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雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編_第七話 もう一度約束を(その4)
「はな・・・して!」

 腕の中で綾華がもがくが、槙人は一層きつく抱き締めた。
 雪の冷たさと、綾華の体温が伝わる。

「死なせない・・・絶対死なせないぞ」

 抱き締めたまま、槙人は呟く。

「綾華。お前の言う事は信じるよ。確証はないけど、多分本当だと思う。けど・・・それで死ぬのは間違ってるぞ」
「どうして・・・?」
「綾華・・・俺は、本当にお前の事が好きだ」

 一度体を離し、綾華の肩を持ったまま、槙人は言った。

「・・・それが、嘘だって言ってるでしょ?」

 だが綾香は、皮肉めいた口調で冷たく返す。

「お兄ちゃん。あの時の約束、思い出してた?」
「え?ああ・・・」
「私ね、あの日から、一度も泣いてないんだお。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、
泣かなかった。事実上、約束はとっくに果たしてたの」

 可笑しそうに、綾華は笑う。

「それでも今までお兄ちゃんを呼ばなかったのは、私の計画。お兄ちゃんに私を妹だと認識させないための計画だったんだ」

 早くからそばにいては異姓として見られなくなるから。
 あの日から槙人の事が好きだったから、離ればなれでいた。

「私はお兄ちゃんに、私の事を好きになるようにさせたかったんだ・・・。ほら、また成功してる。こんな女、好きになる訳ないじゃない・・・」

 力を利用した計略。まさしく、強制の愛。
 しかし、槙人はゆっくりと首を振った。

「お前にそんな能力がなくたって、俺はお前を好きでいたよ」
「・・・どうして?」
「俺を呼ばなかった事と、計算高かった事に、力は関係ない。条件は一緒だ。一緒に住んでれば、そりゃあ欠点だって見つかるけど、でも、だから・・・愛していけた筈だ」
「この顔も、この体も・・・全て偽りであっても?」
「ああ」

 槙人は力強く頷いた。
 どんなに違っていても、それは「姫崎綾華」だから。

「綾華、お前を・・・この世で一番、愛してる」

 この想いだけは、絶対に真実だと信じて、槙人はもう一度、「綾華」に告白した。
 そして、再び綾華を抱き締める。

「だから・・・逃げないでくれ。俺を置いていかないでくれ」

 自然と、涙が流れる。
 綾華を抱き締めたまま、槙人は声も上げずに泣いた。顔を伝う愛は熱く、そして冷たかった。

「・・・・バカぁ」

 不意に綾華は呟いた。
 そして槙人の背中に手を回して、大声で泣き叫ぶ。

「バカバカバカバカバカ!!どうしてそれが嘘だって分からないのよお!!」

 子供のように綾華は泣きじゃくる。大粒の涙がこぼれているのが肩越しに分かった。

「お兄ちゃんの、大バカッ!!」

 しゃくり上げながら、綾華は腕に力を込める。

「ああ、そうだな」

 優しい声で、槙人は頷いた。

「でも、信じてくれ・・・。この世界にどれだけ嘘があっても、俺はお前を愛してる。これだけは、信じてくれ」

 槙人は、そっと綾華の涙を拭った。

「だから・・・やり直そう。現実に戻ろう」

 嘘を全部捨てて。飾りたてられた虚構を無に戻して、−から。
 「死」という愛ではなく。

「・・・どうやって?」

 目を真っ赤に腫らして、綾華が尋ねる。

「簡単だ。本当にお前に願いを叶える能力があるのなら・・・願えばいい。願いを叶える能力を、今まで叶えた願いを・・・消してくれって」

 願いを叶える能力が嘘でないなら、それが作り出した嘘は消せる筈だ。そしてそこから「真実」が姿を現せる。
 しかし、綾華は頷かなかった。

「できない・・・できないよ、そんなのっ!!」

 力いっぱい首を横に振る。

「だって、今まで叶えてきたものが全部なくなるんだよ!?どんな影響が出るか分からないよ!友達もきっといなくなる!お兄ちゃんもそんな事言ってるけど、絶対変わっちゃうよ!」

 綾華がぎゅっと槙人の服を握り締める。

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