと言ったら黛さんの後輩で高校時代の相棒の方がもっとハイスペックじゃないですか」
 キセキの世代の赤司君は名家のおぼっちゃんで文武両道の洛山で生徒会長やってる優等生で、しかも彼は一年の時から主将なのだから勝ち目がない。
 ボクがちょっといじけると黛さんは苦笑した。
「あれは住む世界が違うエイリアンだから例外。お前『ボクに勝てるのはボクだけだもん!』なんだろ?お前のかわいさはカンストしてるから、勝てる奴はいないよ」
 え?
 それって、今吉さんが歌を歌うと聞いた青峰さんに脅されて隠し撮りしに行った時に見つかって今吉さんに言わされたアレのこと言ってる?
「な、なんで知ってるんですか!」
「今吉に録画見せてもらった。短いけどすげえかわいかった....だから自信持て。オレの目から見て、お前以上にかわいい奴はいない」
 何勝手に見せてるんですか今吉さん!
 さらっとのろけられて、ボクも負けずに言った。
「黛さんだって、インターハイ優勝、ウィンターカップ準優勝達成した強豪のレギュラーで、年末まで部活してたのに優秀な大学に合格出来ちゃうぐらい頭がよくて、度胸があって言うべきことをハッキリ言えて、チームのために献身的なプレーが出来る人で、後輩思いで、行動力もあるかっこいい人です。大好きです...」
 顔熱いよお。
 ボク達は二人とも顔真っ赤にしながら機体工場見学に行った。
 おかげさまで今まで見たことないものがいっぱい見られて楽しい一日だった。


 
 おしまい。





 補足。
 黛さんがあいつと呼んだ赤司君は僕司君の方です。
 映画の中で出てきた空港って成田とか羽田とか描写されてましたっけ?
 そこまで覚えていないのでぼかしましたが、機体工場見学自体は羽田、成田どっちでもやっているようです。
 昔、羽田空港のは行ったことがあるんですが、予約がすぐ埋まってしまう人気っぷりでしたし、実際楽しかったです。成田の方はどんな感じか体験してないんですが、ネットで見る限りは面白そう。
 せっかく空港まで来た以上はキセキと喋ってすぐ帰るだけじゃもったいないかなと思って楽しい空港デートをしてもらいました。よく予約が取れたなとか追及しないで下さい。
 黛さんは黙ってれば影が薄いんだろうけど、会話するとキャラが濃いので外見とのギャップもあってそうそう忘れられない気がします。
 キセキが非キセキの名前を呼んだ例があまりに少ないのと、二人とも自校以外の人からはろくな評価されてなくて関係性の薄いキセキからはまともに名前を呼んでもらえる可能性が低そうなので作中ではあんな感じにしてみました。
 桜井くんは先輩と女子と青峰くんにはさんづけ、それ以外の同学年には君かクンですが使い分けの基準がイマイチ分かりません(緑間くんを緑間君と呼んでたので一応青峰くん以外のキセキは君で統一してみました)。
 黛さんは作中では全員を名字で呼び捨てですが、二人称はお前とあんたとテメエがあるんですよね。カッとなった場面で出たテメエはともかく、お前とあんたの使い分け基準が分からない。あんたは小説しか使ってないなら基本お前呼びでいいのかなとか言葉づかいはかなり悩んで書きました。
 同時多発カプの時は、このカプとこのカプが同時発生しているといいなあという個人的こだわりがありまして、普段は黛赤と赤黛を書いてるので黛桜だと赤司くんが一人になっちゃってかわいそう→黛さん以外の人とくっつくなら黒子くんがいいな→黒赤か赤黒?→青桜ルートを潰しちゃったから青峰くんも誰かを好きなはず→じゃあ青桃かな?みたいな感じで他のカップルもどんどん出来てしまいました。黒赤か赤黒、チャリアはどっちも別腹で好物なので決められなくて明言しないことにしました。
 趣味がラノベを読むこととか漫画をかくとか二人ともサブカルチャー関係なので意気投合しそう。
 黛桜かわいいと一人でも多くの方に思っていただけたなら嬉しいです。
 ここまでお読み下さりありがとうございました。


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